80 朝一からの来客
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
ローラおねえちゃんのお店に顔を出してパンケーキの朝食をごちそうになったり、【三輪自転車】用の教習コースを作ったりした翌日。
今朝は、無洗米と炊き込みご飯の素で、いつもの自炊に戻ります。
今回は、松茸(風味)の炊き込みご飯をチョイスしたワタシ。
いつものように、ねぇねの水魔法とおにぃの火魔法で、程よくふっくらに炊きあげられたコシヒカリちゃん。
ワタシたちのお家の周りが松茸とお醤油の素敵な香りのベールで包まれはじめた頃、こんな朝早い時間にもかかわらず、どうやらワタシたちにお客さんみたいです。
アリス「みんなおはよ~、とってもいい匂いだね~」
メアリー「おやおや、なんとも食欲を誘う香りじゃないかい」
ワタシたちのお隣さん、【マダムメアリーの薬店】のオールスターキャストが、そろってご来訪なのでした。
朝一でワタシたちのお家に来たということは、それなりの理由があるのでしょうが、今はとりあえずそのお話は後回しです。
なぜならワタシたちの目の前には、炊き立て出来立て、つやつやの炊き込みご飯があるのです。
何事にも優先順位というものがあるということで、お客さんも一緒に、みんな揃ってお食事タイムです。
「いっただきま~す! はぐはぐっ。うぅ~ん、松茸の香り最高ぉ~」 (*^~^*)
おにぃ「はふはふっ。うんめぇ~。やっぱオレ、朝は『タキコミゴハン』だなぁ~」
ねぇね「あむあむっ。おいしぃ~。私、この鼻に抜けるキノコの香り大好き~」
アリス「ほふほふっ。これジュワッと味が染みてて美味しいね~」
メアリー「あつあつっ。ほぉ~、なんとも滋味だねぇ~。冷めたおにぎりも美味しかったけど、温かい出来立てはまた格別だねぇ~」
そんな幸せな朝食の後は、いつもの野草のお茶で一服です。
メアリー「ほぉほぉ。おチビちゃんが飲んでいるのはヨモギのお茶かい? そしてお嬢ちゃんのはドクダミ茶だね?」
メアリー「いいねいいね。どちらも薬としても利用されているものだし、体にいいモノさね」
メアリー「毎日飲み続けていれば、悪いものを体から出してくれるはずだよ」
さすが長年薬屋さんを営んでいるメアリーさんです。
一目見ただけで、ワタシたちが何のお茶を飲んでいるのか、ピタリと言い当ててしまいました。
しかもその効能の解説というサービスまでついています。
その眼力と知識は、お見事としか言いようがありません。
メアリー「ところで、さっきから気になってるんだがね? お兄ちゃんが飲んでいるそれは、何なんだい?」
メアリー「色からすると、南国で飲まれているコーヒーに似ているようだけど、それよりも香りが甘い気がするねぇ」
(よよ? 薬草のプロでも、タンポポモドキの根のお茶は知らないのかな?)
(それなら、みんなにも知ってもらって、広まるといいな~)
そう思ったワタシは、早速メアリーさんにも勧めてみることにします。
「えっとね? これは炒ったタンポポモドキの根のお茶なんだ~」
「コーヒーよりちょっぴり甘くて体にも優しいから、ワタシたちでも安心なんだよ?」
「メアリーさんも飲んでみる?」
メアリー「ほぉほぉ。それはタンポポモドキの根のお茶なのかい?」
メアリー「まさかあの草の根っこをお茶にするとは思いもしなかったよ」
メアリー「どれどれ、せっかくだからご相伴にあずかろうかね?」
アリス「あっ、私も私も! 私にもちょうだい?」
「うん、もちろん。アリスちゃんも飲んでみてね?」
こんな感じでタンポポモドキの根のお茶を布教しつつ、ようやく本題のメアリーさんたちのお話を聞くことにします。
「それで、こんな朝早くから、どうしたの?」
メアリー「そうだったそうだった。実は先日の指名依頼の時に作ってもらった銀色の体力回復ポーションについて、報告とお願いがあって来たんだよ」
おにぃ「ああ、アレですか」
ねぇね「何か分かったんですか?」
メアリー「あれから薬師ギルドで詳しく調べてもらったんだけどね、その報告が昨晩やっと届いたのさ」
メアリー「それでその結果がなんと、複数の病気に効果がある万能薬、『簡易エリクサー』ときたもんさね」
「「「『簡易エリクサー』?」」」
メアリー「そうそう。不老不死になるという、伝説の『エリクサー』とまではいかないものの、ほとんどの病気に効果が期待できる薬みたいでね?」
メアリー「薬師ギルドは今、この万能薬をめぐって、上を下への大騒ぎさ」
おにぃ「へ、へぇー」
ねぇね「そ、そうなんですねー」
「すごいねすごいね! さすがねぇねとおにぃが作っただけのことはあるね!」
すかさず大好きなねぇねとおにぃの手を取り、ブンブンと振り回しながら2人を褒めちぎるワタシ。
第三者を交えてねぇねとおにぃを称賛できる、こんなチャンスは決して見逃しません。
おにぃ「おチビ、ありがとう」
