95 急報
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
ハンターギルドでの大量の納品を終えた後、【ボードゲーム】の使い方を教えるという名のもとに、ハンターギルドの幹部のみなさんといっしょに【ボードゲーム】を楽しんだワタシたち。
おチビなワタシは、大勢のひと、特にオトナのひとといっしょにゲームをするのははじめてのことだったので、うれしさのあまり、【ボードゲーム】のレクチャーそっちのけで、必要以上にキャッキャとはしゃいでしまいました。
そうこうしていると、時刻はもうすぐお昼、そんな時間になりました。
とても充実した時間を過ごしたワタシは、やり切ったとばかりに、大変満足気な表情でお家に帰ります。
帰路の途中、ハンターギルドの裏庭の広場を通ると、例の鍛冶ギルドのちっちゃいおじさんたちは、未だに【出前機】をアレコレといじっていました。
マスター「オレは裏庭の広場に残る。午後からの【三輪自転車】と【リアカー】の引渡しがあるからな」
アイリーン「私はおチビちゃんたちのお家にお邪魔していいかしら?」
「もちろんいいで~す」
ねぇね「ぜひぜひ」
おにぃ「おチビを見ていてくれると、ありがたいです」
ねぇねとおにぃはこれから【簡易エリクサー】作成の内職があるので、お家を通り過ぎて、そのまま出勤です。
その間のワタシの子守りは、今日はアリスちゃんとアイリーンさんの2人体制になるみたいです。
「ねぇね、作業が終わったら、また【トランシーバー】で連絡してね?」
ねぇね「うん。早く終わらせて、すぐ戻ってくるね~」
おにぃ「それじゃ、行ってくるな~」
「いってらっしゃ~い」 (^◇^)/~~
そんなやり取りをしていたら、アイリーンさんから質問が飛んできました。
アイリーン「ねえおチビちゃん、その【トランシーバー】のこと、詳しく教えてくれない?」
考えてみたら、【トランシーバー】のことはアイリーンさんにちゃんと報告していませんでした。
「えっとね、この【トランシーバー】を使うとね、離れたところにいるひととお話ができるの」
「だからね、ねぇねとおにぃがお家から離れても、すぐに連絡ができるんだ~」
アイリーン「え? そうなの? てっきりベアトリスお嬢様としか会話できないと思っていたわ」
アイリーン「凄いじゃない! そんな便利な道具があるなんて」
「あっ、でもね、あまり遠すぎると【電波】が届かないから、お話できなくなっちゃうの」
「【電波】で遠くまでお話できるのは、ビーちゃん様だけなんだよ?」
「ビーちゃん様の【電波】魔法って、すごいんだ~」
アイリーン「ベアトリス様の魔法、凄かったのね? 噂では、『ハズレ』属性として有名だったに」
「違うよ! 『ハズレ』なんかじゃないよ! ビーちゃん様の魔法は、とっても便利なんだよ!」
「ビーちゃん様の魔法は、領主館にいてもワタシとお話できるし、それに【トランシーバー】のある場所がわかるみたいなんだよ?」
「すごいでしょ? ビーちゃん様の【電波】魔法は、とっても『アタリ』なんだよ?」
アイリーン「領主館にいながらおチビちゃんとお話が? それは確かに凄いわね」
そんなお話をしつつ、【トランシーバー】の電源を入れるワタシ。
するとその刹那、まさにその話題の人物から通信が入ってきました。
ベアトリス『お~い、おチビちゃんでしょ~? 聞こえるかしら~?』
『は~い。ビーちゃん様、こんにちは~』
ベアトリス『こんにちは~。おチビちゃんは、今お家にいるのよね? 何してるの?』
『えっとね、ねぇねとおにぃが帰ってくるのを待ってるんだけど、今日は久しぶりにお庭で遊ぼうと思ってるの』
ベアトリス『そうなのね。実はお父様からおチビちゃんたち宛ての手紙を預かってるの』
ベアトリス『遊びついでにそっちに行ってもいい?』
『遊んでくれるの? 待ってる待ってる~』
ベアトリス『それじゃ、今から行くわね~』
『は~い』
【トランシーバー】を使ったワタシとビーちゃん様の会話を聞いていたアイリーンさんは、ビックリ顔です。
アイリーン「本当に凄いわね。たぶん領主館にいるベアトリス様と普通に会話できてるし・・・」
アイリーン「ねぇおチビちゃん、その【トランシーバー】、私たちにも使わせてもらえないかしら」
「えっとね、この【トランシーバー】も電池を使うから、【カメラ】といっしょで、あまり広められないの」
アイリーン「もちろん広めるためじゃなくて、身内というか、ギルド幹部の連絡用に、少数だけ使わせてもらいたいの」
「う~ん、それなら大丈夫かな?」
ということで、本日11回目の【想像創造】です。
【小電力トランシーバー AM送受信 送信出力10mW 単3電池3本 本体重量100g 6台セット 28,990円】×10 289,900円
いろいろ考えたワタシは、ちょっと多めの60台、【トランシーバー】を創り出すことにしました。
(ハンターギルドの幹部のひと用と、あとは、ビーちゃん様ももっと欲しいよね?)
