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98 良い知らせと悪くない知らせ

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


マスター「こ、こんなに簡単に、橋を架けちまった・・・」


アイリーン「ね、ねえ。これって、もしかしなくても、向こう岸へ渡ることができるの?」


「そうで~す。これはね? 上の滑車につかまってね、向こうまでびゅぅーって行くの」

「『あ~ぁあ~~っ』て声を出すのがお作法なんだ~」


そう簡潔に【ターザンロープ】の説明をしたワタシは、向こう岸へと向かうべく、早速ねぇねとおにぃを交えてミーティングをはじめます。


「ねぇね、おにぃ、この【ターザンロープ】を使えば、向こう岸へ行けるよ?」

「ワイヤーが坂みたいになっているからね、滑車につかまってるだけで、なにもしなくても向こう側まで動いてくれるの」


おにぃ「それって、あっち側の方が低くなってるってことか?」


「そうなの」


ねぇね「それじゃ、帰りはどうするの?」


「あっ!」 (゜v゜;)


ねぇねからの鋭いツッコミに、それは盲点だったと、思わず膝を打つワタシ。

大急ぎで対策を考えはじめます。


(帰りも坂になってくれればいいんだけど、それは無理だよね~)

(う~ん。単純に、こっちに引っ張ってもらえばいいのかな?)


ということで、本日3回目の【想像創造】です。



【トラックロープ(20m) 線径16mm ビニロン+ポリエステル混紡 切断荷重:約23.54kN(約2400kgf) 7,693円】×2 15,386円



ちょっと太目でしっかりしたロープを2本創り出しました。

1本は、こちら側の支柱と滑車を繋いでおいて、戻ってくるときに引っ張って使います。

もう1本は、大きな輪が何重もできるように滑車の手摺にしっかり括り付けます。

何重ものロープの輪を作ることで、滑車の下で椅子のように座れるようにするためです。


「ロープを1本、滑車に繋いでおいて、帰りはそれをを引っ張ってもらえばいいよね?」

「もう1本のロープで滑車に吊り下げの椅子を作って、そこに座って使えるようにするのはどうかな?」


おにぃ「なるほどな。それなら帰ってこれそうだな」


ねぇね「椅子があるなら、手でぶら下がるより怖くないね」


ワタシたち3人がそんな『川越えプロジェクト会議』をしていると、オトナの2人が異議申し立てをしてきました。


アイリーン「ちょっとあなたたち、まさかこの渓谷を渡る気なの?」

アイリーン「ダメよそんなの、危ないじゃない!」


マスター「そもそもお前ら、あの高い位置にある滑車に手が届かねぇだろ?」

マスター「こちらではオレが手伝ったとしてもだ、向こう岸でどうやって乗り降りするつもりなんだ?」


「あっ!」 (゜v゜;)


マスターさんからの鋭いツッコミに、それは盲点だったと、またもや膝を打つワタシ。

大急ぎで対策をと思ったところで、再びストップがかかりました。


アイリーン「とにかくダメよ! 子供たちは絶対ダメ!」

アイリーン「あなたたちの代わりに、オトナの私たちが行ってくるわ」


ワタシたちのことを心配してくれていることがありありとわかるアイリーンさん。

そんなアイリーンさんには申し訳ないのですが、ワタシたち子供が行かなければならない事情があるのです。


「アイリーンさん、ワタシたちを心配してくれてありがとう」

「でもね? オトナのひとだと、ダメかもしれないの」

「あのね? この【ターザンロープ】はね、50kgまでしか運べないの」

「アイリーンさんの体重は、大丈夫?」


女性に振ってはいけない話題のツートップ。

『年齢』のお話と『体重』のお話。

その後者を、直球ど真ん中でアイリーンさんに投げ込むおチビちゃん。

幼女なワタシに、忖度や配慮といった、高度なコミュニケーション能力を期待してはいけないのです。


アイリーン「え? そ、そうなの? よ、よかったわ~。それなら全然大丈夫だわ~」

アイリーン「ま、まあ? 私ぐらいのプロポーションになると、余裕しゃくしゃくなんですけどね~」


明らかに動揺しながらそう言うと、おもむろに制服のジャケットを脱ぎはじめたアイリーンさん。

少しでも体を軽くしようとしているのが丸わかりです。

50kgを超えているのか否か、自己申告なので判断できませんが、少なくとも『余裕』ではないことだけは確かなようです。

そんなアイリーンさんの言動を『ちょっと怪しいな~』と訝しげに思ったのはワタシだけだったようで、純真無垢なねぇねとおにぃは、アイリーンさんの言を信じ切っているみたいです。


おにぃ「アイリーンさん、オレ達の代わりに、よろしくお願いします」


ねぇね「ありがとうござます。これ、使ってください」


そう言って、以前【想像創造】したバッグセットの内のひとつ、トートバッグを取り出したねぇね。

採った柿を入れるようにと、アイリーンさんに渡しています。

ついでと言ってはなんですが、ワタシもアイリーンさんにお願いをしておくことにします。


「アイリーンさん、【トランシーバー】持ってる? 向こうについたら連絡してね?」


アイリーン「了解よ」


そんなブリーフィングの間に、マスターさんはワタシたちの『川越えプロジェクト会議』のとおりにロープを準備してくれていました。

帰りに引っ張る用のロープと、滑車に椅子のように幾重もの輪っかになったロープ、準備を万端整えてくれたようです。


アイリーン「それじゃあ、行ってくるわね?」


そう言うと、2メートル以上の高さにある滑車のロープ椅子にヒョイと滑り込んだアイリーンさん。

野生動物のような驚きの身体能力です。


マスター「アイツも、ちょっと前まで現役バリバリのハンターだったからな。アレぐらいは朝飯前ってヤツよ」


そうこうしているうちに、ズルズルと向こう岸へ滑りだしてしまったアイリーンさん。


アイリーン「ひゃっほ~! すっご~い! 何だかお尻の上あたりがゾクゾクしちゃうわ~」


そういえば、【トランポリン】でもフィーバーしていたアイリーンさん。

本来のアイリーンさんは、きっと、こんな感じでアクティブな性格なのでしょう。


(【ターザンロープ】は『ひゃっほ~!』じゃなくて、『あ~ぁあ~~っ』なのにな~)


