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74 副支部長さんからのお願い

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


「アイリーンさん、こんにちは~」


「「こんにちは~」」


アイリーン「あら? 今日はみんないつもと違った服装をしているのね?」

アイリーン「珍しい装いだけど、みんなとってもよく似合っていて、カワイイわね?」


「カワイイ? やったー! ねぇね、おにぃ、ワタシたち、カワイイって!」 (*゜▽゜)ノ


ねぇね「ホントですか? うれしいです!」


おにぃ「オレ、カワイイはちょっと・・・」


ハンターギルドに到着早々、ワタシたち3人のいでたちの変化に気づいて、すかさず褒めてくれたアイリーンさん。

もしかすると社交辞令的なお世辞なのかもしれませんが、服装を褒められるのはうれしいことです。

社交辞令とかお世辞とか、言葉の裏を読むなんて芸当はおチビなワタシには10年早いので、褒め言葉を素直に受け取って気分を良くしたワタシは、アイリーンさんともこの喜びを分け合いたいと思いました。


「アイリーンさん、新しいお洋服を褒めてくれてありがと~」

「それでね? よかったら、アイリーンさんもねぇねと同じお洋服着てみる?」


アイリーン「え? 私? えっとそうねぇ~、私にはそれはちょっと若すぎるみたいだから、今回は遠慮しておくわね?」


ワタシ的にはカワイイお洋服のお仲間を増やそうとしてのお誘いだったのですが、ちょっと頬を引きつらせたアイリーンさんにご遠慮されちゃいました。

そこでふと気が付いたワタシ。

中学生ぐらいの年齢向けのお洋服を立派な成人女性に勧めてしまったと。

今の自分の発言は、配慮に欠けるものだったのではないかと。

さらに前世の記憶がワタシに警鐘を促します。

それは、コスプレとかロールプレイとか、ちょっと危ない匂いがすることではないのかと・・・

それでもワタシはあえて、いいえ、だからこそ、もう一押ししておくことにします。


「もし気が変わったら、いつでも言ってね~」

「アイリーンさんにもカワイイセーラー服、すぐに用意するからね~」


アイリーン「え? ええ。機会があれば、そうさせてもらうわね?」


(仕事ができるオトナなアイリーンさんが、カワイイ女子学生のコスプレか~。それはぜひ見てみたいな~)

(でもどうせなら、もっと違った、例えば男装とか?)

(ねぇねと同じじゃなくて、おにぃと同じ詰襟の学ランにしちゃう?)

(綺麗な女のひとが男装すると、不思議とかわいくなっちゃうんだよね~)


ねぇね「おチビちゃん、どうしたの?」


おにぃ「急に黙って、眠くなったのか?」


前世の記憶をもとに、アイリーンさんのコスプレ姿をいろいろ想像して、ひとり静かにニンマリしていたおチビなワタシ。

急に無口になったワタシをねぇねとおにぃが心配してくれましたが、ワタシの妄想は止まりません。

自分のことをカワイイと言われるのも好きですが、カワイイ格好をしたひとを見るのも好きなワタシなのです。


そんなひとコマがあった後、いつもの会議室に通されて、いつもと同じ厚めのクッションが敷いてある席に、いつもどおりおにぃに持ち上げられて座らせてもらい、そしていつものように納品完了報告開始です。


