93 寝る子は・・・
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
臨時で開かれた会議も終わってひと段落、そろそろお昼という時間になってきました。
ということで、アイリーンさんとマスターさんに午後からまた付き添いをお願いして、ここで一旦お別れ。
ねぇねとおにぃは【マダムメアリーの薬店】で【簡易エリクサー】作りの内職に、そしてワタシは交代で来てくれたアリスちゃんに見守られながら、今日こそはと、お昼寝に勤しむのでした。
久しぶりのお昼寝を満喫したワタシが目覚めると、どうやらワタシ待ちだったようで、午後からお出かけ予定のみんなが勢ぞろいして、ワタシの様子をうかがってました。
ねぇね「あっ、おチビちゃん目が覚めた?」
おにぃ「みんなもう来てくれたぞ?」
マスター「よぉっ」
アリス「ねぇ、今日は私もついて行っていい?」
起きたてほやほやのワタシは、午後からいっしょの予定のみんなから、一斉にご挨拶をしてもらいました。
ただひとりを除いて。
ぱよょ~ん
ぴよょ~ん
ぷよょ~ん
ぺよょ~ん
ぽよょ~ん
アイリーン「きゃぁ~っ、これすっごく楽しいわぁ~っ」
アイリーン「前に見た時から、ずっと気になってたのよねぇ~」
アイリーンさんは、ビーちゃん様が【トランポリン】でお楽しみの様子を目にしてから、一度試してみたかったようです。
【トランポリン】の中央付近で勢いよく跳ね上がり、両肘両膝を折り曲げて、『きゃるんっ』といった感じでウィンクを飛ばしてくるアイリーンさん。
普段のキリッとした『できる』キャリアウーマン的な雰囲気とは随分とかけ離れた、あざとカワイイ『ギャル』な仕草で、若干はっちゃけ気味です。
(アイリーンさんも、アリスちゃん系なのかな?)
(ストレスとか、いろいろとため込んじゃってるのかな?)
その後しばらくアイリーンさんがご満足いただけるまで待ってから、例によってマスターさんによる【三輪自転車】と【リアカー】の人力タクシーに乗って、みんなで町に繰り出します。
向かう先は、ここ最近のお気に入りスポット、ローラおねえちゃんのお店【ガレットのお店 ローラ】です。
(おいしいホットケーキにクッキー、そして【プリン】もあるから、きっとお店は大人気になってるんだろうな~)
そんなことを予想しつつ、マスターさん運転の人力タクシーに揺られることしばし。
ものの5分程度で、件の店先に到着しました。
しかし残念なことに、お店の様子はワタシの見通しとは違っていて、お客さんは誰もいませんでした。
「ローラおねえちゃん、こんにちは~」
「「「こんにちは~」」」
アイリーン「ごめんくださ~い」
マスター「邪魔するぜ~」
ローラ「あら、いらっしゃいませ~。おチビちゃんたち、今日も元気だね?」
「うん。それでね? 今日もごちそうになりに来ちゃった~」
ローラ「いいよいいよ~。いつでもおいで~」
「ローラおねえちゃん、ありがと~」
そんなご挨拶をして、早速お店の奥のカフェスペースへ行こうとしたら、ローラおねえちゃんのお姉さん、レイラさんがやってきました。
レイラ「あら、みんな、いらっしゃ~い」
レイラ「今日は私の作った【プリン】、食べていってね~」
「は~い。ごちそうになりま~す」
「「「お願いしま~す」」」
そんな会話を交わした後、【プリン】を取りに行ったのか、鼻歌交じりに奥に引っ込んでしまったレイラさん。
その足取りは軽やかで、軽くスキップしているような、そんなご機嫌な雰囲気が伝わってきました。
「ねえ、ローラおねえちゃん。レイラさん、なんだかご機嫌だね? なにかいいことがあったの?」
ローラ「そうなのそうなの。おチビちゃんに教えてもらった【プリン】がね? 商業ギルドに高値で売れたらしくてね? それであんなに大喜びなの」
「商業ギルド? 【プリン】はこのお店では売らないの?」
ローラ「ウチはそうしたいんだけどね~。でも、卵の数の問題であまり数が作れないから、お金になる商業ギルド優先で売ることになっちゃっうんだよね~」
そんなお話をしていたら、レイラさんが【プリン】をトレーに乗せて戻ってきました。
レイラ「みんなお待たせ~。これ、ちょっと失敗しちゃった【プリン】なんだけど、味は問題ないはずだから、みんなで食べてね~」