ねぇね「これもおチビちゃんが魔法の使い方を教えてくれたおかげだよ?」
「ちがうよ? ねぇねとおにぃの実力だよ? 2人の魔法がすごいんだよ? そうでしょ? メアリーさん」
メアリー「そうともそうとも。なんたって、新しいポーションを作っちまうんだからねぇ」
メアリー「これはもう、2人は魔法の天才としか言いようがないよ」
(ですよね、ですよね!) ((≧ω≦))♪
まさに我が意を得たり、そんなメアリーさんのお返事に大変満足なワタシです。
おにぃ「あ、ありがとうございます」 (〃∇〃)
ねぇね「そ、そう言ってもらえて、嬉しいです」 (///ω///)
一方、他人から褒められ慣れていないねぇねとおにぃは、メアリーさんからのストレートな賛辞にテレテレです。
しばらくそんなほほえまシーンが繰り広げられていると、ついにメアリーさんが本題を切り出しました。
メアリー「それで朝早くからお邪魔したのはね? あのポーションを毎日作ってもらえないか、お願いに来たんだよ」
おにぃ「え? あのポーションを毎日?」
ねぇね「毎日ですか? それは・・・」
メアリー「まあ、ハンターギルドでの活動とか、『シュッセ』にもいろいろあると思うしね」
メアリー「だからまずは、すり合わせができればありがたいんだけどね?」
魔法が使えないワタシはポーション作りには直接関係ありませんが、ねぇねとおにぃのバックアップをする気は満々なので、ここで口を挟むことにします。
「えっとね、ワタシたちはハンターギルドにお世話になっているので、ワタシたちだけで決められないと思うの」
「だからね、ワタシたちの専属さんと一緒に、ハンターギルドでお話し合いをしてほしいの」
「ねぇね、おにぃ、そうだよね?」
おにぃ「うん、そうだな」
ねぇね「おチビちゃんの言う通りでいいと思う」
「でもね、今日はこれからお仕事があるの」
ねぇね「そうだね、今日は納品日だもんね?」
おにぃ「すいません。オレ達今から行くところがあるので、その後でどうですか? たぶん30分ぐらいで戻って来られると思います」
メアリー「ほうほう。そういうことなら、ハンターギルドで待たせてもらおうかね」
メアリー「それにしても、『シュッセ』にはハンターギルドの専属職員がついているのかい? その年で凄いねぇ」
「あのね、ワタシたちの専属さんは、受付のアイリーンさんなの」
「だからね、アイリーンさんにお話をしておくと、いろいろ早いと思の」
メアリー「そうかねそうかね。それじゃあ、まずはアイリーン嬢に話を通しておこうかね」
アリス「あのおチビちゃん、私はここで、【ブランコ】で遊んでていい?」
「いいよいいよ~。戻ってきたら、またいっしょに遊ぼうね~」
朝一から『万能薬』とか『エリクサー』だとか、豪華絢爛な単語が並んだお話でしたが、このお話はここで一旦お開き。
そんな訳なので、すぐさま【ジョシュア雑貨店】にいつもの納品に向かうワタシたち3人。
その足取りは、いつもより早歩きなのでした。
「「「おはようございま~す」」」
【ジョシュア雑貨店】に到着早々、ワタシたちが元気よくご挨拶すると、お店の奥から、ジョシュアさんとジェーンさんがいつものように笑顔で出迎えてくれました。
ジョシュア「いやぁ~、『シュッセ』のみんな、いらっしゃい!」
ジョシュア「今日は納品だね? いつもありがとうね」
ジェーン「みんなおはよう。あら、今日もおめかしさんだね? それ、可愛くていいねぇ」
ねぇね「ありがとうございます」
ここからは、いつもどおりの丁寧な、ニコニコ笑顔で雑談も交えた納品がはじまります。
例えほかに重要な用事があったとしても、恩人である【ジョシュア雑貨店】への対応をおざなりにするようなワタシたちではないのです。
ねぇね「あの、ジェーンさん。美味しいクッキーをたくさんもらったので、よかったらどうぞ」
ねぇねに至っては、大好きなジェーンさんに、ここぞとばかりにローラおねえちゃんからもらったクッキーをしっかりおすそ分けまでしちゃうのでした。
そんな和気あいあいとしたやり取りで、【ジョシュア雑貨店】での納品を済ませたワタシたち3人。
メアリーさんをお待たせしていることもあり、ハンターギルドに急いでトンボ返りです。
そして急ぎ足でハンターギルドの建物に入ると、ハンターギルドの受付には、アイリーンさんとメアリーさんの姿が見えました。
「アイリーンさん、おはよ~ございま~す」
「「おはようございま~す」」
「そしてメアリーさん、お待たせしました~」
メアリー「おやおや、また随分と早かったねぇ」
アイリーン「『シュッセ』のみんな、おはよう」
アイリーン「メアリーさんから大体の事情は聞いたわよ」
アイリーン「とりあえず、いつもの依頼の完了手続きからでいいのかしら?」
おにぃ「そうです。この完了報告書をお願いします」
こうして、ささっといつもの納品依頼完了手続きをして、いつもの会議室に全員集合!
