92 やっと納品完了
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
おにぃの大切な思い出の場所が、空き地公園として再生した翌日。
今朝も炊き込みご飯の朝食と、野草のお茶で一服したら、【ジョシュア雑貨店】にいつもの納品に向かいます。
「「「おはようございま~す」」」
ワタシたちのご挨拶と同時に、お店の奥から、ジョシュアさんとジェーンさんがいつもどおりの笑顔で出迎えてくれました。
ジェーン「『シュッセ』のみんな、いらっしゃい」
ジョシュア「今日も納品、ご苦労様」
普段どおりの和やかなやり取りでスタートした納品でしたが、最後にジョシュアさんとジェーンさんの会話の中で、気になることを耳にしました。
ジョシュア「聞いた話によると、『オーレリア教会のオーク神父』と呼ばれていた悪徳司祭が捕まったみたいなんだよ」
ジェーン「何でも、御領主さまのお嬢様に無礼を働いて、その場にいた衛兵に、部下の助祭と共に拘束されたんだって?」
ジョシュア「ああ。今この町は、その話題で持ちきりだよ。もちろん、大歓迎という意味でね?」
ジェーン「神様はちゃんと見ていらっしゃるってことなのかねぇ。良かった良かった」
ジョシュア「これでお布施だ寄付だと言い寄ってくる教会の守銭奴たちが、少しはおとなしくなってくれればいいんだが」
ジェーン「後任の神父がまともであることを、それこそ神に祈るしかないのかねぇ」
(うわぁ~。昨日マスターさんの『講義』で聞いたとおり、この町の教会はかなりアレなんだね~)
そんな最新のトピックを仕入れつつ、【ジョシュア雑貨店】での納品を終えたワタシたち3人は、ハンターギルドの受付に赴き、ワタシたちの専属、アイリーンさんに納品完了手続きをお願いします。
そして続けて、アイリーンさんを伴ってハンターギルドの裏庭の広場へ足を運び、ここ最近の日課である、【三輪自転車】と【リアカー】の納品も行ってしまいます。
(あとちょっとで納品完了だから、はりきって【想像創造】しちゃうぞ~)
【オトナの三輪車 マウンテントライク24インチ 7スピードギア リアショッピングバスケット付き 赤色 43,900円】×25 1,097,500円
【オトナの三輪車 マウンテントライク24インチ 7スピードギア リアショッピングバスケット付き 青色 43,900円】×25 1,097,500円
【オトナの三輪車 マウンテントライク24インチ 7スピードギア リアショッピングバスケット付き 黄色 43,900円】×25 1,097,500円
まずは連続3回の【想像創造】で、一気に【三輪自転車】を創り出します。
これで、【三輪自転車】は、赤色、青色、黄色の各々合計116台ずつになりました。
(納品目標の100台よりちょっと多いけど、予備も含めてということで!)
