72 自転車の管理と練習
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
おにぃ「オレはせっかく乗れるようになったから、二輪に乗るぞ?」
ねぇね「私は今日も【三輪自転車】にするね?」
「アイリーンさんも【三輪自転車】でいい?」
アイリーン「私も乗ることは決定なのね?」
アイリーン「まあ、二輪の自転車はどう考えても倒れてしまうイメージしか湧かないから、乗るなら【三輪自転車】一択だけど」
そんな会話をしつつ、ワタシたちのお家の入り口付近に置いてある銀色自転車シリーズに近づいていると、聞きなれた野太い声が聞こえてきました。
マスター「よお! なんだか裏庭が騒がしいと聞いてきたんだが、【リアカー】と【三輪自転車】の納品だったのか?」
ハンターギルドの物資調達部の主任兼、食堂の強面マスターさんが、片手をあげつつご登場です。
アイリーン「ちょうどよかった。後で呼びに行こうと思っていたのよ」
アイリーン「おチビちゃんが使用目的ごとに色分けした【三輪自転車】を創り出してくれたから、あとは管理と配布をよろしくね?」
マスター「色分け?」
「えっとね? 赤色は郵便屋さん用で、青色がお店屋さん用で、黄色が町の警備用なの」
マスター「なるほどな。そういうことなら、早速連絡しておくか」
「それとね? いきなり町中を走るのは危ないから、使う前にこの広場で練習してからにしてね?」
「あとね? 町中を走るときは、道の左側を走るとか、そういうルールもちゃんと決めてね?」
マスター「お? 練習と走行ルール決めか? ふむふむなるほど、そいつは確かに必要だな」
アイリーン「それで、自転車の管理はどうするつもりなの?」
マスター「ハンターギルドから使用者に貸し出すという形式にして、一括管理するつもりらしい」
マスター「故障対応とかのメンテナンス関係は、鍛冶ギルドに依頼する感じだな」
マスター「まあ、そういっためんどくせぇ調整は、副支部長に丸投げだがな。がっはっはっ!」
アイリーン「あなた・・・そんなんじゃ、いつまでたってもカワイイ天使ちゃんからご褒美もらえないわよ?」
マスター「なぬっ! それはマズイじゃねぇか。どうにかしねぇと・・・」
護衛1「あの、通行のルール決めにつきましては、領主館ともご調整いただければと思います」
アイリーン「そうですわよね。そのあたりは副支部長から領主館にご連絡させていただきますわ」
マスター「アイリーン、お前だって副支部長に丸投げじゃねぇか!」
アイリーン「私はいいの。だって『シュッセ』の専属なんですもの」
急遽はじまってしまった、オトナのみなさんによる自転車運用井戸端会議ならぬ広場会議。
(うんうん。こういうのって、最初にしっかり約束事を決めておけば、あとが楽だもんね~)
(逆に曖昧なままはじめちゃうと、後々もめる原因にもなるからね~)
おチビなワタシが、そんなこまっしゃくれたことを考えていると、ビーちゃん様が興奮気味にワタシに話しかけてきました。
ベアトリス「ねえ、おチビちゃん! あの二輪の自転車、私も乗ってみていいかしら!」
「いいよいいよ~。二輪の自転車は乗るのが難しいけど、慣れるとすごく速いんだ~」
「まだおにぃとアリスちゃんしか乗れるひとがいないけどね~」
「あ! でも最初はうまく乗れなくて、ビーちゃん様、けがをするかもしれないよ?」
ベアトリス「そうなの? それじゃあ、オニール君、乗り方を教えてくれる?」
おにぃ「えっと、オニールってオレのこと、ですよね? も、もちろんいいですよ?」
そんな感じで、ビーちゃん様はおにぃの補助付きで二輪の自転車に乗ることになりました。
そしてワタシは、今日も誰かに乗せてもらう気満々です。
(最初は、ねぇねの【三輪自転車】の後ろに乗せても~らおっと~) (^^♪
