表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/110

89 闖入者

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


そんなこんなで、時刻はワタシたち3人がいつもお夕飯をいただいている頃合いになりました。

マスターさんの指揮のもと、ハンターギルドの裏庭の広場にテキパキと作られた『【熱気球】祭り』のパーティー会場。

その一角に設けられたお子様用特設エリアに座らせてもらったワタシたち一行は、おあつらえ向きとばかりに、お夕飯として宴会料理をいただくことにします。

同じテーブルについたビーちゃん様は、ガッツリお食事をするというより、興味深げにいろいろとちょいちょいつまんでいる感じ。

そしてアリスちゃんは、食べようかどうしようかと、ちょっと悩んでいる感じです。


「アリスちゃんどうしたの? お料理食べないの?」


アリス「えっと、食べたいけど、おばあちゃんがお家で待ってると思うし、どうしようかな~」


そんなお話をしていると、その当のおばあちゃんこと、メアリーさんがひょっこりやってきました。


メアリー「おやおや。アリスがちっとも帰ってこないから様子を見に来たんだけど、何だい何だい? この大騒ぎは」


アリス「あ! おばあちゃん! 今ね、みんなで【ネッツキッキュー】祭りをやってるんだよ」


メアリー「【ネッツキッキュー】というのは、あそこで空に浮いてるデカ物のことかい?」


アリス「そうなの。私もおチビちゃんたちと一緒に乗せてもらったんだよ?」


メアリー「ほぉほぉ、それは面白そうだねぇ。どれどれ、老い先短い私もひとつ、冥途の土産として乗せてもらおうかねぇ」


そんな祖母と孫娘のやり取りに、ちょっとお顔を赤らめたマスターさんも加わります。


マスター「オイオイ婆さん、そいつは年寄りの冷や水ってもんだぜ」

マスター「下手ぁすると、そのまま天に召されちまいかねねぇぞ?」


メアリー「はっはっはっ。そりゃあ神様も手が省けるってもんさね」


アリス「も~! おばあちゃん縁起でもないこと言わないで~」


(へぇー、この世界でも、冥途の土産とか、年寄りの冷や水なんて言い方するんだね~)

(前から思ってたけど、この世界って、ワタシの前世の世界といろいろ似てる気がするよね~)


そんなことを考えていると、ちょっとはなれた場所、広場の入り口の方がなにやら騒がしくなってきました。


助祭「何をしておるか、下民ども!」

助祭「空は神の領域であるぞ!」

助祭「神の許しもない卑しい者共が、神聖なる場所に立ち入るなど、決してあってはならない!」


そして現れたのは、以前ワタシたちに指名依頼をしてきた教会の中年男性。

その隣には、でっぷりとして、金ピカの豪華な服装をした、もっと偉そうな男のひともいました。

登場早々、ここにいる全員を見下した感じの、敵意満点の演説をはじめた教会の中年男性。

その内容から、どうやらワタシたちが【熱気球】でお空の散歩を楽しんでいるのがお気に召さないご様子です。


(そういえば、おにぃはたしか、教会が嫌いだったよね?)


そう思い出したワタシは、隣にいるおにぃの様子を伺ってみます。

すると、目を見開いたおにぃが、太っちょなお偉いさんの方を凝視していました。


おにぃ「あいつ、あの神父・・・」


「おにぃ、あの太っちょさん、知ってるひと?」


おにぃ「ああ、知ってる・・・」

おにぃ「あいつは、人じゃない・・・悪魔だ!」


怒りの表情で教会のひとを悪魔呼ばわりするおにぃに、ちょっとビックリなワタシ。

でも、おにぃがそこまで断言するということは、ちゃんとした理由があるはずです。


(おにぃがすっごく怒ってる! あの太っちょさん、きっととっても悪いひとだ!)


せっかくの楽しいお祭りだったのに、突然現れた闖入者の暴言で、水を差されてしまったワタシたち。

まさに冷や水を浴びせられたような気分です。


そんな状況は看過できないとばかりに、教会の2人に食ってかかったのは、この中で一番の体格と強面を誇る、我らがマスターさん。

ちょっとお酒が入っているので、声も大きめになっちゃって、いつにもまして迫力満点です。


マスター「何だあんたら、藪から棒に!」

マスター「せっかくの楽しい【ネッツキッキュー】祭りを邪魔してんじゃねぇよ!」


そんなマスターさんの抗議も意に介していないご様子の助祭さんともう一人のお偉いさん。

強面&大男なマスターさんを目の前にしても、平然と言い返してきます。


助祭「お主、誰に口を利いておる!」

助祭「こちらにおいでのお方がどなたか分からぬのか! 全く、これだからハンターごときの無知な連中は・・・」

助祭「よいか? この方は我が教会の司祭様であらせられる」

助祭「そんな尊いお方にそんな口を利いて、ただで済むと思っておるのか? この下郎が!」


司祭「まあよい、まあよい。こ奴の処分は追々考えるとして、今はそれどころではない」

司祭「あの空に浮いている巨大な物体、アレを我が教会に献納せよ。これは命令である」


どうやら教会のお偉いさんたちがここに来た理由は、【熱気球】が欲しかったからみたいです。


(お空の散歩をしたいのなら、みんなといっしょに並べばいいのに~)


