91 人気者と嫌われ者
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
ベアトリス「はぁ~い! おチビちゃんとネーネちゃ~ん、もっと頬寄せあって~」
ベアトリス「もういっそのこと、ほっぺとほっぺをくっつけちゃって~」
ベアトリス「それと、オニール君は2人の肩に手を置いてね~」
ベアトリス「そう! そんな感じで~」
ベアトリス「それじゃあ、そのままでね~、はいっ!」
カシャ(パッ)
ウィーン
【鉄棒】の前でポージングするワタシたち3人を、ノリノリで写真撮影するビーちゃん様。
しかもビーちゃん様からは、モデルに対してかなり細かな要求が飛んできます。
(あれ? これってデジャヴ? 前にもあったよね?)
(というかそもそも、【鉄棒】の紹介でこの構図って、どうなのかな?)
そうこうしている間にも、次々と遊具の前に移動させられてはパシャリと撮影されるワタシたち3人。
ベアトリス「この『シャッシン』で、この空き地公園のことをお父様に報告するわ」
ベアトリス「以前から町の空き地問題に頭を悩ませていたから、きっと喜んでくれるはずよ」
全ての遊具を撮影し終えると、ビーちゃん様が撮りたてほやほやの写真をチェックしながら、そんな事情を教えてくれました。
モデルというよりマネキンのようなポージングから解放されたワタシたち3人は、なにはともあれ、ほっと一息です。
そんなとき、出来立てほやほやの公園に、はじめてワタシたち以外のお客さんがご来場したのでした。
女性「あ、あの、すいません。失礼ですが、ベアトリスお嬢様でしょうか?」
ベアトリス「え? ええ、そうですよ?」
女性「先程、お嬢様が教会の強欲神父を捕らえてくださったと耳にしたのですが、それは本当なのでしょうか?」
ベアトリス「ええ。その話は本当よ? 何だかオマケでもう一人、手下の助祭も付いてきたけどね?」
女性「よ、よかった・・・」
女性「これでようやく、あの神父から・・・」
女性「恐喝まがいのしつこいお布施の要求から・・・」
女性「やっと、やっと解放されます・・・」
女性「ベアトリス様、そして神に感謝を!」
そう言うや否や、女性はビーちゃん様の前にひざまずき、そしてその手を取って感謝の意を表しはじめました。
すると、その光景を見ていた近くの住民と思しきひとたちが、ワラワラとビーちゃん様の周りに集まってきました。
一瞬ビーちゃん様の護衛さん2人に緊張が走りましたが、でもそれは最初だけ。
集まってきたみなさんは、次々とお行儀よく、ひざまずいた女性の後ろに並びはじめたのです。
(およよ? これって、ビーちゃん様との握手待ちってことなのかな?)
前世の記憶で例えるなら、まるで有名アイドルの握手会のような感じです。
そんなことを考えていたワタシの目に、ビーちゃん様の【カメラ】以外からのフラッシュが入ってきました。
カシャ(パッ)
ウィーン
どうやらアイリーンさんが、住民のみなさんとの握手に精を出すビーちゃん様を撮影したみたいです。
アイリーン「こちらの『シャッシン』はご領主さまにお渡しください」
護衛1「これはありがたい。感謝いたします」
護衛2「住民から慕われるお嬢様の姿絵、きっとご領主さまも奥方様も、感激なさることでしょう」
大人どうしでやり取りされる金髪美少女の生写真。
一見怪しいこの取引も、これまたどこかで見たことがあるシーンです。
(たくさんのひとに慕われている、笑顔な美少女ビーちゃん様。うんうん、とっても絵になるよね~)
(あっそうだ! ひとがいっぱいいる今なら、みんなにこの場所のことを宣伝できるかも!)