そしてレイラさんによってテーブルの上に並べられていく【プリン】を見ていると、すべての【プリン】に、【プリン】作成時の『あるある』、失敗【プリン】の特徴が見て取れました。
「あ~、【プリン】に『す』が入っちゃってる~」
レイラ「ん? 『す』って、もしかして、【プリン】のこの、泡が固まったみたいなモノのこと?」
「そうで~す。こうなっちゃうとね、固くなっちゃってぼそぼそしちゃうの。【プリン】でよくある失敗なんだ~」
レイラ「へー、さすがおチビちゃん、詳しいわね~。もしかして、防ぐ方法とかも知ってる?」
「うん、知ってるよ? あのね? 【プリン】はね、蒸すときに高温すぎると『す』が入っちゃうの」
「だからね? あまり高温にならないように蒸すといいんだよ?」
「最初は中火で、あとは弱火でじっくり蒸し上げる感じかな?」
「あと、【プリン】の原液を作るときも、泡が立たないように気をつけてね?」
レイラ「へー、結構慎重に作業しなくちゃいけないのね~」
レイラ「おチビちゃんたちが作ってくれた時は簡単そうに見えたけど、意外と細かい神経を使っていたのね~」
「ワタシにはね? ねぇねとおにぃがいるから、大丈夫なんだよ?」
「ねぇねの水魔法で泡がないなめらかな原液にできるし、おにぃの火魔法でカンペキな蒸し上がりにできるの」
「ねぇねとおにぃの魔法はね、とってもすごいんだ~」 (=´ω`=)
ここぞとばかりに『ねぇねとおにぃはすごいんだよ』アピールをはじめるおチビなワタシ。
小鼻をぷっくりと膨らませて、上機嫌にムフンと胸を張っちゃいます。
おにぃ「そ、そんな大したことはないよ・・・」 (〃∇〃)
ねぇね「わ、私の魔法は、おチビちゃんのおかげだから・・・」 (o^^o)
ワタシがレイラさんに自慢したのが恥ずかしかったのか、ねぇねとおにぃがテレテレしはじめちゃいました。
レイラ「そうだったんだね~。それじゃ、私も――」
レイラ「コホンッ、コホンコホンッ」 (>o<;))((;>o<)
ご機嫌なワタシによるねぇねとおにぃの自慢話の真っ最中、急に乾いた感じの咳をしだしたレイラさん。
それほど苦しそうではないものの、ちょっと心配になっちゃいます。
「レイラさん、大丈夫?」
レイラ「あら私ったら、急に咳き込むなんて・・・」
レイラ「もしかして、市場あたりで良くないモノをもらってきちゃったのかな~」
レイラ「今朝、市場に牛乳を卸すとき、変な咳をする人がいたんだよね~」
ローラ「市場はいろんな所からいろんな人が来るからね~」
ローラ「ねぇちゃん、あんまり変なモノ、ウチのお店に持ち込まないでよ?」
(もしかしてレイラさん、市場で知らないうちに誰かから病気をもらって来ちゃったのかな?)
(病気は最初が肝心って聞いた気がするし、とりあえず、ワタシができることは・・・)
レイラさんとローラおねえちゃん姉妹のお話を聞いたワタシは、早速対処を考えます。
(まずは、咳でみんなに伝染するかもしれないから、アレを【想像創造】!)
【使い捨てマスク 立体3層不織布 ゴム紐 ノーズワイヤー 薄青色 50枚×10箱 1,980円】
(そして、栄養をつけて体力を上げて、病気に打ち勝ってもらうために、アレも【想像創造】!)
【第2類医薬品 ドリンク剤 ユンカース栄養液DCF 30ml 3本 1,470円】× 10 14,700円
まずは、咳と言ったらこれ、ということで、大量の使い捨てマスクを用意します。
そして、ワタシが前世で病気の時にさんざんお世話になった、ちょっとお高めなドリンク剤も創り出しました。
これはカフェインが入っていないタイプなので、飲んでも目がさえて眠れないなんてことはなく、しっかり栄養と睡眠がとれるドリンク剤です。
とりあえずこれでいいかな? そう思った瞬間、いつものワタシのステータス画面が目の前に現れました。
名前:アミ
種族:人族
性別:女
年齢:5歳
状態:発育不良 痩せすぎ
魔法:【なし】
スキル:【想像創造】レベル12(12回/日 または、12倍1回/日)
いつものように、スキルのレベルアップをお知らせしてくれたみたいです。
(わぁ! ビックリした! 【想像創造】がレベル12になったんだね!)
