9 普通の反応
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
商談が終わってからの帰り際、ワタシは町のことに詳しそうな女将さんに質問してみました。
「女将さん、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
ジェーン「ん? おチビちゃん、なんだい?」
「あの、ワタシたちでも着られるお洋服を扱っているお店を教えていただけませんか?」
「ハンターらしい服装をしてみようと思ってまして」
ジェーン「洋服? ハンターらしい子供服かい? そうだねぇ~・・・」
こんな感じで教えてもらったのは、【マリー服飾店】。
【ジョシュア雑貨店】から歩いて1分程のご近所さんでした。
(今、ワタシたち、お金はソコソコ持ってますし、住居の心配もありません)
(だからもう少し、お洋服にバリエーションを増やしてもいいですよね)
ということで、お洋服を買いに【マリー服飾店】に来たのですが、に入店早々、
「こんにちは~」
おにぃ「ちは~」
ねぇね「お、お邪魔します」
店員「いらっしゃいませ~って、子供だけ?」
店員「あなたたち、親御さんは?」
ねぇね「えっと、親は、いません」
店員「は? まさか、孤児なの?」
店員「身分証は? ウチの店は身分証なしには商売しないよ」
おにぃ「こ、これ、ハンターギルドの登録証」
そう言って胸元からドッグタグのような登録証を見せるおにぃ。
ねぇねとワタシもおにぃに倣います。
店員「ふぅ~ん。1級のハンターねぇ~」
店員「身分証があるなら、まあいいわ」
店員「それで? なにが欲しいのかしら?」
「ワタシたち、ハンターギルドで採取のお仕事とかをするので、活動しやすいお洋服が欲しいです」
「できれば、タイプの違うモノを、ひとり3着ずつ欲しいと思っています」
店員「ひとり3着? あんたたち、お金あるの? 洋服の値段、知ってるの?」
おにぃ「か、金なら持ってます」
そう言って、おにぃは小金貨を1枚、懐から取り出して見せます。
店員「え? 嘘っ! 金貨? それ、小金貨?」
「そうです。だからお金は大丈夫です。お洋服売ってくれますか?」
店員「え? ええ。もちろんですとも。お客さんですものね?」
おにぃが小金貨を見せたとたん、口調が変わった店員の女性。
(おぉ~、見事なまでの手のひら返し。なんだかコントみたいだね)
その後、その女性店員さんは、いそいそと店内をかけずり回り、ワタシたち3人のお洋服を各々3種類用意してくれました。
店員「先程のご要望通り、3人に3種類、計9セットご用意してみました。いかがでしょう?」
丁寧な口調になった女性店員さんが用意してくれたお洋服は、ちゃんとワタシの言った要望のとおりにタイプを分けてくれたみたいで、町中用、軽作業用、汚れ作業用、そんな感じになっています。
(やればできるじゃないですか~。はじめからそうしてくれていれば、もっと印象が良かったのに~)
そんなことを思っていると、
ねぇね「お値段は、おいくらになりますか?」
店員「はい。9セット合計で、1,350リルになります」
(9セットで1,350リル、ということは、1セット平均、150リルですか)
(150リルが150ドルぐらいだから、18,000~21,000円ぐらい?)
(高いな~、相変わらずお洋服は高いよね~)
(まあ、必要経費だと思って、納得するしかないでしょう)
「ねぇね、おにぃ、買ってもイイよね?」
おにぃ「おチビがイイなら、オレはイイぜ」
ねぇね「私、こんなキレイなお洋服、ずっと欲しかったの」
「じゃあ、買いましょう!」
店員「ありがとうございます」
おにぃが小金貨1枚を支払い、お釣りに大銀貨8枚と小銀貨6枚と大銅貨5枚を受け取ります。
さらに、購入したお洋服の半分をおにぃが持ち、残りの半分をねぇねとワタシで受け取ります。
「ワタシたちみたいな子供には勿体ない、素敵なお洋服、ありがとうございました」
「こちらのお店での、最初で最後のお買い物になるでしょうから、思い出としてよく覚えておくことにします」
本当は『最初の態度が悪かったので、もう二度とこの店でお買い物はしません』と、はっきり啖呵を切りたかったワタシ。
けれど、おチビなワタシがオトナの女性に面と向かって言えるのは、この程度の皮肉がせいぜい。
店員「え? それはどういう・・・」
女性店員さんが何かを言い終える前に、つくり笑顔でそそくさとお店を後にしたワタシたち3人なのでした。
その後、ハンターギルドの裏庭のお家に帰る途中、靴屋さんらしきお店を見つけたので、そこで3人分のちゃんとした靴を購入したのですが、ワタシたち3人に対する反応は先ほどのお洋服屋さんとほぼ同じ。
最初は邪険にあしらわれそうになり、身分証を見せて納得してもらい、お金をチラ見せして、やっとお客さん扱いになりました。
丈夫そうな靴3人分の代金として小銀貨6枚を支払い、その場で靴は履き替えました。
これが親がいない子供のお買い物のリアル。
一般のお店では、『子供だけ=信用がない』という扱いになることが如実に感じられました。
(ワタシたちが汚い格好のままだったら、絶対お店に入れてもらえなかっただろうな~)
「町でお買い物すると、ジェーンさんとジョシュアさんが特別に優しんだって、とってもよくわかったね」
ねぇね「そうなの! ジェーンさんは、困っているとき、助けてくれたの。本当に優しいの!」
おにぃ「いつか、恩返し、出来るといいよな」
「そうだね」
ねぇね「私、絶対する!」
脱スラムを成したワタシたち3人に、新たな目標ができたのでした。
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