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88 【熱気球】祭り

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


思い立ったが吉日とばかりに、早速行動に移るワタシ。


とてててて


おチビな外見に似合わず意外なすばしっこさを発揮して、【熱気球】の発着地点に近づきます。

そして、その近くでいろいろ指示を出していたマスターさんとアイリーンさんに、早速オファー開始です。


「マスターさん、アイリーンさん、お願いがありま~すっ!」


アイリーン「あらおチビちゃん、どうしたの?」


マスター「ん? お願い? 何をしてほしいんだ?」


「あのね? ワタシたちが【熱気球】に乗るお手伝いをしてくれた、マスターさんや職員のみなさんに、贈り物をしたいの」


アイリーン「贈り物を渡すの? 別にいいわよ?」


マスター「何かくれるのか? もちろん構わねぇぞ?」


ハンターギルドの幹部さん2人に許可をもらえたので、ただちにプレゼントをご用意します。


(オトナのひとが喜びそうなアレを、【想像創造】!)



【いろいろ無添加のおいしいペットボトルワイン 赤 度数11% 720ml 499円】×1,000 499,000円



オトナのひとが喜んでくれそうなモノと言ったらお酒、そんなワタシの独断と偏見で、ペットボトル入りのお手軽な【食卓ワイン】を採択、その数なんと、1,000本です。

おかげで【熱気球】の発着地点付近には、【ワイン】が入った段ボールの山ができあがっちゃいました。


(前にハンターギルドの食堂で、マスターさんから、この国ではお食事時に【ワイン】は絶対欠かせないって聞いたんだ~)

(だからオトナのひとにプレゼントするなら、コレだと思うんだよね~)

(あれ? でもちょっと多すぎたかな?)

(まあ、もし余ったら、マスターさんに食堂で使ってもらえばいいよね?)

(ん? そうだ! たくさんの【ワイン】を対価にして、マスターさんに宴会のお料理とかお願いできないかな?)

(お食事もあった方がお酒だけより絶対うれしいし、なにより『お祭り』っぽいもんね!)


そんな思考展開を頭の中で繰り広げたワタシ。

交渉材料である【ワイン】の山を背にしたワタシは、マスターさんたちに再度オファー開始です。


マスター「何だ何だ? この箱の山は」


アイリーン「凄い量ね・・・」


「えっとこれはね? オトナのひとだけが受け取れる、オトナの贈り物。『山吹色のお菓子』で~す」

「危ないからね、これをもらった人は【熱気球】に乗っちゃダメなんだよ?」


アイリーン「来たぁ~! おチビちゃんからの天使のご褒美ね!」


マスター「それって、つまりは、例のアレか?」


アイリーン「そういうことよ、きっとね?」


マスターさんとアイリーンさんの間で、なにやら意味ありげな会話が交わされていますが、今はスルーです。


「これはね? ペットボトルに入ったお食事用の【ワイン】なの」

「『お祭り』みたいにここで飲んでもいいし、おみやげとしてお家に持って帰ってもいいと思うの」


マスター「ほぉ~、今回の例のアレは【ワイン】なのか」


アイリーン「『ぺっとぼとる』? ガラスとは違う容器なのね?」


「試しに飲んでみてね? ペットボトルはキャップをひねると開けられるよ?」


おにぃ「コップはこれを使ってください」


そう言って、おにぃが【魔法瓶】のフタをアイリーンさんに手渡します。

いつの間にやら颯爽と現れて、すかさずフォローに入るおにぃ、ステキです。


アイリーン「あら、ありがとう。それじゃあ失礼して・・・」

アイリーン「ふぁあ~。全く渋くなくて苦くなくて、後味がスッキリした【ワイン】だわ~」

アイリーン「ほんのりとした甘さと酸味で、何杯でも飲めちゃいそうな美味しさだわ~」


そんなコメントを聞いたマスターさんも、近くの段ボールからペットボトルを鷲掴みにして、こちらは直接ラッパ飲みです。


マスター「オイオイ、オイオイ! 何だこの【ワイン】、嫌味な感じが全くねぇ!」

マスター「こいつぁいけねぇ、全くいけねぇ。飲みやすくて水みてぇにどんどん飲めちまう」

マスター「こんなにうめぇ【ワイン】が山ほど・・・、これってある意味マズイんじゃねぇのか!?」


褒めているのかけなしているのか、美味しいのか美味しくないのか、どっちなんだとツッコミたくなるような口調ですが、どうやらマスターさんにもお気に召していただけたようです。


(これなら交渉できそうかな?)


そう思ったワタシは、今がチャンスとばかりに、マスターさんにネゴシエーション開始です。


「マスターさん、あのね? この【ワイン】、1,000本あるの」


マスター「は? 1,000本だぁ? 何だそのべらぼうな数は」


「それでね? 半分ぐらいを対価にしてね? この広場でみんなで食べられるお料理とかをお願いしたいの」


マスター「ん? それってつまり、ここで宴会をしよう、そう言ってるのか?」


「うん、そうなの。なんだか『お祭り』みたいな雰囲気でしょ? だからね、みんなにパァ~って、楽しんでほしいんだ~」


マスター「その心意気やよしっ! おチビ、万事オレに任せておけ!」


そうワタシに断言してくれたマスターさんは、【熱気球】の列に並んでいるハンターギルドの職員さんたちに向かって、号令をかけはじめました。


マスター「よ~っし、お前ら~、聞いての通りだ! これからこの広場で宴会を行う!」

マスター「会場設営をする者、料理をする者、食器や小物を準備する者、各自分担につけ!」

マスター「ボヤボヤすんなよ? かかれ~!」


「「「「「「「「「「お~!」」」」」」」」」」


またもやどこかの強豪校球児並みの、息の合ったお返事です。


(今度ここで野球をやっても面白そうだよね~)