まずは【三輪自転車】に向かうねぇねの後ろについていきます。
するとそのとき、ビーちゃん様の護衛さん2人が困ったお顔でお話をしているのが目に入りました。
護衛1「おい、まずいぞ。またお嬢様が新たなる移動手段を手にしてしまう・・・」
護衛2「俺、全力で走っても、自転車のお嬢様のスピードに追いつけないんですけど・・・」
どうやら自転車に乗ったビーちゃん様のスピードは、護衛さんたちを悩ませているみたいです。
そういうことなら、自転車の供給元であるワタシから、解決策をビシッとアドバイスしておきましょう。
「ねぇ護衛さん、護衛さん。さっき創り出した黄色の【三輪自転車】をもらっちゃえば?」
「黄色は町の警備用だから、護衛さんが使ってもいいんでしょ?」
護衛1「ん? おお! それもそうだ」
護衛2「なるほど。それじゃあ、早速練習させてもらおうかな」
アイリーン「私には銀色のちょっと小さい【三輪自転車】を貸してね?」
アイリーン「大きいのは私にはちょっと大変そうだしね」
マスター「お? みんな自転車に乗るのか? それならオレも、前に借りた銀色のデカい【三輪自転車】に乗るか」
護衛さんに助言をしていたら、いつのまにかここにいる全員で自転車に乗る流れになっちゃいました。
(やったー! マスターさんも護衛さんたちも、一緒に自転車乗ってくれるんだ~)
(最初にねぇねの後ろに乗せてもらったら、そのあとはマスターさんにも乗せてもらおうかな~)
(でもマスターさんの自転車は速くて怖そうだから、やっぱりアイリーンさんにしよ~)
みんなの後ろに乗せてもらって、ひっつき虫になる気満々のワタシなのでした。
そんなこんなで、練習だったり、遊びだったり、目的はバラバラですが、みんな思い思いに自転車に乗りはじめました。
二輪の自転車を練習しているビーちゃん様とその補助のおにぃ。
黄色い【三輪自転車】にまたがって、ギヤやブレーキの動作確認をしている護衛さん2人。
銀色の大きな【三輪自転車】で、所狭しと広場を駆け回っているマスターさん。
はじめて乗るちょっとちっちゃな銀色の【三輪自転車】を、おっかなびっくり漕いでいるアイリーンさん。
そして、背中におチビなワタシをくっつけて、ゆっくりサイクリングを楽しむねぇね。
みんなバラバラにただ自転車に乗っているだけなのですが、同じ場所で顔見知りのみんなと一緒に何かをしている、そのことがそれだけなのにうれしくて、ニヨニヨ笑顔になっちゃうワタシなのでした。
ねぇねの背中に抱きついて、穏やかなサイクリングを楽しんだワタシは、その後、ようやく【三輪自転車】に慣れてきたアイリーンさんにも構ってもらいます。
「アイリーンさん、ワタシを後ろに乗~せ~て~?」
アイリーン「ん? いいけど、大丈夫? 危なくない?」
「だいじょ~ぶ! ワタシ、つかまるの得意なんだ~」
そう言って、ねぇねの時と同様に、必要以上にアイリーンさんの背中にひしっとしがみつきます。
ねぇねとおにぃ以外のひと、しかもオトナの女性に抱きつくのははじめてのワタシ。
振り落とされないようにという口実を最大限に活用して、やわらかであたたかなアイリーンさんの背中に勢いよくがばっと密着です。
するとなぜだかうれしくなって、思わず歓声が口をついて出てきちゃいました。
「わぁ~いわぁ~い♪」 (*^ヮ^*)
アイリーンさんのしなやかな背中にしがみ付き、右のほほ寄せ左のほほ寄せ、ゴソゴソと動き回っちゃうワタシ。
アイリーン「あははっ。おチビちゃん、ちょっとくすぐったいわ」
妙齢の女性の温もりをはじめて直接肌で感じたおチビなワタシは、なぜだかじっとしているのがもったいない気がして、ソワソワウキウキ落ち着かなくなっちゃうのでした。
Mノベルズ様より、書籍発売中です。