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8 依頼の依頼

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


ハンターギルドの裏庭の広場、その一番奥の草むらにある新居の軽パコで一晩を明かしたワタシたち3人は、朝からハンターギルドに来ています。

その目的はズバリ、依頼を受けるためです。


「うわぁ~、人がいっぱいだね~」


(朝一ですぐ来たのに、もう、人でごった返してるね~)


朝、それなりに早い時間に来たつもりでしたが、ハンターギルド内は既にラッシュの様相です。


おにぃ「依頼は掲示板に張り出されてるらしいぜ」


ねぇね「私、怖くてそこまで行けないかも・・・」


ワタシたち3人の中で、唯一ちゃんと文字が読めるねぇね。

そのねぇねが掲示板に近寄れなければ、依頼の内容を知ることができません。

怖がるねぇねを落ち着かせるため、一旦人ごみを避けてホールの隅っこへと移動するワタシたち3人。

そこでちょっとしたブリーフィング開始です。


「依頼って、そもそも、どういうのがあるの?」


おにぃ「ハンターギルドは採取が主だろ?」

おにぃ「植物とかを採ってくるとか、魔物とか動物とかを捕ってくるとかだと思うぜ」


ねぇね「魔物は怖いよ~」


「そうだよね~。魔物とかは遠慮したいよね~」


おにぃ「それじゃあ、薬草とかの採取か?」


ねぇね「それなら私でもできるかも・・・」


「でも、ふたりとも、どれが薬草とか、知ってるの?」


おにぃ「オレ、詳しくは知らないぞ?」


ねぇね「私もあまり詳しくないかも・・・」


(うわぁ~、出だしからつまづいてしまった感じです~)

(ワタシたちには、ハンターギルドでの仕事は無理なのかな~)


とりあえず、もう少し情報が欲しいワタシは、話を続けます。


「あの、そもそもなんだけどね? 依頼って、誰が出してるの?」


おにぃ「それはアレだろ? 町のお店とかだろ?」


ねぇね「病院とか、薬屋さんとか、教会が依頼を出すこともあるって、聞いたことがあるかも」


おにぃ「あとは、お偉いさんだろ? お役人とか、お貴族様とか」


ねぇね「それは私たちには関係ないヤツでしょ?」


おにぃ「まあな」


(う~ん、とりあえず、ワタシたちに関係しそうなのは、町のお店かな?)

(町のお店からの依頼となると、食べ物系の採取依頼なのかな?)

(そういうのって、競争率高そうだよね~)

(町のお店からの依頼で、ワタシたちしかできない依頼があればイイんだけど・・・)

(ん? それなら逆に、ワタシたちしか達成できない依頼を、町のお店から出してもらえばいいんじゃない?)


そうひらめいたワタシは、ねぇねとおにぃに提案してみます。


「ねぇね、おにぃ、昨日の優しいお店、ジョシュアさんとジェーンさんのお店に行きましょう」


おにぃ「ん? また甘い蜜を売りに行くのか?」


「いいえ、依頼を依頼しに行くんです」


おにぃ「は? 依頼を依頼?」


ねぇね「なんだか訳がわからないよ」


「ワタシたちにしか達成できない依頼を、あのお店からハンターギルドに依頼してもらうんですよ!」


ハンターギルドを出たワタシたち3人。

あのワタシたちに優しくしてくれるお店に行く道すがら、ワタシはねぇねとおにぃに今回の『依頼の依頼』の目的やその意義を語っておきます。


(ふたりにも、ちゃんと理解しておいてもらいたいですからね)


