表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/110

97 町の外と見覚えのある木

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


そんなこんなで、この町に急報がもたらされた翌日。

この町に病気がはやっているかもしれない、物流が止まるかもしれない、そんな状況らしいのですが、ワタシたち3人はいつもと変わらない穏やかな起床です。

いつもどおりに炊き込みご飯の朝食を美味しくいただき、野草のお茶で一服していると、前日の宣言どおり、アイリーンさんとマスターさんがワタシたちをお迎えに来てくれました。

昨日いろいろとお話したこともあってか、その声色は、心なしか今までよりフレンドリーに聞こえてきます。


アイリーン「みんな、おはよー」


マスター「よぉ!」


「「「おはよーございまーす」」」


マスター「ん? 何だか香ばしい香りがするな。それはお茶か?」


「そうで~す」


おにぃ「これ、おチビが教えてくれた野草のお茶なんです」


ねぇね「おいしいですよ? よろしければどうぞ」


マスター「おぅ。催促したみてぇで、何だか悪ぃな」


アイリーン「それ、後味もスッキリしていて、おいしいのよね~。私もいただくわ」


そんな和気あいあいとした朝のひと時を過ごした後は、2日に1度のいつもの納品のため、【ジョシュア雑貨店】へ向けて出発です。

最近連日のようにご活躍いただいているマスターさん駆動の【三輪自転車】と【リアカー】の人力タクシーで送ってもらったワタシたち3人は、いつもどおりのご挨拶で【ジョシュア雑貨店】に入店です。


「「「おはようございま~す」」」


するといつものように、お店の奥から、ジョシュアさんとジェーンさんがワタシたちを出迎えてくれました。


ジョシュア「やあ君達、今日も納品、ご苦労様」


ジェーン「『シュッセ』のみんな、いらっしゃい」

ジェーン「あら? 今日はお連れさんも一緒なのかい?」


アイリーン「奥さんはじめまして。ハンターギルドの職員でアイリーンと申します」

アイリーン「ジョシュアさんとは、ギルドで何度かお目にかかっています」


マスター「邪魔するぜ」


こんなご挨拶があった後、いつもどおりの品物を【想像創造】して納品を終えると、待ってましたとばかりに、ねぇねがジェーンさんに駆け寄りました。


ねぇね「ジェーンさん。あの、これ、使ってください」


そう言って、ねぇねがボディバッグから取り出したのは、昨日確保しておいた【マスク】と【栄養剤】。

真剣な表情ながらも、どこかうれしそうに、ジェーンさんに使い方を説明しています。

その様子を横目に見ながら、アイリーンさんがジョシュアさんとお話をはじめました。


アイリーン「ジョシュアさん、こちら、当方の支部長からの手紙です」


ジョシュア「はて、ハンターギルドの支部長さんが私にですか?」


アイリーン「実は最近、商業ギルドも巻き込んで、ハンターギルドは業務が立て込んでまして、そのお手伝いをお願いできればと」

アイリーン「詳しくは手紙をお読みいただければと思いますが、是非ともご一考ください」


ジョシュア「なるほど、そういうことでしたか」

ジョシュア「後程じっくり拝読させていただきましょう」


そんなちょっといつもと違うやり取りもありつつ、全ての用件が終わったワタシたちは、お店をお暇することにします。


「町で病気がはやっているかもしれないので、気を付けてくださいね?」


おにぃ「病気は怖いですから・・・」


ねぇね「ジェーンさん、【マスク】と【栄養剤】使ってください」


ジェーン「気を遣ってくれて、ありがとうね」


ジョシュア「君達も気を付けるんだよ?」


「「「は~い」」」


ということで、今日の任務は完了してしまったので、あとはお家に帰るだけなのですが、ワタシたちがお店の外に出ると、町の様子がどこか騒然とした雰囲気になっていました。

【ジョシュア雑貨店】に来た時は、いつもよりちょっとだけひとが多いかな? 程度だったのですが、今はちょっとしたお祭り程度の混雑ぶりです。


マスター「よお、ちょっと聞いてもいいか? 人が多いみてぇだが、何かあったのか?」


通行人「ん? オレも詳しくは知らねえが、どうやら市場が閉鎖されて、その影響らしいぞ?」

通行人「市場に来たが中に入れない、そんな連中の列が続いて、この有様って感じなんだろうぜ?」


マスター「そういうことか、ありがとよ」


マスターさんによる通りがかりのひとへの事情聴取によって、状況が大体わかりました。


アイリーン「このまま来た道を帰るのは、ちょっと大変そうよね?」


マスター「ん~、かといって、裏道は使いたくねぇし・・・」

マスター「ん? 裏門方向、あっちは混んでなさそうだな」

マスター「よしっ。いっちょ裏門から町の外に出て、正門までグルっと回る感じにするか」

マスター「そうすりゃ、市場付近を迂回して帰れるんじゃねぇか?」


アイリーン「ん~、そうね~。市場が混雑の原因っぽいし、その方が早いかもしれないわね」


そんなオトナの2人による協議の結果、なんとワタシ、思いがけず町の外デビューすることになっちゃいました。

前世の記憶が戻ってから、それ以前の記憶が曖昧になっているので、もしかすると町の外へ行ったことがあるかもしれませんが、ワタシが覚えている限りでは町の外へ出たことはありません。