アイリーン「え? こんなにたくさん?」
「アイリーンさんには、この1セットなの。1セットで6台あるんだよ?」
アイリーン「そうね、ギルド幹部の人数分あればいいから、足りるわね。ありがとう」
「あっ、でもね、【トランシーバー】でナイショのお話をするとね、ほかの【トランシーバー】を使っているひとにも聞かれちゃうから注意してね?」
アイリーン「ん? それはつまり、どの【トランシーバー】にも同じ会話が聞こえてしまうということ?」
「そうで~す」
そんなお話をしていたら、ワタシの子守り役、アリスちゃんもやってきました。
アリス「おチビちゃん、こんにちは~」
アリス「わぁ~、なんだか箱がいっぱいだね? また何か出してたの?」
「アリスちゃん、いらっしゃ~い」
「あっ、そうだ! アリスちゃんにも【トランシーバー】あげるね?」
アリス「これって、ビーちゃん様とお話できる魔道具でしょ? もらっていいの?」
「うん。急な連絡とかに便利だから、アリスちゃんも持っててね?」
アリス「ありがと~。大切にするね~」
アイリーン「ちなみに残りはどうするの? かなりの数があるみたいだけど」
「残りはね、ビーちゃん様にあげるの」
「ご領主さまとか、町の衛兵さんとか、連絡用にいっぱいあった方がいいでしょ?」
アイリーン「なるほど、そういうことね」
そんなやり取りのあとは、おチビなワタシはお昼寝タイム。
アイリーンさんとアリスちゃんは【トランポリン】を楽しむということだったので、ワタシは【軽パコ】のリアハッチを開け放って、『寝る子は育つ』という言葉に願いを込めて、ひとり微睡むのでした。
それからしばらくして、周りの騒がしさで目が覚めたワタシ。
眠気まなこをこすりながら起き上がると、ねぇねとおにぃがワタシの顔を覗き込んでいました。
ねぇね「おチビちゃん、目が覚めた? お話聞ける?」
「ふぅわぁ~っ。おはよ~、どうしたの~?」 ヽ(´0`)ノ
おにぃ「よく分からないけど、なんだか大変なことが起きたみたいだぞ?」
ねぇねとおにぃからそんな報告を聞いていると、いつもの護衛さんを連れたビーちゃん様が、慌てた感じで駆け寄ってきました。
ベアトリス「おチビちゃん、大変なことになったみたい。今【電波】で連絡がきたんだけど、隣の領が、我が領との領境を閉鎖したらしいの」
「領境の閉鎖?」
ベアトリス「どうやら隣の男爵領で病気が流行り始めたみたいなんだけど、その原因が我がオーレリア領だと判断したみたいで、一方的に領境を閉鎖してしまったみたいなの」
「領境を閉鎖すると、なにか悪いことがあるの?」
ベアトリス「悪いどころじゃないの。我が領は山と川に囲まれた場所にあるのだけれど、他領に出るには、その男爵領を抜けるしか道がないの」
ベアトリス「つまり、男爵領が領境を閉鎖すると、我が領は外とのやり取りが一切できなくなっちゃうの!」
ベアトリス「王都や他の町との連絡も取れなくなるし、何より物流が止まって町の経済が、町のみんなの生活が止まっちゃうの!」
ベアトリス「隣の領は、普段からちょっとでも何かあると嫌がらせをしてくるから・・・」
ベアトリス「だけど本当にこの町で病気が流行っているとしたら・・・」
とうやら思いのほか大変な状況のようです。
ビーちゃん様の説明を聞く限り、ワタシたちがいるオーレリア領は完全に孤立しちゃったみたいです。
しかも、お隣の領とは、普段からあまり仲良くない、そんな感じみたいです。
(う~ん。一番気になるのは病気のことだよね?)