そしてもう一つ重要なこと、


「ふたりとも、ワタシのスキルについては、しゃべっちゃダメよ?」


ねぇね「もちろんよ」


おにぃ「え? なんで?」


「ワタシが危険だからです」


ねぇね「そうよ。こんなにちっちゃくてカワイイおチビちゃんが凄いモノを創り出すんだよ? 他の誰かに知られたら絶対にさらわれちゃうよ!」


おにぃ「そ、そうだよな、ごめん。全然考えてなかったよ、オレ」


「ということで、あの創り出す能力は、ワタシたち3人の魔法的な何か、ということにしておいてね?」

「ワタシたち3人が力を合わせないとダメ、そういうことにしておいてね?」


おにぃ「わかった」


ねぇね「そうね、そうしておけば、おチビちゃんだけが狙われることはないでしょうからね」


そんな会話をしつつ、やってきました、ワタシたちに優しくしてくれるお店、ジョシュアさんとジェーンさんのお店です。

ここのところ、連日のように訪れています。

もう、常連といってもイイのではないのでしょうか。


おにぃ「なんだかオレたち、ほぼ毎日来てないか? このお店」


ねぇね「看板に【ジョシュア雑貨店】って書いてあるよ」


只今、ねぇねから貴重な情報がもたらされました。

そんな【ジョシュア雑貨店】に入っていくと、


ジェーン「あら、いらっしゃい」


ねぇね「こんにちは」


ジェーン「今日も蜜を持ってきたのかい?」

ジェーン「あの蜜ならいつでも大歓迎だよ?」


もう女将さんの中では、『ワタシたち = 蜜』ということになっているご様子です。


「その蜜のことで、ちょっとご相談というか、お願いがあってやってきました」


ジェーン「お願い?」


「実はワタシたち、このように、ハンターギルドに加入することができました」


そう言って、お女将さんにハンターギルドの登録証を見せるワタシ。

ねぇねとおにぃもワタシに倣って登録証を見せます。

すると、


ジェーン「あんたたちハンターギルドに? やったじゃないの!」


笑顔で喜んでくれる女将さんです。


「はい。ありがとうございます」


おにぃ「ありがとうございます」


ねぇね「ございます」


そんな会話をしていると、奥から店主のジョシュアさんもやってきました。


ジョシュア「そうか、君達、ハンターギルドに・・・」

ジョシュア「スラムからなかなか抜け出せない人間が多いけど、君達は何とかなりそうだね」


(やっぱり優しくてイイ人たちですね~、このご夫婦)