ワタシがちょっとだけ不満に思っているうちに、ものの数秒で向こう岸へたどり着いてしまったアイリーンさん。

早速【トランシーバー】から到着の報告が入ってきました。


アイリーン『おチビちゃ~ん、ヤッホー。無事に到着したわよ~』


かなり上機嫌なアイリーンさん。

対岸を見ると、こちらに向けて片手をブンブン振ってくれています。

そしてワタシが【トランシーバー】でお返事をしようとしたとき、別の聞きなれた声が【トランシーバー】から聞こえてきました。


ベアトリス『お~い。裏門の外にいる人~。聞こえる~?』


『あっ! ビーちゃん様だ!』


アイリーン『え? ベアトリス様?』


ベアトリス『あっ、やっぱりおチビちゃんだった!』

ベアトリス『町の裏門の外に【トランシーバー】が2つあるのは分かったのだけど、衛兵にしてはおかしな場所だったのよね』

ベアトリス『もう1つはハンターギルドの職員さんかしら?』


アイリーン『そ、そうです。ハンターギルドのアイリーンです。ごきげんよう、お嬢様』


ベアトリス『ええ、ごきげんよう。それで、2人は裏門の外なんかで、一体何をしているの?』


『あのね? 川の向こう側に柿を見つけたの』

『だからね、今からアイリーンさんに採ってきてもらうんだよ?』


ベアトリス『川の向こう側? それって、渓谷の対岸ってこと?』


アイリーン『そうなんですお嬢様。おチビちゃんが滑車付きの吊り橋のようなものを創り出しまして』

アイリーン『ちょうど今、私がそれを使って川を渡ったところなんです』


ベアトリス『吊り橋? 今、橋って言ったのかしら!?』


アイリーン『そうです。まあ、吊り橋というか、どちらかというと、綱渡りみたいになってますけど・・・』


ベアトリス『それでも凄いわ! 川を渡れたのでしょ?』


アイリーン『はい一応。かなり手に汗握る感じでしたけど・・・』


ベアトリス『素晴らしいわ! 何て良い知らせなのでしょう!』

ベアトリス『上手く使えれば、領境の閉鎖問題も、どうにかなるかもしれないわね』

ベアトリス『良い知らせを聞かせてくれて、ありがとう』


アイリーン『い、いえいえ』


ベアトリス『それでね? 実はこちらからもお知らせがあるの』

ベアトリス『昨日のおチビちゃんからの情報通り、市場関係者に病気になった人が数人確認できたわ』

ベアトリス『そして、その主因たる人物も、ある程度特定できたの』

ベアトリス『聞き込みの結果、病気になった人は全員、隣の領地から豚肉を売りに来た人物と接触していたみたいなの』

ベアトリス『そしてその人物は、妙な咳をしていたみたいなの』


アイリーン『それってつまり・・・』


ベアトリス『ええ。病の発生源はこの町ではない可能性が高いわ』


アイリーン『よかった!』


ベアトリス『それと、この町で病気にかかった人は、全員対応を終えることができたわ』

ベアトリス『早期に発見できたので、市場関係者の少人数にとどまったこと。これはおチビちゃんからの情報のおかげね』

ベアトリス『それと、薬師ギルドから提供された万能薬、『簡易エリクサー』のおかで、全員完治することができたわ』

ベアトリス『まあそのかわり、ビックリするぐらい凄い金額を請求されたみたいだけど・・・』

ベアトリス『とにかく、この町での病の流行は、市場関係者の少人数だけで何とか食い止めることができたわ』

ベアトリス『ということで、こちらからの報告も、悪くないお知らせでしょ?』


アイリーン『はい。教えていただいて、ありがとうございます』

アイリーン『最悪の事態にならずに済んで、ホッとしました』


ビーちゃん様とアイリーンさんのやり取りを黙って聞いていたおチビなワタシでしたが、ここで満を持して口を開きます。


『ビーちゃん様、あのね? そのお薬はね、ねぇねとおにぃが作ったんだよ? すごいでしょ~』 <(*゜ω^*)>


大好きなねぇねとおにぃを自慢できるタイミングは、決して見逃さないワタシ。

見えるはずがない【トランシーバー】の先のビーちゃん様に向けて、いつものムフンと胸をそらせたポーズまで決めてしまいます。


ベアトリス『え? お薬って、薬師ギルドの『簡易エリクサー』のこと?』


『そうで~す。ねぇねとおにぃにしか作れないお薬なんだって~』


ベアトリス『それは、本当に凄いわ! あの薬がなかったら、今頃どうなっていたことか・・・』

ベアトリス『ありがとう。もう、『シュッセ』の3人には、助けられてばかりだわ!』


『えへへ。どういたしまして~』 (´ω`)ゞ


ねぇねとおにぃの自慢もできて、しかも、おともだちのビーちゃん様から『シュッセ』の3人を褒めてもらえました。

アピール大成功とばかりに、手にした【トランシーバー】に向かって、いつも以上にムフンと小鼻を膨らませちゃう、大変満足気なおチビちゃんなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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