そして、【三輪自転車】よりお値段が高くて納品数が追い付いていない【リアカー】も、一気に納品完了を目指します。
【アルミ製折り畳みリアカー ノーパンクタイヤ仕様 全長240×全幅116×全高81cm 質量40kg 耐荷重350kg 89,800円】×12 1,077,600円
【アルミ製折り畳みリアカー ノーパンクタイヤ仕様 全長240×全幅116×全高81cm 質量40kg 耐荷重350kg 89,800円】×12 1,077,600円
【アルミ製折り畳みリアカー ノーパンクタイヤ仕様 全長240×全幅116×全高81cm 質量40kg 耐荷重350kg 89,800円】×12 1,077,600円
【アルミ製折り畳みリアカー ノーパンクタイヤ仕様 全長240×全幅116×全高81cm 質量40kg 耐荷重350kg 89,800円】×12 1,077,600円
【アルミ製折り畳みリアカー ノーパンクタイヤ仕様 全長240×全幅116×全高81cm 質量40kg 耐荷重350kg 89,800円】×12 1,077,600円
連続5回の【想像創造】で、【リアカー】を一気に創り出しちゃいました。
今回の納品で【リアカー】を60台納品したので、合計104台になりました。
「やった~! これで【リアカー】も【三輪自転車】も、お~しまいっ♪」 \(*´∀`)ノ
アイリーン「おチビちゃん、お疲れ様。これで全て納品完了ね?」
「うん。予備も必要だと思うから、100台よりちょっと多いけど、いいでしょ?」
そんなお話をしていたら、例によって例のごとく、聞きなれた太いダミ声が割って入ってきました。
マスター「ほぉ? 予備まで用意してくれたのか。そいつぁありがてぇ」
専属のアイリーンさんならいざ知らず、なぜか連日ワタシたちといっしょにいる気がする強面マスターさんもご登場です。
マスター「今の納品で、【三輪自転車】と【リアカー】は、全て納品完了ってことでいいのか?」
「は~い。終わりました~」
マスター「そうか。そりゃ予想以上に早かったな」
マスター「まあそういうことなら、とっとと完了手続きを済ませちまうか」
マスター「アイリーン、例の準備、頼んだぜ?」
アイリーン「了解よ」
そんなやり取りのあと、ハンターギルド2階のいつもの会議室に通されたワタシたち3人。
いつものようにおにぃに抱き上げられて、おチビなワタシ専用のクッション席に座らせてもらっていると、アイリーンさんがハンターギルドの幹部のみなさんを連れてきました。
副支部長「『シュッセ』の皆さん、【三輪自転車】と【リアカー】の早期納品完了、ありがとうございました」
副支部長「それと、突然の会議で申し訳ありません」
副支部長「今回の納品完了に関連して、実は皆さんにご報告とお願いしたいことがありまして、急遽このような場を設けさせていただきました」
副支部長「まずは【三輪自転車】と【リアカー】の対価についてなのですが、現在は『仮』ということで、当ギルドの裏庭の広場の使用権を提供していますが、この際『正式』に、当広場を『シュッセ』に譲渡する、ということでいかがでしょうか」
「え? あの広い裏庭の広場、ワタシたちにくれるの?」
副支部長「そういうことです」
おにぃ「ひぇ~」
ねぇね「すご~い」
副支部長「ただ、【三輪自転車】と【リアカー】の置き場所の問題もありますので、一部を当ギルドにお貸し頂ければと思っています」
支部長「お主たちはこれ以上大金を持ちなくないんじゃろ? だから今回は土地で支払うことにしたんじゃよ」
副支部長「ということなのですが、いかがでしょうか?」
「やったー! ありがとーございまーす!」
「ワタシね? もうあんまり、お金はいらないんだ~」
おにぃ「オレも。お金なんて、たくさんあっても使い道ないしな」
ねぇね「うん。私も」
副支部長「それではこれが、裏庭の広場の権利書になります。詳細は後程ご確認ください」
おにぃ「あ、ありがとうございます」
ワタシたちを代表して、おにぃが土地の権利書を受け取りますが、緊張からか、その手はちょっとプルプルしちゃってます。
副支部長「それともうひとつご報告なのですが、皆さんからお預かりしている投資資金の運用についてです」
副支部長「基本的はに『ユービン』事業に使われているのですが、資金がかなり多額なため、余剰分をその他の分野にも活用させていただいていて、現在、我がハンターギルドオーレリア支部の不動産を中心に投資を行っています」