(もしかすると、昨日のレイラさんの咳、あれとも関係があるのかも・・・)
(とにかく、もっと情報を集めなくちゃだよね?)
ということで、早速ビーちゃん様に提案です。
「ビーちゃん様、あのね、すぐにこの町の状況をいろいろと調査した方がいいと思うの」
「本当にこの町で病気がはやっているのかとか、病気になっているひとがいるなら、どこにどれくらいいるとか、ちゃんと調べた方がいいと思うの」
「それでね、ここに【トランシーバー】がたくさんあるから、これを持って衛兵のみなさんに町を回ってもらって、報告してもらえばいいんじゃないかな?」
そう言って、残り53台ある【トランシーバー】を指し示します。
ベアトリス「そうね。まずは、隣の領が言っていることが本当に正しいのか、状況を正確に把握しなくちゃいけないわね」
そう言うと、ビーちゃん様は何かを念じはじめました。
たぶん、【電波】魔法で関係者に連絡しているのでしょう。
万が一、本当にこの町で病気がはやっているのなら、調査する衛兵のみなさんも感染してしまうかもしれません。
その可能性を少しでも減らすため、レイラさんにも渡したモノを、本日最後の12回目の【想像創造】で創り出します。
【使い捨てマスク 立体3層不織布 ゴム紐 ノーズワイヤー 薄青色 50枚×10箱 1,980円】×600 1,188,000円
無意味かもしれないけれど、備えあれば何とやら、やらないよりやった方がマシ、ということで、マスクを大量に創り出しました。
その数、50枚×10箱×600で、300,000(30万)枚。
この町の人口がどれくらいなのか知りませんが、これだけあれば何とかなるでしょう。
(とりあえず、これを衛兵のみなさんに着けてもらって、住民のみんなにも配ってもらえばいいかな?)
そう思った瞬間、いつものワタシのステータス画面が目の前に現れました。
名前:アミ
種族:人族
性別:女
年齢:5歳
状態:発育不良 痩せすぎ
魔法:【なし】
スキル:【想像創造】レベル13(13回/日 または、13倍1回/日)
いつものように、スキルのレベルアップをお知らせしてくれたみたいです。
(わぁ! 【想像創造】がレベル13になった!)
とりあえず、今日はあと1回、追加で【想像創造】できるようになりました。
ということなので、体力アップの例のモノも【想像創造】しちゃいます。
【第2類医薬品 ドリンク剤 ユンカース栄養液DCF 30ml 3本 1,470円】× 800 1,176,000円
レイラさんにも渡した、ノンカフェインのドリンク剤も大量に創り出しました。
総数は、3本×800で、2,400本。
まずはいろいろと忙しくなるだろう衛兵のみなさんに1本ずつ飲んでもらって、残りは病気のひとがいたら配ってもらうことにしましょう。
マスクと栄養ドリンクのことをビーちゃん様に一通り説明して、早速行動に移ってもらいます。
「ビーちゃん様、昨日ね、市場で変な咳をしたひとがいたって聞いたの」
「そのあたりも調べてもらってね?」
ベアトリス「おチビちゃん、【マスク】と【栄養剤】、そしてその情報、とても助かるわ」
ベアトリス「早速衛兵を手配して、いろいろ調べてみる!」
凛とした口調でそう言うと、またも何かを念じはじめたビーちゃん様。
その立ち居振舞いからは、『上に立つ者』の風格すら感じられます。
(ビーちゃん様、すごいな~。ビーちゃん様、立派だな~)
(ふれーふれービーちゃん様! がんばれがんばれビーちゃん様ー!! ファイトー!!!) (p>_<q)
おチビなワタシには、この町のおかれた状況だとか、町の経済のこととかはよくわかりません。
それでも、目の前のおともだちが、この状況をどうにかしようと一生懸命なことだけはわかります。
そんな、【電波】魔法をフル活用して自領を守るビーちゃん様に、尊敬の眼差しと共に、心の中で声援を送るワタシなのでした。
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