空き地だったこの場所が公園に生まれ変わったことを広める絶好のチャンス、そう考えたワタシは、握手待ちの列に向かって、早速アピール開始です。
「みなさん、あのね! 空き地だったここはね! ビーちゃん様が公園にしてくれたんだよ!」
「今日からここはね、誰でも使っていい、みんなの遊び場なんだよ!」
住民1「ほぉ! 今までずっと手つかずだったこの空き地が」
住民2「ここってずっと立ち入り禁止だったから、この辺りだけ雰囲気が良くなかったのよね」
住民3「公園か! 町中にこれだけ開けた場所があるのも、開放感があっていいな」
住民4「見慣れない大きな物があるみたいけど、あれは何なのかしら?」
住民5「どうやら全部、子供向けの遊具らしいわよ? 先程、ベアトリスお嬢様が自ら実演してらしたもの」
住民6「そうなの? それなら早速、私も子供たちを連れてこようかしら」
こんな感じで、ビーちゃん様人気も手伝って、この空き地公園は近隣のみなさんにすんなりと受け入れられたのでした。
それにつけても、この町でのビーちゃん様の人気っぷりは、絶大のご様子です。
逆に、不思議なくらいに嫌われちゃってる教会のお歴々、ちょっと疑問に感じちゃうレベルです。
ということで、事情通っぽいオトナのひとに、そのあたりのことを聞いてみることにしましょう。
「ねぇマスターさん、なんで教会のひとは、こんなにみんなから嫌われているの?」
マスター「ん? それゃおめぇ、金と権力でいろいろやりたい放題やってるからだろうな」
「なんで教会のひとは、お金と権力があるの?」
マスター「ん~、それにはいろいろあるんだが~、まあ結局のところは、『御使い様のご威光』ってヤツだな」
「御使い様?」
マスター「お? 何だおチビ、御使い様のこと知らねぇのか?」
「うん。なんにも知らな~い」
マスター「そうかよく聞け? 御使い様ってのは、神様から遣わされた賢い人のことでよ、何の前触れもなくいきなり現れては、いろいろな恩恵をもたらしてくれる、とってもありがてぇ存在なんだ」
マスター「この国にも10年ちょっと前までいたんだぜ?」
「へぇ~」
マスター「その10年ちょっと前の話なんだが、突如、この国の王都に御使い様が現れて、生活に苦しむ民衆のためにいろいろと助言してくれてたんだ」
マスター「だがしばらくすると、その御使い様を教会が『保護』することになった」
マスター「御使い様は神の使いなんだから、教会が『保護』するのは当然だ、みたいな感じでな?」
マスター「ところがよ、それが良くなかった。その『保護』以降、御使い様の知識は、民衆には全く伝えられなくなっちまった」
マスター「教会の連中が、御使い様からの知識を己が私腹を肥やすためだけに使い始めやがったんだ」
マスター「私利私欲のために、金を稼いだり、貴族に恩を売ったり」
マスター「要するにだ、教会は御使い様からの恩恵を独占して、富と権力を手に入れたって寸法だ」
マスター「全くひでぇ話だろ? 教会自体はこれといって何にもしちゃいねぇってのによ」
マスター「まあそんなこんなで、今じゃ何を勘違いしちまったのか、教会の連中は自分たちが王侯貴族にでもなったつもりで我が物顔なのさ」
「ふぅ~ん」
マスター「さらに質が悪いことに、この町みてぇな地方の教会にいる『知識がない』連中までも増長しだしたんだ」
マスター「御使い様の知識とか関係なしに、神と御使い様を押し頂く教会は、とにかく偉いんだってな」
マスター「そこからは、教会の古典的かつシンプルな手段で金儲けをおっぱじめやがったんだ」
マスター「よく回る口と理解に苦しむ理論を武器に、教会の威光とやらを笠に着た、お布施という名の強請り集り、神の名のもとに行われる寄付の強要、そんなことが、公然と行われるようになったのさ」
マスター「実際、昨日おチビも見ただろ? アイツらの悪辣な手口を」
マスター「【ネッツキッキュー】祭りに来たオークとその手下、まさに手本のような口車だったろ?」
(オーク? もしかして、あの太っちょ司祭さんのことかな?)
マスター「まあとにかくだ。そんな連中ばっかりだから、教会は嫌われてるってこった」
マスター「教会にもまともなヤツがいないこともないんだろうが、少なくとも、オレは見たことがないし、今のこの町の教会は期待できねぇな」
「そうなんだ~」
そんなマスターさんによる『講義』に興味を持ったのか、ビーちゃん様の写真撮影を終えたアイリーンさんもワタシたちに交ざってきました。
アイリーン「なになに? もしかして御使い様のお話かしら?」
アイリーン「私、その話題には、ちょっとうるさいわよ~」
マスター「ん? 御使い様っていうより、教会の凋落っぷりをだな――」
アイリーン「御使い様が神の御許に戻られてから、かれこれ十数年ですもんね~」
アイリーン「そろそろ新たな御使い様のお姿を拝見したいものだわ~」
マスター「おい、人の話を聞けよ!」
アイリーン「え~、忌ま忌ましい教会の話なんて、おもしろくもなんともないじゃな~い」
アイリーン「そんなことより、もっと夢のある話にしましょうよ~」
アイリーン「あ~あ、早く次の御使い様に来ていただきたいわ~」
マスター「ま、まあそうだな。その意見には、オレにも文句はねぇ」
マスター「だがそうだな~、次の御使い様には、是非とも教会とは距離を置いてほしいもんだぜ」
マスター「もしくはだ。教会の在り方を変える、うんや、今の教会をぶっ潰すぐらいのことをしてほしいもんだぜ」
(へぇ~、御使い様って、そんなこともできちゃうんだ~)
(でもすっごく期待されちゃって、結構大変そうだね~)
(御使い様がんばれ~! 御使い様ファイト~!) \(^▽^〃)
ただの興味本位で聞いた『教会が嫌われている理由』でしたが、マスターさんの『講義』は、意外と重たく難しそうなお話でした。
ついにはアイリーンさんも加わって、御使い様を絡めたオトナの熱いトークにまで発展しちゃいました。
その様子を眺めていたワタシには、神様とか御使い様とか言われても、あまりピンときませんでした。
見たことがない遠い存在ということもありますが、前世の記憶が影響しているのかもしれません。
ということで、最後は完全に他人事モードで、未だ見ぬ御使い様に心の中でエールを送るワタシなのでした。
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