副支部長「その結果、今までオーレリア支部の全財産は、王都にあるハンターギルド本部が所有していたのですが、今は違くなった、ということになります」
支部長「まあアレじゃ、一応報告までということじゃ」
支部長「そんなこともあったと、頭の片隅にでも入れておいてくれるかの」
「は~い」
おにぃ「分かりました」
ねぇね「ました」
副支部長「最後にお願いなんですが、我がギルドへの納品についてです」
副支部長「実は先日、商業ギルドとの連携体制が整ったのですが、それに伴いまして、干し肉や小袋の蜜といった『シュッセ』由来の商品が大変な人気となっております」
副支部長「そこで、できれば納品の頻度を上げていただけないかと思っているところです」
副支部長「加えてなのですが、納品物の種類についても、増やしていただければありがたいです」
ハンナ「先日の大騒ぎ、たしか【ネッツキッキュー】だったかい? あの時に振る舞われた、不思議な容器に入った【ワイン】、あれを是非とも定期的に納品してほしいんだよね」
ハンナ「ほかにも主食以外で、何かおすすめの商品があれば、その都度追加でお願いしたいんだけどね」
副支部長「ということなのですが、いかがでしょうか」
「納品の回数と種類を増やすのか~。う~ん、どうしようかな~」
「毎日だと大変だから、2日に1回ぐらいなら平気かな? ねぇねとおにぃはどう思う?」
おにぃ「まあ、全部おチビ次第だし、おチビが良ければいいんじゃないか?」
ねぇね「うん。私もおチビちゃんの好きにしていいと思う」
「それじゃね、明日から、2日に1回ハンターギルドに納品するね?」
副支部長「おお! それはかなりありがたい。何卒宜しくお願い致します」
「は~い」
ということで今後ワタシは、【ジョシュア雑貨店】とハンターギルドを1日ごとに代わる代わるで、毎日納品を行うことになりました。
これで急遽行われた会議は無事終了。
みんなが席を立ちはじめたタイミングで、せっかくなのでワタシは最近ちょっと気になっていることを聞いてみることにします。
「あのね? ちょっと聞いてもいいですか?」
アイリーン「ん? どうしたの? おチビちゃん。急に改まって」
「えっとね、最近、マスターさんがいっしょにいてくれるけど、お仕事は大丈夫なの?」
マスター「ハッハッハッ。別にオレは仕事をサボってる訳じゃねぇんだぞ?」
アイリーン「そうねー。内緒にしておきたかったんだけど、実はね? それは私が頼んだことなの」
「え? アイリーンさんが?」
アイリーン「ええ。教会派の動向だとか、ギルドの王都本部の動きだとか、最近いろいろあってね?」
アイリーン「それにあなた達、誘拐されそうになったんでしょ?」
マスター「まあアレだ。『備えあればうれしいな』ってヤツだ」
アイリーン「それ、ちょっと違うわよ」
マスター「そうか?」
「もしかして、マスターさんはワタシたちのことを守ってくれてたの?」
マスター「そんな大層なことじゃねぇけど、まあ一応? 念のためってヤツだ」
「「「ありがとうございます!」」」
意図せず一斉にお礼の言葉が飛び出したワタシたち3人、感謝の気持ちがひとつになっちゃいました。
思いがけないカミングアウトに、ねぇねもおにぃも、そしておチビなワタシも、瞳が少しうるうるです。
スラムで過ごしていた頃には想像すらできなかった、オトナのひとから守ってもらえるという状況、なにより、ワタシたち3人以外のひとから心配される、身を案じてくれるひとがいるというそのことに、うれしさとありがたさがあふれてきます。
(マスターさんって、いつもお暇なのかな?)
少し前までそんなことを考えていたおチビなワタシでしたが、今は恥ずかしさと申し訳なさで、いても立ってもいられなくなっちゃいました。
「アイリーンさん、心配してくれて、本当にありがと~!」
ポフッ
アイリーンさんに飛びついて、感謝のハグをするワタシ。
アイリーン「いいえいいえ~、どういたしまして~」
ふわっと柔らかなアイリーンさんは、ワタシを優しく抱き返してくれました。
「マスターさんも、いつもありがと~!」
テシッ
こちらはハグというよりは、背の高いマスターさんの筋骨隆々な片足にひしっとしがみついただけになっちゃいました。
マスター「お? おぉ。まぁいいってことよ」
それでも、面映ゆそうにお返事してくれたマスターさんの低い声は、おチビなワタシを心地よく包み込んでくれたのでした。
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