おにぃ「いつもの常設依頼の完了報告です。お願いします」


ねぇね「します」


アイリーン「はい、承りますね」

アイリーン「報酬の処理はいつも通り、ということでよろしいですか?」


「はい、お願いしま~す」


今日の納品もいつもどおりだったので、特に報告することもなく事務手続きは短時間で終了です。

そう思っていたのですが、ここで珍しく、ねぇねがアイリーンさんに追加の報告をはじめました。


ねぇね「アイリーンさん、実は納品の帰り道、ちょっとしたことがありました」

ねぇね「前からたまにあるんですけど、おチビちゃんを狙って、連れ去ろうとすることがあるんです」


アイリーン「連れ去り!?」


ねぇね「今日はおチビちゃんのお母さんを名乗る人が現れました」


アイリーン「え?」


ねぇね「そしてその人と一緒に、以前受付にいたイライザさんも来ました」


アイリーン「何ですって!」


ねぇね「きっと、イライザさんが計画して、おチビちゃんを連れ去ろうとしたんだと思います」


おにぃ「あの人、おチビのことをいろいろ知っているでしょ?」

おにぃ「だから、おチビにアレコレやらせようとしたんじゃないかなって」


アイリーン「何てこと・・・何かされなかった? 怪我は?」


ねぇね「大丈夫です。似たようなことはスラムでもありましたし」


おにぃ「とりあえず、オレの火魔法で脅しておきました」


アイリーン「そう・・・『シュッセ』のみんなに何もなくて、ホントよかった・・・」

アイリーン「教えてくれてありがとう。イライザについては本当にごめんなさい。こちらで必ず対処します」

アイリーン「イライザ・・・どうしてあの子がこの町に・・・王都に送還されたはずじゃ・・・」(ボソボソ)

アイリーン「いずれにしても、『シュッセ』には護衛をつけないといけないわね・・・」(ボソボソ)


最後は独り言のように何かをつぶやいていたアイリーンさんでしたが、追加の報告も程なく終了しました。

さあ、あとはお家に帰ってなにをして遊ぼうかと考えていたら、ここで会議室にノックの音が響き渡りました。


コンコンコン


副支部長「失礼します。『シュッセ』の皆さん、少しお時間をいただけますでしょうか」


丸いメガネがピカリと凛々しい、副支部長さんが会議室にご登場なのでした。


副支部長「実は『シュッセ』の皆さんに、お願いがありまして」


そう切り出した副支部長さんのお話をまとめると、商業ギルドに助力を乞うことになったので、商業ギルドに何か利益を提供したい。

そんな折、先日報告にあった【そろばん】という計算機を思い出した。

日々計算に明け暮れているだろう商業ギルドに差し出すのであれば、【そろばん】はまさにうってつけなのではないのかと。


副支部長「どうでしょう、【そろばん】を商業ギルドに提供していただけませんでしょうか?」


「えっと、別にいいけど、【そろばん】の使い方はどうするの?」

「あれって、覚えるのも慣れるのも、結構大変だよ?」


そう、前世でそろばん4級だったワタシは知っています。

そろばんの最初の難関、『桁上がり』。

『10になるお友達』を意識して、足し算なのに引き算が発生する『桁上がり』の処理。

このハードルは、九九とか筆算が必修で算数慣れした日本人ならいざ知らず、この国の人に容易に理解できるとはとても思えません。


副支部長「【そろばん】の使い方は簡単ではないんですか?」


「う~ん。どんなに計算慣れしているひとでも、それなりに練習しないとダメだと思うの」

「【そろばん】をすぐに使えるひとは、いないと思うな~」


副支部長「そうだったんですか。それではちょっと厳しいかもしれませんね」


「えっとね? それなら、代わりにこれを使ってみてね?」


そう言って、いきなり本日6回目の【想像創造】です。



【カ〇オ ソーラー式電卓 ミニジャストタイプ 10桁表示 145×103×32mm 100g 580円】×100 58,000円



藪から棒に異世界の文明の利器を、一気に100個も創り出しちゃいました。


副支部長「ほお? こんなにたくさん? それでこれは何なのでしょうか」


「えっとね、これは【電卓】といってね、数字を押すだけで自動的に計算してくれる道具なの」


副支部長「『デンタク』? 自動で計算ですか? それは素晴らしいですね」


「でもね、この【電卓】は外国の数字で書かれているから、読み替えないとダメなの」


副支部長「ふむ。外国の数字ですか。でも数字を10文字覚えればいいだけなんですよね?」


「そうで~す! だから、【そろばん】の使い方を覚えるより、簡単だと思いま~す!」


実はワタシ、この国の数字を覚えた時、少し不満なことがありました。

それは、数字の表現方法が、例えるなら、日本語での漢数字表現みたいになっていて、そのままでは簡単に筆算できない感じなのです。

だからこの際、【電卓】を利用してもらうことにかこつけて、アラビア数字を普及させちゃおうと目論んでいるのです。


(公文書とかだとダメかもだけど、日常使うのならアラビア数字の方が便利だと思うんだよね~)


