87 お祭り騒ぎ
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『ビーちゃん様、【電波】魔法でお話できるようになったんだね?』
ベアトリス『そうなの! 昨日おチビちゃんと別れてから、衛兵のみんなに【トランシーバー】で手伝ってもらって、いろいろ試してみたの」
ベアトリス『そうしたら、ある時急にスッとお話できるようになってね?』
ベアトリス『私もビックリしているくらいなの』
『へぇー、1日でお話できるようになるなんて、すごいね!』
『でも、どうしてさっき、ワタシのことがわかったの?』
ベアトリス『そう、それなんだけどね? 実は昨日からずっと【電波】魔法を使っていたら、どこにお話できる【トランシーバー】があるのか、頭の中で位置が分かるようになったの』
ベアトリス『それでさっき、衛兵以外の【トランシーバー】が急に現れたから、もしかするとおチビちゃんなのかなって思って、【電波】魔法で話しかけてみたのよ?』
(え? ビーちゃん様は【トランシーバー】の場所がわかるの?)
(さっき、ワタシが【トランシーバー】の電源を入れたのがわかったの?)
(すっご~い! それってもう、【電波】で物を見つける【レーダー】みたいだよね?)
そんなことを考えていたら、ビーちゃん様が本題は別だとばかりに話題を変えてきました。
ベアトリス『おチビちゃん、そんなことより大変なのよ!』
ベアトリス『この町に、花瓶をひっくり返したみたいな形の巨大な浮遊物体が現れたの』
ベアトリス『今、そのことで町中から問い合わせが殺到していて、領主館は大騒ぎなの』
ベアトリス『おチビちゃん、何か知らない?』
ビーちゃん様が【電波】魔法で連絡してきたのは、どうやらこの町に急に現れた巨大な物体のことを確かめるためだったようです。
『あ! ビーちゃん様ごめんなさい。それはね、たぶんワタシのせいなの』 (^^;)
ベアトリス『え? おチビちゃんのせい?』
『そうなの。それはね、【熱気球】と言って――』
素直に事情を白状するワタシ。
まさか、ワタシが大空への憧れをかなえた結果、町がちょっとしたパニック状態になっているとは思いもしませんでした。
ベアトリス『なるほど、そういうことだったのね・・・』
ベアトリス『分かったわ。領主館のみんなには私から事情を説明しておくわね』
『ごめんなさ~い。お願いしま~す』
ベアトリス『いいのいいの、お友達だもの。それくらい当然よ』
ベアトリス『それよりも、私もその【ネッツキッキュー】に乗ってみたいわ!』
『もちろんいいよ! みんなでいっしょにお空に上がれば、きっともっと楽しいよね~』
ということで、ビーちゃん様もすぐに合流することになりました。
そんな無線通話をしていたら、ねぇねとおにぃの交代要員、ワタシの子守り役のアリスちゃんがやってきました。
アリス「わぁ~、近くで見るとおっきいね~」
アリス「これがあの2人が言っていた【ネッツキッキュー】なの?」
どうやらアリスちゃんは、ねぇねとおにぃから事情を聞いているようです。
(それにしても、ビーちゃん様もアリスちゃんも、【熱気球】の発音中に『ッ』を大盤振る舞いしすぎじゃないかな?)
