82 ビーちゃん様の魔法
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【ねぇねとワタシの声が頭の中に響いてきた】
ビーちゃん様のそんな思いも寄らない発言に、ビックリして固まってしまうワタシ。
ねぇねとおにぃと離れ離れになっちゃった寂しさなんて、一気に吹き飛んじゃいました。
(え? 【トランシーバー】でねぇねとワタシがお話したことが、ビーちゃん様の頭の中で聞こえたの?)
(ビーちゃん様は、無線の通話を聞くことができたの?)
(それってもしかすると、ビーちゃん様の魔法の能力なのかな?)
そう思ったワタシは、再度ビーちゃん様に質問してみることにします。
「ビーちゃん様、あのね? ビーちゃん様はどんな魔法が使えるの?」
ベアトリス「私の魔法属性は【電波】属性って言うんだけど、魔法に詳しい人に聞いても、誰も何も知らないのよ」
ベアトリス「何をどうする魔法属性なのか、いろいろ調べてみたけどさっぱり分からなかったわ」
ベアトリス「だから、どんな魔法が使えるかと聞かれても困っちゃうのよね。だって、何ができるのか全く分からないんだもの」
ベアトリス「お父様が【雷】属性だから、それに近いかも知れないって、はじめはかなり期待されたんだけどね」
(え? 【電波】? それって、遠くのひとと通信とかできるアレのことじゃないの?)
(もしかすると、【電波】は目には見えないし聞こえないから、この世界では【電波】の存在が知られていないのかな?)
そう思ったワタシは、さらに確認してみることにします。
「ビーちゃん様は【電波】属性の魔法を使ったことはないの?」
ベアトリス「もちろんあるわよ? でも、使っても何も起きないのよ」
ベアトリス「『ピー』とか『ガー』とか『ザー』とか不快な音が聞こえてくるか、たまに鳥や小動物が逃げていくくらいだったわ」
(『ピー』とか『ガー』とか『ザー』とかって、アレだよね? 前世のラジオで、チャンネル合わせがうまくできてないときの音だよね?)
(そうだとすると、ビーちゃん様は、ひとの耳では聞こえない【電波】を聞くことがきるんじゃないのかな?)
(そして鳥や小動物が逃げていくのは、ひとより敏感な野生動物には、ビーちゃん様が出した【電波】がイヤだったってことじゃないのかな?)
(つまり、ビーちゃん様は、【電波】を送受信することができるんじゃないのかな?)
前世では聞きなれた【電波】という言葉。
もちろん、【一般人では理解不能な言動をする困ったちゃん】的な、特殊な意味の【電波】ではありません。
ここは魔法という不思議能力が幅を利かせた世界です。
その魔法で【電波】を上手く利用できるのであれば、もしかするともしかするかもしれないと、前世の記憶が訴えかけてきます。
(ビーちゃん様の【電波】魔法って、使い方次第では離れた場所との通信とかできちゃうんじゃないのかな?)
そう思ったワタシは、早速ビーちゃん様に提案してみることにします。
「ビーちゃん様、あのね? 今からビーちゃん様の魔法の実験をしてもいいですか?」
ベアトリス「実験? まあ、別にいいわよ? でも、どうせ私が【電波】魔法を使っても何も起きないわよ?」
苦笑い気味にそうお返事してくれたビーちゃん様。
どうやらビーちゃん様は、完全に【電波】魔法をあきらめてしまっているみたいです。
そんなビーちゃん様のためにも、この実験がうまくいけばいいなと思いながら、ワタシは【トランシーバー】を使ってビーちゃん様に話しかけてみます。
『ビーちゃん様、ビーちゃん様、聞こえますか~』
ベアトリス「え? おチビちゃんの声が、耳からと頭の中と、二重に聞こえてくるわ?」
「やっぱり! ビーちゃん様は、【電波】魔法を使って、離れたひととお話ができるんだよ~」
ベアトリス「え? どういうこと?」
「【電波】はね? 目に見えなくて聞こえなくて、だけどすっごく速くて遠くまで届くの」
ベアトリス「そんな・・・目に見えないものなんて、どうすればいいっていうのよ・・・」
「でもね、今、この【トランシーバー】を使ってお話したら、ビーちゃん様の頭の中でワタシの声が聞こえたでしょ?」
ベアトリス「そうね、耳とは別に、頭に直接響いてくるみたいだったわ」