そんなことを思っている隙に、いろいろなものが広場に運び込まれて、準備が着々と進んでいきます。


ベアトリス「あなたたちも、言われなくても分かっているでしょ?」


「「「「「「「「「「八ッ!(ビシッ)」」」」」」」」」」


その様子を見ていたビーちゃん様に一言言われて、衛兵のみなさんも敬礼と共に動き出しました。

バケツリレーの要領で、テーブルや椅子がどんどん広場に並べられていきます。

そんなこんなで小一時間、時刻は夕方ちょっと前ぐらい。

ハンターギルドの裏庭の広場には、いろいろなお食事が用意されて、さながらガーデンパーティーのようになりました。


マスター「よ~っし! 準備が整ったな~。これより、【ネッツキッキュー】祭りを開催する!」

マスター「なお危険なので、酒を飲んだら【ネッツキッキュー】に乗ることを禁止する!」

マスター「それでは、この祭りの言い出しっぺ兼出資者による開催の挨拶だ。一同、傾注~!」


そう言うと、マスターさんは近くでウロチョロしていたおチビなワタシを片腕でヒョイと持ち上げ、そして自身の右肩の上にワタシを座らせました。


ヒョイ


「え?」 (゜v゜)


なんの前触れもなく、いきなりマスターさんの右肩の上に乗せられて、変則的な肩車状態になったワタシ。

あまりにも急なことだったので、一瞬ビックリ固まってしまいましたが、少し経過すると、前々から憧れだった『高い高い』状態を経験できたのだと理解できて、気分は上々に。

大勢の観衆が注目している状況にもかかわらず、キャッキャとはしゃいでしまいました。


「わーいわーいっ!」 (*^ヮ^*)


おにぃ「おチビ、おチビ。みんな見てるぞ?」


おにぃからそう声がかけられるまで、ニコニコスマイルを大盤振る舞いするおチビちゃん。

それを見ていたお集りのみなさんは、ほがらかほのぼのムードに一変です。

そんなこととはつゆ知らず、おにぃの声でようやく落ち着きを取り戻したワタシは、今の状況を客観的に(なったつもりで)判断します。


(ん? この状況って、アレだよね。マスターさんが、『お祭り』の言い出しっぺのワタシに花を持たせてくれたんだよね?)


マスターさんの心遣いを無碍にしないためにも、ここはビシッと決めるところでしょう。

そう思ったワタシは、ちょっとオトナぶったセリフで、キリリとご挨拶をはじめます。


「え~、本日は、【熱気球】のおてちゅだい、ありがと~ござましゅたぁ~」

「みなしゃんも【熱気球】に乗って、お空のお散歩を楽しんでくだしゃいね~」

「しょれではみなしゃん、『【熱気球】祭り』、開催で~しゅ!」


ビシッと決めるどころか、かみかみでゆるゆるなご挨拶になっちゃいました。


「「「「「「「「「「・・・、お~!」」」」」」」」」」


一瞬『間』はありましたが、それでも聴衆のみなさんから盛大な歓声をいただきました。

みなさんとても寛大だったようで、ワタシの滑舌には誰ひとり触れず、完全にスルーしてくれています。


(『ちょっとだけ』かんじゃったけど、ちゃんとご挨拶できてよかった~)


どうやらおチビちゃんの中では、このご挨拶は(周囲の評価はいざ知らず)まずまずの出来だったみたいです。


ねぇね「おチビちゃん、緊張しちゃったのかな? かんじゃったけど、上手だったよ?」


「ホント? ありがと~」 (*^o^*)


おにぃ「それにしたって、ちょっとかみすぎじゃなかったか?」


ねぇね「いいのいいのそれぐらい。おチビちゃんはそれぐらいの方がカワイイからいいの」


ワタシたち3人がそんなやり取りをしている中、周りではヒソヒソと極秘ミーティングが執り行われていました。


衛兵1「誰だ? あのおチビな女の子」(コソコソ)


衛兵2「ばっかお前、知らないのか? 例のお嬢様のお友達だよ」(コソコソ)


衛兵1「あぁあの話題の。お嬢様の大恩人って聞いてたけど、あんなチビっ子だったのか」(コソコソ)


ギルド職員1「あのおチビちゃんは、あれでも立派なハンターなんですよ?」(ヒソヒソ)


ギルド職員2「ああ見えてやり手なんですよ、あのおチビちゃんたち」(ヒソヒソ)


ギルド職員3「あの子たち3人のチーム『シュッセ』は、人気、実力とも、若手ナンバーワンですもんね?」(ヒソヒソ)


ギルド職員4「今や『シュッセ』はハンターギルドのアイドル、みんなのオアシス的存在なんです!」(ヒソヒソ)


衛兵一同「「「「「分かる!」」」」」(コソコソ)


・・・


マスター「よしよし。どうやら衛兵の連中にも、おチビたちのことがしっかり知れ渡ったみてぇだな」(コソコソ)


アイリーン「ええ。町の衛兵に顔が知られていれば、もしもの時、いろいろと違うでしょうしね?」(コソコソ)


どうやらおチビちゃんのご挨拶には、マスターさんとアイリーンさんによる『裏の思惑』があったみたいです。

なにはともあれ、おチビちゃんのご挨拶よって『【熱気球】祭り』はつつがなく開催されることになりました。

これを機に、ハンターギルドのみならず、町の衛兵のみなさんにも、その存在が広く知られるようになったおチビちゃんなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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