ワタシがそんなことを思っていると、教会の2人の言葉に不機嫌マシマシになったマスターさんが再度抗議をはじめました。


マスター「あ? てめぇらのおつむ、大丈夫か?」

マスター「そんな悪態つかれて、誰が教会なんぞに献納なんかするもんかよ!」

マスター「そもそもここはハンターギルドの敷地内だ。勝手に入って来てんじゃねぇよ!」


助祭「全く、これだから学のないゴロツキは・・・」

助祭「よいか? 大地は神のものである」

助祭「よって、我々教会の聖職者は、どこの誰の土地へでも、自由に立ち入ることが許される!」


司祭「うむ。そして、空は神の領域である」

司祭「よって、空を飛ぶことが許されるのは、崇高で清廉な心を持った、我々教会の聖職者だけである」

司祭「故に、あの浮遊物体を使って空を飛んでよいのも、我々教会の聖職者だけなのである」

司祭「分かったら、さっさとあの大きな浮遊物体を教会に運ぶ手筈を整えるがよい」


おチビなワタシには到底理解不能な理屈を並びたてて、勝ち誇ったように【熱気球】を指さす助祭さんと司祭さん。

理解できなったのはワタシだけではなかったみたいで、マスターさんも二の句が継げずに固まってしまっています。

まるで言葉が通じない、違う言語を話しているような相手とあっては、さすがの強面マスターさんでも勝手が違うご様子です。

そんなときでした。

いつの間にやらワタシたちのテーブルから離れていたビーちゃん様が、護衛さん2人と共に、颯爽と反撃開始なのでした。


ベアトリス「へぇー、教会はいつから『強請り』『集り』が教義に加わったのかしら?」


司祭「おやおや? そこにいるのは、かの有名な『ハズレ姫』ではありませんか?」

司祭「子爵家のご令嬢ともあろうお方が、市井の者共に媚びて、こんなところに顔を出しているとは」

司祭「まともな魔法を使えず、貴族として扱ってもらえないからといって、なんとも嘆かわしいことですなぁ」


ベアトリス「ねえ、あなた。不敬罪って、知ってる?」


司祭「何を言い出すかと思えば。よいですかな? 別に私が『ハズレ姫』と言い出した訳ではありません」

司祭「それこそ、数多の貴族の方々が、あなたのことをそう呼称しているではありませんか?」

司祭「私は貴族の方々に倣っているだけに過ぎません」

司祭「魔法のことについても、事実を申し上げたまでのこと」

司祭「それを何故、不敬罪だと言えましょうや?」


ベアトリス「ふぅ~ん。まあいいわ、今は何とでも言ってなさい?」

ベアトリス「あなたたちが故意に広めた陰口なんて、今の私にとってはどうということはないのだから」

ベアトリス「それより、現在ここで起きている状況を確認させてもらうわね?」

ベアトリス「あなたは今、教会の名を使って、アレを要求している、そういう認識でいいのかしら?」


ビーちゃん様が【熱気球】を指さしながら、教会のでっぷりさんに確認しています。


司祭「えぇえぇ、そうですとも。アレは無学な平民が所有してよいものではございませんからな」

司祭「教会が預かり、正しく管理して、はじめて有効に活用できることでしょう」


ベアトリス「へぇー、教会は知識が豊富なのね?」

ベアトリス「アレの飛ばし方とか、ちゃんと知ってるんだ」


司祭「まあそこは、アレの所有者を出頭させて、我々の認識と齟齬がないか確認しながら、ということになるでしょうな」


ベアトリス「ふぅ~ん。あなたはアレの所有者を教会に出頭させるのね?」

ベアトリス「あ、ちなみにアレの所有者、今は私なんだけどね?」


司祭「は? 今何と?」


ベアトリス「だ・か・ら、アレの所有者は、私なの!」


司祭「・・・」


ベアトリス「そっか~。それなら早速、お父様に報告しなくっちゃね?」

ベアトリス「教会の司祭から『私の』所有物を差し出すよう言われて、しかも使い方を教えるために出頭するよう『命令』されたってね?」


司祭「そ、それは・・・」


ベアトリス「ついでだから、王都の国教会本部にも確認してもらおうかしら?」

ベアトリス「地方の教会の司祭や助祭は、いつから子爵という貴族より上の身分になったの? ってね」


司祭「わ、私は別に、そのようなことは・・・」


ベアトリス「言ったわよ? 私の目の前でね」

ベアトリス「証人もいるわよ? それも100人以上。そうでしょ? みんな?」


「「「「「「「「「「お~!」」」」」」」」」」


司祭「たっ、ただの平民の証言がいくら集まろうと、そんなものどうということはないっ!」


助祭「そうだそうだ! 下民の言葉を誰が信用するというのだ!」