「たぶんそれはね、ワタシがこの【トランシーバー】で送った【電波】をビーちゃん様が【電波】魔法を使って聞いたんだと思うの」
そう言って、ビーちゃん様から少し離れるワタシ。
そして、再度【トランシーバー】を使ってビーちゃん様に話しかけてみます。
『ビーちゃん様、ビーちゃん様、聞こえますか~』
ベアトリス「え? 凄い! 離れたおチビちゃんの声が、まるで隣にいるかのように頭の中に聞こえてくるわ」
さらに続けて【トランシーバー】でビーちゃん様に語りかけるワタシ。
『ビーちゃん様、ビーちゃん様~、声を出さずにワタシにお返事できますか~?』
ビーちゃん様に【トランシーバー】越しに【電波】でお返事してみるよう要求します。
受信ができることは確認できたので、今度は送信を試してみるのです。
ベアトリス「え? えっと・・・う~ん。何かできそうなんだけど、もうちょっとな感じなのよね~」
ベアトリス「たぶん、あと少しで、できるようになる気がするんだけど・・・」
『ビーちゃん様は、今まであまり【電波】魔法を使ってなかったんでしょ?』
『でもこれからいっぱい練習すれば、きっと【電波】魔法でお返事もできるようになるよ?』
『そうすれば、【トランシーバー】を持ったひとと、お話ができるようになるね?』
ベアトリス「えっとそれはつまり、その【トランシーバー】を持っている、離れた場所にいる人と、瞬時に会話ができるってことよね?」
『そうで~す』
頭の回転が速いビーちゃん様は、【電波】魔法の可能性に気づいたみたいです。
ビーちゃん様の【電波】魔法は、離れた相手にリアルタイムで連絡がとれる可能性があります。
うまくいけば、この世界の情報伝達のありかたを一変させられるのではないでしょうか。
ベアトリス「それって凄い・・・」
ベアトリス「うん、やるわ! 私、【電波】魔法をいっぱい練習するっ!」
ビーちゃん様の決意表明を聞いたワタシは、通信実験を終了して、未使用の【トランシーバー】を持ってビーちゃん様のところまで戻ります。
「あのね? この【トランシーバー】は全部で6台あってね、使ってないこの4台は、ビーちゃん様に全部あげるね?」
「どれくらいの距離までなら離れても声が聞こえるかとか、同時に何人とお話ができるかとか、いろいろ試してみてね?」
「うまくいけばね、【電波】魔法は本当はスゴイって、みんなにわかってもらえると思うの」
「ビーちゃん様、ずっと『ハズレ』だとか悪口を言われて、今まで悔しかったよね? でももうきっと大丈夫!」
「この【トランシーバー】で、ビーちゃん様のこと悪く言ってたひとたちを見返しちゃおうね!」
ベアトリス「おチビちゃん、そのこと知って・・・、ぐすっ・・・、ありがとっ・・・」
おねだり上手のビーちゃん様は、日頃から贈り物をもらい慣れているはずです。
だから【トランシーバー】もいつものプレゼント同様すんなり受け取ってくれると思ったのですが、今回はなんだか違うみたいです。
下を向いて涙ぐんで、言葉を詰まらせてしまったビーちゃん様。
登場した時のおどけた雰囲気は、今はすっかり霧散してしまっています。
しばらくして、おチビなワタシからの贈り物を、うつむき泣きながらようやく受け取ってくれたビーちゃん様。
両手で大切そうに抱きかかえています。
(今まで苦労してきたから、【電波】魔法が使える【トランシーバー】に出会えた喜びはひとしおなんだろうな~)
魔法が使えないことで悪口のようなあだ名をつけられていたビーちゃん様にとって、【トランシーバー】はまさに、人生が変わるきっかけになりそうな、ゲームチェンジャー的なパワーアイテムです。
そんなモノが手に入ったとなれば、ビーちゃん様の雰囲気がいつもと違くなるのも当然です。
(ビーちゃん様、使えないと思っていた【電波】魔法の使い道がわかって、良かったね~)
(今までずっと辛かっただろうから、これからは報われてほしいな~)
むせび泣いているおともだちの姿を見て、そうあってほしいと思うワタシ。
おチビなワタシでもギリギリ届きそうな位置にある、うつむいて低くなったビーちゃん様の頭を、めいっぱい背伸びをしながら無言でヨシヨシナデナデしてあげるおチビちゃんなのでした。
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