【熱気球】の発音に少し違和感を覚えながらも、アリスちゃんとお話していると、今度は【トランシーバー】から大好きな声が聞こえてきました。
ねぇね『お~い、おチビちゃ~ん。聞こえますか~? 今から戻りま~す。【ネッツキッキュー】のところへ行けばいいのかな~?』
『ねぇね! あのね? これからビーちゃん様も来ることになったんだ~』
『みんなでいっしょに【熱気球】のところで待ってるね~』
アリス「私も私も! 私も乗ってみたい!」
「もちろんいっしょだよ?」
そんなやり取りをしてしばらくすると、ねぇねとおにぃが帰ってきて、ほぼ同時にビーちゃん様も合流しました。
ということで全員揃ったので、みんなでいっしょにお空の散歩へ出発です。
今回【熱気球】に乗るのは、ワタシとねぇねとおにぃ、そしてアリスちゃんとビーちゃん様、さらに、ビーちゃん様の護衛さん2人も追加です。
ちょっと人数が多いですが、おチビなワタシを筆頭に子供ばかりなので、重量的には大丈夫でしょう。
ちなみに今回乗れないことになってしまったアイリーンさんは、ちょっと不満気。
反対にマスターさんは『助かったぜ!』と言わんばかりに、笑顔で【熱気球】から距離をとっていました。
そんな感じで、今回飛行する全員がゴンドラに搭乗したら、またもおにぃの魔法で上昇です。
グラッ
アリス「きゃっ、ホントに浮いた!」
護衛1「おぉ!」
護衛2「う、浮き上がった!」
ベアトリス「凄いわ~。こんな大きなモノがお空に浮いちゃうのね~」
「この【熱気球】はね? 火魔法と風魔法が使えないと、上手にお空に上がれないんだ~」
ベアトリス「へぇー、そうなのね? というか、オニール君のその魔法、もしかして、火と風を両方使ってるの?」
「そうなの。おにぃは火魔法と風魔法の両方が使えるんだよ? すごいでしょ~」 \(*^ω^*)ノ
当の本人を差し置いて、ムフンと自慢げに語り出すおチビなワタシ。
大好きなおにぃをおともだちに自慢出来て、大変満足です。
そうこうしているうちに地上20メートルぐらいに達したので、前回同様この辺りでおにぃに送熱風を止めてもらいます。
アリス「凄~い。私のお家が、あんなにちっちゃく見える!」
護衛1「これはまた、壮観ですな~」
護衛2「こ、こんなに簡単に、このような高さにまで来ることができようとは・・・」
ベアトリス「いいわ~。これは素晴らしい眺めだわね~」
ベアトリス「高いところから見ると、町の様子がよく分かるわね~」
1回目のフライトでは、遠くの風景を眺めていたワタシ。
ビーちゃん様の発言を聞いて、今回は町の様子を中心に眺めてみることにします。
といってもおチビなワタシではゴンドラの高い囲い越しには下を見られないので、所々に空いているちっちゃな覗き穴からのチラ見です。
すると、1回目のフライトの時には気づかなかったことを発見しました。
町の中心にほど近い場所に、歯抜けのようになっている場所があったのです。
「あれれ? なんで、町のまんなかに空き地みたいなところがあるんだろうね?」
そんなワタシの大きな独り言を、ビーちゃん様が拾ってくれました。
ベアトリス「あ~、それって、結構厄介な問題なのよ」
「厄介な問題?」
ベアトリス「そうなの。実は数年前、この町が流行り病に襲われたことがあってね?」
ベアトリス「そのときに神様の御許に召された人がでたりして被害が大きかったお家の跡なの」
おにぃ「っく・・・」
(ん? おにぃのお顔が・・・どうしたのかな?)
ちょっと様子が変わったおにぃに声をかけたかったのですが、まだビーちゃん様のお話が続いていたので、そちらを優先することにします。
ベアトリス「縁起が悪いということで、みんなその土地を避けるのよ」
ベアトリス「だから、民家も商店も建てられないまま、ずっと放置されているのよね」
「ということは、だれも使ってないの?」
ベアトリス「ええ。一応この町の土地は全て領主の管理下ということになるから、今は領主館が更地にして管理しているけどね」
「だったらとりあえず、ちょっとした憩いの場というか、ちっちゃい公園にして、近所のみんなで遊べるようにしたらいいのにね?」
「遊具とか置いておけば、いつでも好きな時に遊べてうれしいと思うんだけどな~」
ワタシが思い付きでそう提案すると、ビーちゃん様が食い気味に乗っかってきました。
ベアトリス「遊具って、もしかして、おチビちゃんたちのお庭にある、【ブランコ】とかグルグル回るヤツとかのこと?」
「そうそう。ああいうのがあれば、みんなで楽しめるでしょ?」
ベアトリス「おチビちゃん、それ、是非お願いできないかしら」
ベアトリス「実は前々からお父様に相談していて、おチビちゃんにも協力してもらいたいと思っていたの」
ベアトリス「もちろん報酬もちゃんと支払うわよ?」
「報酬? お金はもういいの」
ベアトリス「え? お金じゃダメなの? それじゃ、引き受けてくれないの?」
「違うの。お金はいらないだけなの」
「遊具はどこに何を置いたらいいか、あとで教えてね?」
ベアトリス「うれしい! おチビちゃん、ありがとう!」
ガバッ
感極まって、おチビなワタシに抱き着いてきたビーちゃん様。
ここまでがっぷりハグされたのは、ねぇね以外でははじめてです。
(わぁ! ビックリした! けど、なんだかうれしい!)