マスター「あのよぉ、一応これでもオレ、ハンターギルドの幹部職員なんだぜ?」

マスター「それなりに影響力はあると自負してるんだがなぁ」

マスター「それに周りをよく見てみろよ」

マスター「ここにいる半分は、この領の衛兵だぞ?」

マスター「それをただの平民と呼ぶかどうか、ちったぁ頭を使って考えてみろよ」


司祭「こんなゴロツキが、ハンターギルドの幹部・・・」


助祭「なっ、何でこんなに衛兵がここに・・・」


ベアトリス「それではもう一度聞くわ? あなた、不敬罪って、知ってる?」


司祭「ぐっ・・・」


助祭「し、司祭様・・・」


ベアトリス「この2人は悪知恵も働くし、それなりに資金も持ってるでしょう。逃亡の可能性があるので、この場で拘束してちょうだい!」


「「「「「「「「「「八ッ!(ビシッ)」」」」」」」」」」


あれよあれよという間に、数十人の衛兵のみなさんに取り囲まれる教会の2人。


助祭「し、司祭様。ど、どうすれば・・・」


司祭「わ、私にこんなことをして、許されると思っているのか!」

司祭「教会が、教会の本部が黙っていないぞ!」


ベアトリス「え? 許されると思っているわよ? 申し開きは裁判ですることね?」

ベアトリス「まあ、不敬罪ぐらいじゃ、大した罰は与えられそうにないけど」

ベアトリス「でも、少なくとも教会の聖職者の地位からは追い落とせそうだわね」


司祭「ふん。これだから無知な田舎貴族の小娘は」

司祭「この程度のこと、教会からの圧力で、何とでも――」


ベアトリス「そう言えば~、教会って~、権力争い、酷いんですってね?」

ベアトリス「少しでも瑕疵が付いたら、周りから蹴落とされちゃうんでしょ?」

ベアトリス「元々あなたたち、権力争いで負けて、教会の本部から都落ちしてこの町の教会にいるのでしょ?」

ベアトリス「そんなあなたたちを庇うような奇特な組織じゃないことぐらい、あなたたちが一番ご存知でしょうに」

ベアトリス「教会の本部が黙っていない? ふふっ。逆に追い打ちを受けるの間違いじゃない?」

ベアトリス「まあそういうことだから、もし教会の本部が出張ってきても、逆にお手伝いしてくれそうよね?」

ベアトリス「叩けばいろいろ出てきそうじゃない? あなたたちの余罪」


司祭「・・・」


助祭「・・・」


最初は『楽しいお祭りに変なオジャマ虫さんが来ちゃったな~』程度に思っていたのですが、最後はかなり大ごとになっちゃいました。

なんと、100人以上のみなさんが見守る中、ビーちゃん様による断罪ショーが繰り広げられちゃったのです。

しかもお相手はこの国で大きな発言力があるという教会のお偉いさん。

そんな大物っぽいひとを、口八丁なビーちゃん様は、ただ会話をするだけで捕まえちゃったのです。

それはあっという間の出来事でした。

あまりにも急展開すぎて、お口をあんぐりと開けることしかできなかったワタシなのでした。


マスター「いいぞ~お嬢様! これでこの町も、ちったぁ住みやすくなるってもんだぜぇ!」


ベアトリス「いいえ。まだまだこんなもんじゃ足りないわ」

ベアトリス「何しろこの町の教会には、まだまだこんな連中がうようよしてるのだもの」


マスター「うへぇ~、この町の教会はどうなってるんだ?」

マスター「まさか何かに呪われてるのか?」


アイリーン「ホントそうよね~、嫌になっちゃう」


引っ立てられていく教会の2人の様子を眺めながら、オトナのひとたちの会話が続きます。


メアリー「ほぉほぉ。うちの領の姫様は、何とも立派におなりだねぇ~」

メアリー「私らがどうにもできなかったこの町の病巣を、見事取り除いてくださった」


メアリーさんの大きな独り言に、うんうんとうなずくギルドの職員さんや衛兵のみなさん。


(すごいね! ビーちゃん様、みんなから褒められてるね!) (゜∀゜)


自信に満ちた笑顔でオトナのひとたちと言葉を交わすビーちゃん様。

お子様組のワタシたちは、そんなビーちゃん様の雄姿を尊敬の眼差しで見つめます。

けれどそうした中、周りとは様子が違うひとがいました。

たったひとり、おにぃだけは、お祭りにはふさわしくない憤怒の表情をして、両手を固く握りしめていたのです。


おにぃ「あいつが、あんなヤツがいなければ・・・」


その怒りに満ちた鋭い視線は、お祭りにはふさわしくない悪態をつきながら、衛兵さんに引っ立てられていくでっぷりさんの姿から、終始逸らされることはなかったのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