81 待ち焦がれた声音
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
ねぇね「アリスちゃん、おチビちゃんのこと、よろしくね?」
アリス「うん。【ブランコ】しながら見てるね」
おにぃ「それじゃおチビ、行ってくるな」
ねぇね「おチビちゃん、すぐ戻ってくるからね?」
「ねぇね、おにぃ、ポーション作りがんばってね? いってらっしゃ~い」 (^◇^)/~~
早速その日のお昼から、ねぇねとおにぃによる『簡易エリクサー』作りの内職がはじまりました。
打ち合わせで決定したとおり、戦力外のワタシはお家でお留守番。
このお仕事は『シュッセ』が依頼として受けるのではなく、ねぇねとおにぃの2人だけで対応してもらいます。
しかも報酬はお金ではなく、成果物の一部をもらうという現物支給です。
(たぶん、『簡易エリクサー』なんてお名前がついちゃうくらいだから、これから先、普通の方法では入手が難しくなるよね?)
(だから、今のうちから少しずつでも現物がもらえるのは、お金をもらうよりよっぽどありがたいよね~)
ちなみに本日2回目の【想像創造】で、この現物支給に対応したモノを創り出しておきました。
【虎さん印の魔法瓶 ステンレスボトル 500ml 3,500円】×10 35,000円
ステンレス製の保温水筒10個。
そのうちの1つをおにぃに持って行ってもらい、報酬の『簡易エリクサー』はそれに入れて持ち帰ってもらう予定です。
(【魔法瓶】はちゃんと密閉できて保温もできるから、下手な容器よりいいと思うんだ~)
(それにしても、魔法のない世界の化学的な製品なのに、【魔法瓶】ってお名前、なんだか変だよね?)
(魔法のあるこの世界で【魔法瓶】なんて言ったら、きっといろいろ誤解されちゃうかも)
ねぇねとおにぃを見送りながらそんなことを考えていたら、ワタシの子守り役として残ってくれたアリスちゃんがワタシを心配して話しかけてくれました。
アリス「おチビちゃん大丈夫? 暗いお顔をしてるし、やっぱり寂しいよね?」
自分では気づきませんでしたが、アリスちゃんからそう指摘されるほど、どうやらワタシは暗い表情をしていたみたいです。
頭で考えていた以上に、ねぇねとおにぃと別行動をするということは、おチビなワタシにとって辛いことなのかもしれません。
「うん。アリスちゃんありがとう・・・」
「でもね、大丈夫だよ? なにかあってもすぐに連絡取れるようにね、ねぇねとおにぃにこれを渡しておいたの」
そう言って、右手に持っている【トランシーバー】をアリスちゃんに見せるワタシ。
そう、ねぇねとおにぃが内職に出かける前、本日3回目の【想像創造】で、異世界の文明の利器を創り出しておいたのです。
【小電力トランシーバー AM送受信 送信出力10mW 単3電池3本 本体重量100g 6台セット 28,990円】
前世で小さいころにスキー場で使った記憶がある、かなり旧式の【トランシーバー】です。
もちろん免許がいらない簡易なモデルで、片手で容易に持ち運びができるハンディタイプです。
送信ボタンしかないから操作はとっても簡単、ねぇねとおにぃでもすぐに使いこなせるでしょう。
(内職が終わったらすぐに連絡してくれるって言ってたし、それまでお昼寝して待ってよ~)
とにかくさっさとお昼寝してしまおうと、開け放たれた【軽パコ】のリアハッチに向かおうとしますが、不安というか落ち着かないというか、なんだか気もそぞろで眠れそうにありません。
アリス「心細いだろうけど、あの2人はすぐに戻ってくるからね?」
「うん。アリスちゃんがいてくれるから平気だよ? ありがとう」
アリスちゃんが心配してワタシに寄り添ってくれたので、気を紛らわせるためにお話を続けてみます。
「あのね? ねぇねとおにぃはすごい魔法が使えるから、ポーションを作ったりいろいろできるの」
「でもね、ワタシは魔法が使えないから、2人のお手伝いができなくて、ちょっと悔しいの」
アリス「そうなんだ。 あの2人の魔法は凄いもんね~」
「うん・・・アリスちゃんは魔法が使えるの?」
アリス「うん、使えるよ。私は【無】属性だから、弱い魔法しか使えないけど、その分、いろいろな魔法を少しずつ使えるの」
アリスちゃんの説明によると、【無】属性は練習次第で薄く広くいろいろな魔法を使えるようになるとのことで、庶民の間では『アタリ』属性と呼ばれているそうです。
特別に何か強力な魔法が使えることはないけれど、小さな火だったり、ちょっとしたお水だったり、生活に役立つこまごまとしたことを魔法でいろいろこなすことができる、【無】属性はそんな庶民の味方的な属性なのだそうです。
「へぇ~、いいな~。いろんな魔法を使えるのは、とっても便利だよね~」
アリス「そうなの。でも、あの2人みたいな凄い属性魔法を見ちゃうと、ないものねだりというか、憧れちゃったりするんだよね~」
そんな会話をしていると、聞き覚えのある声がワタシたちの会話に入ってきました。
ベアトリス「いいわよね~、ちゃんとした魔法が使えるのって」
「「え?」」
いつもの2人の護衛さんを伴って、金髪ツインドリルの美少女お嬢様、ビーちゃん様のご登場です。
ベアトリス「私なんて、誰も知らない、どんなことができるのか全く分からない、そんな魔法属性なのよ? ホント、『ハズレ』もいいところよ」
ベアトリス「『ハズレ姫』ここに参上~! なんちゃってね?」
小首をかしげ、右目をウインクして、舌をペロッと出して、事もなげにおどけてみせるビーちゃん様。
その表情には、悲壮感とか哀愁だとか、そういった負の感情は見受けられません。
お目見え早々、一番デリケートというかセンシティブというか、とっても気を遣う話題を自ら語りはじめたビーちゃん様に、ワタシはビックリ仰天です。
(わぁわぁわぁ~! そのお話、当の本人がしちゃうんだ!) (゜△゜;)
(でもビーちゃん様、なんだかすごいな~、そして強いな~)
(もしかして、悪口とか陰口とか言われ過ぎて、もう、いろいろ吹っ切れちゃったのかな?)
でもこの際なので、この流れに乗っかって、ビーちゃん様ご本人に、いろいろ詳しく聞いちゃうことにします。
「ビーちゃん様、あのね? 『ハズレ』属性って、どういうことなの?」
そう質問した矢先、右手の【トランシーバー】から、待ちに待った声音が聞こえてきました。
ねぇね『おチビちゃ~ん、おチビちゃ~ん。聞こえますか~』
ねぇね『お仕事終わったから、今から帰るね~』
『ねぇね! うん、ねぇねの声、聞こえるよ~』
すかさず右手の【トランシーバー】でお返事するワタシ。
うれしくてうれしくて、1オクターブぐらい高めの声になっちゃいます。
すると、そのワタシの様子を見て、アリスちゃんとビーちゃん様が驚いています。
アリス「うわぁ~、凄いね~。本当にこの小さい箱から声が聞こえてきた~」
ベアトリス「え? 何? 今私の頭の中に、姿が見えないネーネちゃんの声と、おチビちゃんのお返事が響いてきたんだけど!?」
「ほぇ?」
ビーちゃん様の予想外の発言に、今度はワタシが驚いちゃうのでした。
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