スキンシップ大好きなおチビちゃんがどさくさ紛れにビーちゃん様にほっぺをスリスリしていると、周りから声があがりました。
ねぇね「わぁ!」
おにぃ「こえぇ~」
アリス「ひぃ~」
護衛1「うぉお!」
護衛2「お、お嬢様、ゆ、揺れますので、どうかお静かにお願いします」
ビーちゃん様が急に動いたので、ゴンドラがグラついてしまったのでした。
そんなドッキリハプニングがありつつも、2回目の遊覧飛行も滞りなく無事終了。
またもリップラインを引いてバルーンの空気を抜きつつ、ゆっくり慎重に着陸です。
ワタシたちが着陸すると、待ってましたとばかりに、マスターさんが話しかけてきました。
マスター「よう、おチビたち。ちょっと折り入って相談してぇことがあるんだが」
そう切り出したマスターさんのお話は、ここに集まった他のみなさんも【熱気球】に乗ってみたい、ということみたいです。
アイリーン「まあ、ロープを引いてもらったり、まさかの時のために待機してもらったりしているのだから、それくらいの『特典』はあってもいいかもね」
マスター「火魔法と風魔法を使えるヤツはこちらで揃えたから問題ねぇ」
マスター「どうだ? この【ネッツキッキュー】とやら、しばらく貸してくれねぇか?」
「もちろんいいよ! みんなでお空の散歩を楽しんでね?」
ということで、ハンターギルドの職員さんによる【熱気球】の大試乗会が急遽開催されることになりました。
運営はマスターさんとアイリーンさんに丸投げ。
ワタシたちお子様組は、少し離れた場所からその様子を見物することにします。
そんな中、ビーちゃん様がワタシに質問してきました。
ベアトリス「ところでおチビちゃん。この【ネッツキッキュー】は大きな風船みたいなものなんでしょ?」
ベアトリス「使い終わったその後は、どうするの?」
ベアトリス「こんな大きなモノ、この広場でも邪魔になるんじゃない?」
「え?」 (゜△゜;)
お空への遊覧飛行、その目先の目的だけしか頭になく、その後のお片付けのことを全く考えていなかったおチビちゃん。
ビーちゃん様にそのことを指摘されて、完全に思考がフリーズしちゃいました。
「え、えっと~、あの~、そ、そうだ!」
「ビーちゃん様に、これ、あげま~す! どうぞ、もらってくださいな?」
ベアトリス「へ? これ、私にくれるの?」
「うん。ご領主さまとかビーちゃん様が乗ってもいいし、町の警備のひととかが使ってもいいかも!」
ベアトリス「領主館の庭はここよりもっと広いから、場所的には問題ないけど・・・」
護衛1「ふむ。物見の代わりにいいかもしれませんな」
護衛2「なるほど。そうとなれば、早急に火魔法と風魔法の使い手を確保いたしましょう」
ベアトリス「くれるというのならもらうけど、ホントにいいの?」
「うん。ワタシたちはもういいの。ね? ねぇね、おにぃ?」
ねぇね「おチビちゃんがそうしたいのなら、それでいいと思う」
おにぃ「おチビ、お前・・・使った後のこと、何も考えてなかったな?」
「うっ・・・」 (゜v゜;)
おにぃに図星を突かれて言葉に詰まるワタシ。
今日のおにぃはなかなか勘が冴えてるみたいです。
そんなやり取りをしていると、急に目をつぶって黙り込んでしまったビーちゃん様。
どうやら【電波】魔法を使って、【トランシーバー】を持っている衛兵さんに、なにやら指示しているみたいです。
そしてしばらくすると、どこから来たのか、衛兵のみなさんがワラワラと数十人ほど集まって来ました。
そして参集した衛兵さんたちは、なぜか【熱気球】の試乗会の列に並びはじめました。
ハンターギルドのみなさんと合わせると、100人以上並んでいるのではないでしょうか。
ベアトリス「あの人たちったら、まったくもう、遊ぶ気満々じゃない・・・」
ベアトリス「そんなつもりで呼んだ訳じゃないのに、揃いも揃って・・・、ふふっ」
キレイに整列して順番待ちしている衛兵のみなさんを見て、呼んだ張本人も、ちょっと呆れ気味。
最後は思わずといった感じで笑い出しちゃいました。
アリス「それにしても、今日の広場は、凄く人が多くて賑やかだね?」
ねぇね「なんだか今日は、『お祭り』みたいだね~」
おにぃ「そうだな~」
「ん? 『お祭り』? そうだ! それだよ~!」 o(*゜▽゜*)o
「今日はいろいとお手伝いしてもらったし、そのお礼もしたいから、みんなにパァ~っと、楽しんでもらっちゃお~」
『お祭り』という言葉を聞いて、またまた何かひらめいちゃったおチビちゃんなのでした。
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