ちょっぴり感動しながらも、お話を続けます。


「それでですね、蜜のことなんですけど、ハンターギルドに依頼を出していただけませんか?」


ジェーン「ハンターギルドに? 蜜の依頼?」


ジョシュア「なるほど。その依頼を君達が受注する、ということかね?」


「はいです」

「今まで通りワタシたちがこちらに直接売りに来たままだと、こちらのお店であの蜜の出所を大々的に公言できないと思うんです」

「蜜は高級品ですよね?」

「万が一その出所がワタシたちのようなスラム関係者だと知られたら、最悪の場合、買い手がつかなくなる可能性もあるのかな? と思ったのです」

「でも、ハンターギルドを通してやり取りすれば、こちらのお店としても、ハンターギルドから入手したと大っぴらに宣伝できるメリットがあると思うんです」

「ワタシたちもハンターギルドの依頼達成という実績が付きますし、ありがたいのですが」

「どうでしょうか、ダメでしょうか?」


ジョシュア「なるほど。蜜は高級品なだけに、その出所によっては買い手がつかなくなる可能性か・・・」

ジョシュア「間にハンターギルドを挟むことで、出所をぼやけさせるってことか・・・」

ジョシュア「うんうん、悪くない話だね」

ジョシュア「でも君達的にはちょっと損するかもしれないよ?」


ねぇね「損?」


ジョシュア「ああ。間にハンターギルドが入るから、手数料を持っていかれるよ? それでもいいのかな?」


「お金も大切ですけど、今のワタシたちは、まず、地位というか、実績というか、そういうモノが欲しいんです」

「ね? ねぇね、おにぃ?」


おにぃ「そうです。ハンターギルドで実績を残して、まっとうに生きていると胸を張りたいんです」


ねぇね「私たちがちゃんと自立しているという、目に見える証が欲しいんです」


道すがらお話した今回のお話の意義。

それは、ワタシたちがこの町で、自分の居場所をつくること。

居場所とは、物理的なお家もそうですが、第三者、他人に認められる、ということ。

地位というか、立場というか、自己紹介ができるなにかが欲しかったのです。

ハンターギルドで依頼をこなし、ちゃんと活動していることを誰かに認めてもらいたい。

自分たちも、ハンターギルドで活動をしていると公言したい。

本当の意味でスラムから抜け出せたと言い切れるのは、きっと、そういうことだと思うんです。


ジョシュア「君達の話は分かった。こちらとしても問題はないね」


「それじゃあ?」


ジョシュア「ああ。あの蜜が欲しいときは、ハンターギルドに依頼を出すことにしよう」


「「「ありがとうございます」」」


ジョシュア「でも、どう依頼を出そうか。ただ【蜜】とだけ書いても、君達の蜜じゃないモノが来てしまうかもしれないよね?」


「それはですね、より細かく、名前を書いて欲しいと思っています」


ジョシュア「名前かい?」


「はい。今回の蜜の場合、【ニホンセイ はちみつ ブレンディッド】みたいな感じで」


ジョシュア「なるほど、君達の蜜は【ニホンセイ はちみつ ブレンディッド】というんだね?」


「そうです。こう書けば、ワタシたち以外は【ニホンセイ はちみつ ブレンディッド】がどんなものなのか知らないから、この依頼を受注しないと思うんです」

「最悪、ワタシたち以外がこの依頼を受注者したとしても、納品時に「モノが違う」と断れると思うんです」


ジョシュア「もっともだね。それでいこう」


「ありがとうございます」

「それで、ついでと言ってはなんですけれど、蜜の他にご所望のモノはありませんか?」

「ワタシたち3人、蜜以外にも、いろいろご用意できると思うんです」


ジョシュア「蜜以外か~、どんなモノが用意できるの?」


「なんでも、とは言い切れませんが、ある程度ご要望にお応えできると思います」

「ワタシたちではどういうモノに需要があるのか分からないので、なにかご要望があればと思ったのですけど」


ジョシュア「需要だとか要望だとか、おチビちゃんは難しい言葉を知ってるんだね? 感心感心」


「あ、ありがとうございます」


(ん? 話をそらされちゃった感じかな?)

(これは、蜜以外は商談不成立かな?)


そんなことを思い始めた時でした。

女将さんが話に割って入ってきました。


ジェーン「ちょっといいかい?」


「はいです」


ジェーン「あんたたち3人、急に身ぎれいになったじゃない?」


「はい。そこは気をつけるようにしました」


ジェーン「それでね、なんだかあんたたち、キレイになってから、いい匂いがするんだよね」

ジェーン「少し爽やかで甘いような? 花の香りを身にまとっているように思うんだけど、どうなの?」


「あっ、それはたぶん、石鹸の匂いだと思います」


ジェーン「石鹸? でも石鹸っていったら、ケモノの脂臭くないかい?」


「ワタシたちの石鹸は、植物から創っているんで、いい匂いなんです」


ジェーン「そうなのかい? できれば、それを一度見せてくれないかい?」


ジョシュア「なるほど。蜜以外の商品として、その石鹸を検討してみようということかな?」


ジェーン「そういうことさね」


「ありがとうございます。一度戻って、持ってきてもイイでしょうか?」


ジョシュア「もちろんだとも」


ジェーン「待ってるよ」


「わかりました。今から持ってきます」


おにぃ「持ってきます」


ねぇね「きます」


ということで、一旦失礼して、新居(軽パコ)に戻ってきたワタシたち3人。


「ハンターギルドに依頼を出してくれそうでよかったね!」


おにぃ「そうだな。なんだかうまくいったな」

おにぃ「蜜以外にも石鹸も依頼してくれるかもな」


ねぇね「石鹸ってアレでしょ? 体洗ったり、お洋服洗ったりしてる、いい匂いのアワアワのヤツ」

ねぇね「アレも売れそうだよね?」


「きっと売れるよ~、絶対売れるよ~!」


(やったー! 新商品のチャンスかも!)