ということで、なぜか副支部長さんが持っていた、見覚えありまくりのクマさんとネコちゃん柄のノートに、この国の数字と日本語(アラビア数字)の対応表を書いて、副支部長さんに渡します。


副支部長「ふむふむ。これなら、覚えるのは大したことはなさそうですね」


「アリスちゃんもすぐ覚えたから、きっと大丈夫~!」


副支部長「アリスちゃん?」


アイリーン「あら、【マダムメアリーの薬店】のお孫さんのことよね?」


「そうで~す。ねぇねと同じぐらいのおともだちで~す」


副支部長「ほう? それは私も負けられませんね」


そんな感じで、やる気になってくれた副支部長さん。

【電卓】を餌にアラビア数字を普及させるというワタシの目論見は、うまくいきそうな雰囲気です。


副支部長「それでは、この『デンタク』の対価については後日改めて、ということでお願いします」

副支部長「どっこいしょっと。あ~やれやれ、今日ももう少しがんばりますか・・・」


そう言って数個の【電卓】を手にしながら立ち上がった副支部長さんは、なんだかお疲れのご様子です。


(およよ? 副支部長さん、かなりお疲れだね。だって『どっこいしょ』って言っちゃってるもん)

(アラビア数字を普及してもらうためにも、ここは副支部長さんには頑張ってもらわないとだね!)


ということで、本日打ち止め、7回目の【想像創造】です。



【指定医薬部外品 ドリンク剤 アゲイン 50ml 10本 2,860円】



前世のワタシの中で、ドリンク剤といったらこれです。

24時間戦えちゃうイメージソングが、今も頭をよぎります。


(ちょっとブラックな発想だけど、これでいろいろがんばっちゃってくださ~い!)


「副支部長さん、お疲れでしょ? これ、ワタシからの気持ちで~す」


そう言って、黄色と黒の勇気が出ちゃうモノを差し出します。


アイリーン「あら! 副支部長も天使ちゃんからステキな贈り物をもらえちゃいましたね?」

アイリーン「でも、私がもらったのとは違うみたい」


副支部長「もしかして、これが例の『琥珀色のソーマ』・・・」

副支部長「おチビちゃん、ありがとうございます。大切にいただきますね?」


「いえいえ。疲れてるのなら、今すぐグビっといっちゃってくださ~い」


副支部長「なるほど! この『ソーマ』は疲れに効くのですね?」

副支部長「分かりました。それでは早速部屋に戻って、いただくことにしましょう」


そう言って、たちまち笑顔になった副支部長さんは、数個の【電卓】と【ドリンク剤】を抱えて、颯爽と会議室を後にしたのでした。


(ん? ところで『ソーマ』ってなんのことだろう?)

(よくわからないけど、お気に召してくれたのかな?)


ちなみに残念ながら、今日は【想像創造】のレベルは上がらずじまいでした。

ここ最近は毎日レベルアップしていただけに、ちょっと肩透かしです。


(きっとたくさんのモノ創り出さないと、レベルアップしないんだろうな~)


今日はワタシたち3人が使うお洋服やバッグを中心に【想像創造】したので、創り出したモノは数的にも金額的にもわずかでした。

そのためにレベルアップできなかったとしたら、それは少し残念ですが、ねぇねとおにぃが喜んでくれたり、大切なひとたちとの記念撮影も行えたので、今日は大変満足です。


(たまにはこういう自分たちが使うモノを中心に【想像創造】する日があってもいいよね?)


ひとり密かにそう思うワタシなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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