とりあえず、今日はあと1回、追加で【想像創造】できるみたいです。
ということなので、病気の初期症状緩和だけにとどまらず、病気の予防にも使えるモノも【想像創造】しちゃいます。
【第3類医薬品 カバさん印のうがい薬 120ml 1,059円】×10 10,590円
これでうがいをして、喉についた悪い菌を洗い流してもらいましょう。
マスター「お? またおチビがいろいろ出してきやがったな?」
アイリーン「もしかして、レイラさんの病気対策なのかしら?」
「うん、そうなの」
「レイラさん、あのね? すぐにこの【うがい薬】でうがいをして、このちっちゃなビンの【栄養液】を飲んで!」
「【うがい薬】で喉の悪いヤツを洗い流して、【栄養液】で病気に勝つための体力をつけるの」
「そしてね、この水色の【マスク】をお顔に着けてね?」
レイラ「うがいと栄養は分かるけど、この【マスク】というのは何なの?」
「【マスク】はね、咳とかくしゃみで、ひとに悪いモノをうつさないようにするの」
「咳をするとね、悪いモノがぶわ~って飛び散るから、それを防ぐためなの」
「一応、レイラさんとずっと一緒にいたひとは、【うがい薬】と【栄養液】と【マスク】をしておいた方がいいと思うの!」
ねぇね「あのっ、おチビちゃんの言うことは、信用していいと思います」
ねぇね「私たちも、以前から、いろいろ助けられてきたから・・・」
おにぃ「こういう時のおチビは、すごく頼りになるんです。だから・・・」
ローラ「ねぇちゃん、ひとまずこの子たちの言う通りにしようよ」
ローラ「おチビちゃんが教えてくれたことって、今まで全部、役立つことしかなかったしさ」
ローラ「ウチ、今からうがいしてくる」
レイラ「分かったわ。私も、うがいする」
そう会話をしながらお店の奥に向かった仲良し姉妹の背中を見送っていると、おにぃがワタシとねぇねにだけ、コッソリ話しかけてきました。
おにぃ「なぁ。オレさ、例の現物支給のヤツ、今持ってるんだけど」(コソコソ)
そう言って、おにぃがリュックから取り出したのは、銀色に輝く細長い円柱の筒。
それは内職の報酬を毎日ストックするために渡していた【魔法瓶】でした。
ねぇね「それって、もしかして『簡易エリクサー』?」(ヒソヒソ)
おにぃ「ああ」(コソ)
「そっか! これを飲めば、どんな病気でも、びゅ~って直っちゃうんだよね?」(ヒソヒソ)
おにぃ「使ったことないから正直わかんなけど、メアリーさんはそう言ってたよな?」(コソコソ)
ねぇね「いい機会だから、レイラさんにちょっとだけ飲んでもらおっか?」(ヒソヒソ)
ねぇね「たくさんだと、何が起こるかわからなくて、ちょっと怖いし」(ヒソヒソ)
「さんせ~!」(コソコソ)
ワタシたち3人がそんな密談をしていると、マスクを装着した仲良し姉妹がお店の奥から戻ってきました。
レイラ「うがいをしたら、少しスッとしたけど、まだいがらっぽさが残ってるみたい」
レイラ「大事を取って、今日はこのまま帰ることにするわ」
レイラさんが帰っちゃうと聞いて、ワタシはあわてて『簡易エリクサー』について切り出します。
「レイラさん、あのね? 実はもう1つ、とっても特別なお薬があるの」
「ねぇねとおにぃにしか作れない、すっごーいお薬なの」
「きっとレイラさんにも効くと思うから、飲んでみてくださいな?」
ワタシが説明している間に、ねぇねが『簡易エリクサー』を数滴たらしたヨモギのお茶を用意してくれました。
レイラ「ん? お茶? これがお薬なの?」
ねぇね「これはヨモギのお茶ですけど、この中にお薬を数滴入れてみました」
アイリーン「お薬って、もしかして、例のアレを入れたの?」
「そうで~す。例のアレで~す」
マスター「例のアレ? まさかアレのことか? オイオイ、大盤振る舞いじゃねぇか」
レイラ「例のアレ? 良く分からないけど、ハンターギルドの方の口ぶりからして、凄そうな薬なのね?」
レイラ「そんなに凄いんなら、遠慮なくいただくわね」
マスクを下にずらし、『簡易エリクサー』を数滴垂らしたヨモギ茶をグビリと一口飲んだレイラさん。
すると、誰から見ても一目瞭然、効果は覿面だったみたいです。
レイラ「何これ、すっごーい!」
レイラ「喉の痛みとか違和感とか、一気になくなっちゃたわ~」
少し赤みがかっていたお顔の色も元に戻り、心なしか肌つやまでもプルプルになっている気がします。