おにぃ「門の外に出るんですか?」


「町の外へ連れてってくれるの?」


マスター「ん? まあ、結果的にはそういうことになるな」


アイリーン「あくまで緊急回避的な、ちょっと町の外を通るだけなんだけどね」


「やったー! ワタシ、町の外に出るの、はじめてなんだ~」


ねぇね「おチビちゃん、よかったね~」


「うん! とっても楽しみ!」


ということで、『急がば回れ』ではありませんが、急遽『遠回りして帰ろう』イベントの開催です。

そうと決まれば、すぐさまみんなでマスターさんタクシーに乗りこみ、ウキウキワクワクで町の外へ向けて出発です。

しばらくごった返したメイン道路を進み、そして人通りが少なくなってきたと思うころには、マスターさんが裏門と呼んでいた場所にたどり着きました。

そこには衛兵さんが4人立っているだけで、通行人は誰もいませんでした。


マスター「ここは裏門だ。この先は山へと続く草原と森しかねぇから、ほとんどの住民は使わねぇ。だから裏門なんだ」


アイリーン「でも、ハンターは採取でよく使うから、覚えておくといいわよ?」


「「「は~い」」」


そんなレクチャーを受けつつ、衛兵さんに軽く会釈して裏門をくぐり抜けると、目の前には一面緑の草原、そしてその奥には、深い森に覆われた山脈が見えてきました。


(あまり高くないけど、木々の密度がすごい山脈だね~)

(前世の記憶で例えると、富士山の周りにある、いろいろとミステリアスな樹海みたい)


そんなことを思っていると、ねぇねがちょっとはしゃいだ声をあげました。


ねぇね「あっ! あっちの方から、川の流れる音が聞こえてくるよ!?」


【熱気球】でお空を飛んだとき、この町の近くを大きな川が流れているのを目にしました。

ねぇねが言っているのは、きっとその川の流れる音なのでしょう。


アイリーン「すぐそばにロータル川が流れているわよ。少し見に行ってみましょうか」


ねぇね「いいんですか?」


アイリーン「ついでよ、ついで。ね?」


マスター「まあそうだな。どうせすぐそこだしな」


「やったー!」


そうして連れてきてもらったのは、想像していた川とはかなり違っていました。


「これって、谷川?」


アイリーン「そうね。渓流? 渓谷? この辺りはそんな感じね。ここから水面まで、たぶん10メートルはあるんじゃない?」


【熱気球】で上空から見たときはわかりませんでしたが、川面まではかなりの崖になっていました。


(川岸で水遊びしたかったのに~、ざんね~ん)


そう思っていたのはワタシだけではなかったようで、ねぇねもちょっとがっかりです。


ねぇね「川に入れないんだ・・・」


川幅はどれくらいなのかと見てみると、対岸までの幅も優に10メートル以上はありそうです。


マスター「この辺は大体こんな感じだからよ、橋を架けるのもなかなか難しいってな訳よ」


そんなマスターさんの説明を聞いていたら、ねぇねがなにかを見つけたみたいです。


ねぇね「あっ! 川の向こう側に柿の木がある!」


「え? 柿? ねぇね、柿を知ってるの?」


ねぇね「うん。お里にいた時、お母さんと一緒によく食べたの」

ねぇね「たまに苦くて渋くておいしくないのがあるけど、当たりの柿は甘くておいしいんだよ?」


ねぇねのお話から察するに、どうやらこの世界にも、渋柿と甘柿があるみたいです。

ねぇねが見つめる先、対岸の崖のその少し奥には、たしかに橙色の果実らしきものを実らせた木が見えます。


ねぇね「私、向こう側に行きたいっ! あの柿を、採ってみたいっ!」


きっとねぇねにとって、柿はお母さんとの思い出の食べ物なのでしょう。

いつになく強い意志表示をしているねぇねです。


(ねぇねが谷川の向こう側へ行きたいって言ってる! これは絶対かなえなくっちゃ!)


そう思ったワタシは、なけなしの知性をフル回転です。


(う~ん。橋を架けられたらいいんだけど、きっとすごく高額だよね?)

(それこそ何百何千万円するだろうから、今すぐには無理かな~)

(となると、ロープとかで・・・、ん? そうだ! アレなら!)


ということで、思いついたアレを【想像創造】です。



【ターザンロープ(支柱、滑車付き) 行程22900mm 支柱幅2000mm 支柱高2770mm 支柱・梁:スチール(電気亜鉛メッキ処理・ウレタン樹脂塗装仕上げ) 継手:ダクタイル鋳鉄(ウレタン樹脂塗装仕上げ) 重量制限50kg 20m引き寄せロープ付き 895,000円】



前世では、数ある公園遊具の中でも、ズバ抜けた人気を誇っていた【ターザンロープ】。

『ロープウェイ』や『ジップライン』とも呼ばれる、わんぱくキッズ御用達のライドオン遊具です。

手前の支柱と奥の支柱との間隔が20メートル以上あるそれを、川の対岸へ渡すような感じで【想像創造】してみました。


(やったー! イイ感じに谷川をまたいで設置できた!)

(お名前は【ターザンロープ】だけど、実際はロープじゃなくて、滑車付きの2本の金属製ワイヤーだから丈夫で安心)

(これなら、滑車にぶら下がって、びゅーって、川の向こう側に行けるよね?)

(よ~っし。これで向こう側に渡って、ねぇねのために柿をいっぱい採っちゃうぞ~!)


驚きに言葉を失っている周囲をよそに、ひとり対岸の柿へと思いをはせるワタシなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