ワタシたち3人とアイリーンさん、そしてメアリーさんが席に着いたタイミングで、アイリーンさんのお話がはじまります。
アイリーン「とりあえず、メアリーさんからの説明をまとめると、『シュッセ』に毎日『簡易エリクサー』の製作を依頼したい、ということみたいですけど、『シュッセ』として対応はできますか?」
おにぃ「え~っと、ポーション作り自体は大丈夫ですけど、毎日というのがちょっと・・・」
ねぇね「あの、一気にたくさん作りだめするのはダメなんですか?」
メアリー「最初はそれでもいいんだけどね、材料となる薬草の入荷の関係や、できあがったポーションの保管のこともあるしね、できれば毎日コツコツ少量ずつ作ってもらう方が、こちらとしては助かるんだけどねぇ」
おにぃ「毎日かぁ・・・」
ねぇね「う~ん・・・」
『簡易エリクサー』作成には直接関係がないワタシですが、ねぇねとおにぃが困っているようなので、ここでも口を挟んじゃいます。
「ねぇね、おにぃ、前にあの銀色のポーションを作ったときは、どれくらいお時間かかったの?」
おにぃ「ん? 30分もかからなかったよな?」
ねぇね「そうね。前に作ったポーション程度の量なら、20分ぐらいでできると思う」
「メアリーさん、量は前回作ったポーションと同じぐらいでいいの?」
メアリー「いいともいいとも。材料や保管のことを考えると、アレぐらいが丁度いいんだよ」
「ねぇね、おにぃ、【マダムメアリーの薬店】はお隣なんだし、20~30分ぐらいなら、毎日でも大丈夫じゃない?」
おにぃ「う~ん。でも依頼だろ? 手続きとかいろいろあるから、なんだかんだであちこち歩きまわることになるしな~」
(たしかに、ハンターギルドの受付にもよらなければならないから、意外と面倒かも・・・)
(あ! それなら・・・)
「あのね? それなら、依頼じゃなくしちゃえばいいんじゃない?」
「そうすれば、【マダムメアリーの薬店】だけに行けばいいことになるでしょ?」
おにぃ「それじゃ、ただ働きってことか?」
「お金じゃなくてね、現物支給にしてもらえばいいんだよ」
「『簡易エリクサー』を作ったらね、その一部をちょっともらうの」
「どうかな? それならただ働きじゃなくなるでしょ?」
「それにもう、あまりお金を稼ぐ必要もないでしょ?」
おにぃ「う~ん。それなら別にいいと思うけど・・・」
ねぇね「私はおチビちゃんの言う通りでいいと思う」
「メアリーさん、アイリーンさん、どうですか?」
メアリー「ほうほう。あたしゃそれで構わないさね」
メアリー「無理を言っているのはこちらだからね」
メアリー「なるだけそちらの要望に沿うつもりだよ」
アイリーン「依頼にしないというのであれば、ハンターギルドからとやかく言えることはありませんね」
アイリーン「後は『シュッセ』の皆さんとメアリーさんで決めていただければいいと思いますよ」
「それなら、お昼に30分ぐらい、ねぇねとおにぃが2人で『簡易エリクサー』を作りに【マダムメアリーの薬店】に行くってことでどう?」
「対価は作成した『簡易エリクサー』の一部をもらうの」
「ワタシはその時、お家に残ってお留守番してるね?」
「足手まといのワタシがいなければ、ささっと行ってささっと作業ができるでしょ?」
ねぇね「え? おチビちゃんを一人にするの? それはダメ!」
おにぃ「そうだぞ。おチビだけ残して行くのはオレも反対だ」
「え~? ワタシお昼寝してるから平気だよ?」
ねぇね「他に誰もいないのはダメ! 絶対ダメ!」
(え? いつもなら、ワタシの意見に賛成してくれるのに・・・)
いつになくねぇねとおにぃに反対されて、ちょっと戸惑っちゃうワタシ。
特にねぇねの反発は、予想外に強硬です。
メアリー「それならその時間、2人の代わりにアリスがおチビちゃんと一緒に過ごせばいいんじゃないかい?」
メアリー「最近のアリスはお昼時、そちらで遊んでいるようだしね?」
「そうだよ! アリスちゃんが一緒だよ? どうかな? ねぇね、おにぃ」
おにぃ「う~ん。それなら、いいのかな」
ねぇね「アリスちゃんがおチビちゃんと一緒にいてくれるなら・・・」
渋るねぇねとおにぃをどうにかこうにか説得して、戦力外のワタシはお留守番で、ねぇねとおにぃ2人だけでの『簡易エリクサー』作成の内職(現物支給)が決定したのでした。
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