ローラ「ねぇちゃん、病気が治ったどころか、何だかツヤツヤしてない?」
レイラ「おチビちゃん、そしてお兄ちゃんとお姉ちゃん、ホントありがとう!」
レイラ「喉の痛みどころか、肩こりとか筋肉痛とか、何だかモロモロ気分爽快になっちゃったわ~」
アリス「スゴイ効き目~!」
マスター「たった数滴で、一瞬かよ・・・」(ボソボソ)
アイリーン「まさかこれほどとは・・・」(ボソボソ)
ねぇね「少しだけだったけど、効いてよかったです」
おにぃ「ちゃんと効いたみたいで、ホッとしました」
「すごいねすごいね! やっぱりねぇねとおにぃが作ったお薬は、最高だね!」
「ん~ん、違かった。ねぇねとおにぃが最高なんだね!」 (★>U<★)
おにぃ「おチビ、ほめ過ぎだって・・・」 (。-_-。)
ねぇね「おチビちゃんってば・・・」 (///ω///)
良かった良かったとみんなでワチャワチャしていると、ここで真面目モードのアイリーンさんとマスターさんの声が割って入りました。
アイリーン「レイラさん、そしてローラさん、このことは、ぜひご内密にお願いします」
アイリーン「この件は、我がギルドでも最重要案件なんです」
マスター「何より、こいつら3人の安全に関わる」
マスター「悪ぃが今日のことは他言無用で頼むぜ」
レイラ「これだけの効果ですもんね~、もちろん言いふらしたりなんかしません」
ローラ「ウチも。こんなにお世話になってるおチビちゃんたちの迷惑にはなりたくないしね」
アイリーン「アリスちゃんもお願いね?」
アリス「はい。おばあちゃんからも言われているので、大丈夫です」
そしていつにもまして真剣な表情のアイリーンさんは、続けてワタシたち3人にも語りかけます。
アイリーン「『シュッセ』の3人も、今まで通り、言いふらさないでね?」
アイリーン「それはいざという時の切り札になるでしょうし、使いどころはキッチリ見極めて、大事にしましょう」
アイリーン「何より、あなた達3人の分は、大切にとっておきましょうね?」
「「「は~い」」」
レイラさんは『簡易エリクサー』で快調になったとはいえ、もう少し様子を見た方がいいでしょう。
ということで、レイラさんは大事をとってお家に帰ることになりました。
「レイラさん、お家に帰ったら念のため早く寝てね~」
「病気にはね、睡眠が一番のお薬なんだよ~」
レイラ「は~い。今日はありがとうね~。また会いましょ~」
お別れの声をかるワタシに、笑顔で手を振り帰宅するレイラさんなのでした。
(レイラさんは『簡易エリクサー』で元気になったみたいだから、少し心配だけど、きっと大丈夫だね)
これでレイラさんの咳は一応落着。
ひと段落したので、『それはそれとして』と気分を切り替えたワタシは、テーブルの上に目を移します。
そこには、なおざり気味に佇む、『す』が入った失敗【プリン】があります。
出されたモノはおいしくいただくのがワタシのポリシー、しかも目の前にはワタシの大好物。
という訳で、ここはおチビな幼女っぷりを遺憾なく発揮して、遠慮なくそそくさと【プリン】にとりかかることにします。
『それではお先に失礼して』と、スプーンで一口お口に含んだちょうどそのとき、アリスちゃんがいつもの調子でワタシにささやきかけました。
アリス「おばあちゃんの言うとおり、『簡易エリクサー』ってスゴイ効き目だったねー」
アリス「でも、そんなスゴイお薬は普通は手に入らないから、おチビちゃんの言うとおり、病気のときはよく寝るしかないよねー」
アリス「あっそういえば、『寝る子は育つ』なんて、よく聞くよねー」
アリス「ん? でもそれってホントかな~、なんだかちょっと怪しいよね?」
アリス「だって、おチビちゃんはいつもお昼寝してるのに、おチビのまんまだもんね?」
「え!?」 ガーン(゜д゜lll)
まさかのタイミングで、まさかのアリスちゃんから、まさかの不意打ちを食らってしまったワタシ。
楽しいおやつタイムのはじまりのはずが、厳しい現実を突きつけられてしまいました。
痛いところも意表も同時に突いたご指摘に、お口の【プリン】を飲み込むことができなくなっちゃう、育ち盛り(願望)のおチビちゃんなのでした。
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