(今日はまだ【想像創造】してないから・・・)

(とりあえず今日は、はちみつと石鹸を1つずつ?)

(う~ん、1個ずつじゃ効率悪いよね?)

(もっと、たくさん一気に創り出せないのかな~)

(ん? そうだ! セットの商品なら、1回でたくさん創り出せるんじゃない?)

(よっし! 【想像創造】!)



【ハーブソープ お歳暮ギフトセット ローズ6個 ラベンダー6個 カモミール6個 2,500円】



「やったー! 1回の【想像創造】で、たくさん石鹸を創ることができた~!」


おにぃ「え? これ全部石鹸か?」


ねぇね「わぁ~、箱にいっぱい!」


「これ、3種類あるから、それぞれ1つずつ持って、またあのお店に行こう!」


「「お~!」」


ということで、ジョシュア雑貨店にとんぼ返りなワタシたち3人。

ハンターギルドからジョシュア雑貨店まで歩いて5分程と、比較的近くて助かりました。


(ワタシ、5歳児。体力的にギリギリです・・・)


「すいませ~ん、石鹸持ってきました~」


ジェーン「おや? 早かったね、10分ちょっとしかたってないんじゃない?」


「はい。今、ハンターギルドから来たので」


ジェーン「ハンターギルドから?」


おにぃ「オレたち今、ハンターギルドの裏庭を借りて住んでいるんです」


ジェーン「そうかい、そうかい。本当にスラムから抜け出せたんだね」


ねぇね「これも、ジェーンさんのおかげです」

ねぇね「今までも食べ物をいただいたり、本当にありがとうございます!」


ジェーン「そうかい。本当によかったね」


「「「はい」」」


そんな会話の後、3種類の石鹸を見てもらいます。


「石鹸はこれです。3種類あります」

「ローズの香りと、ラベンダーの香りと、カモミールです」


ジェーン「3種類も? ちょっとアンタ、こっちへ来ておくれ」


ジョシュア「ん? おや君達、早速石鹸を持ってきたのかな?」


「はいです」


ジェーン「見ておくれよ、3種類もあるみたいなのよ」


ジョシュア「へ~、それは凄いね。試してみてもいいかな?」


「もちろんです」


ジェーン「それは私が、やらせてもらうよ?」


そんなやり取りの後、


・・・


ジェーン「凄くイイ匂いだね~、それにこの泡立ち! まるでお貴族様にでもなった気分だよ!」


ジョシュア「これは凄いね。ケモノ臭くない石鹸はじめてだ」


そんなテストが3回繰り返され、


・・・


ジェーン「アンタ、これは買いだよ! 間違いなく売れるね」


ジョシュア「ああ、もちろんだ。とりあえず、この3つはこちらで買い取っていいのかな?」


「え? お試しのヤツなのに、買い取ってくれるんですか?」


ジョシュア「もちろんだとも。値段はそうだね~、1つ100リル、3つで300リルでどうかな?」


「ありがとうございます!」


おにぃ「それで、お願いします!」


ねぇね「します」


石鹸1つで100リル、大体100ドルぐらいと考えると、12,000~14,000円ぐらいでしょうか。


(高っ、石鹸メッチャ高く売れました!)

(ケモノ臭いという、普通に出回っている石鹸より、かなり高級品として扱われるんでしょうね? きっと)

(まあ、普通の石鹸、ワタシは見たことないですけどね)


ジョシュア「それと、これもハンターギルドへ依頼してもいいのかな?」


「はい。依頼する時は【ニホンセイ ローズ石鹸】【ニホンセイ ラベンダー石鹸】【ニホンセイ カモミール石鹸】でお願いします」


「「お願いします!」」


ということで、今後のワタシたちの商売は、ハンターギルドの依頼という形で行われることになりました。

お金も稼げて依頼達成の実績も積めます。

ありがたいことです。


そしてワタシたちの今現在の所持金は10,907リル。

小金貨1枚と小銀貨9枚と銅貨7枚。


順調、順調なのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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