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70 またも撮影会

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


アイリーンさんを引き連れて、先程【想像創造】した【カメラ】とフィルムカセットを置くために、ワタシたちのお家、ハンターギルドの裏庭の奥の草むらの中に一旦戻ってきたワタシたち。

するとそこには、護衛さん2人の手によってぐるぐる回されている回転ジャングルジムの頂上で、腕組みしつつちょっぴり不満げに鎮座しているビーちゃん様が待っていました。


「あ! ビーちゃん様だ~、こんにちは~」


「「こんにちは~」」


ベアトリス「おっそーい。みんなどこ行ってたの? 私、結構な時間待ってたのよ? そして、こんにちはー」


『帰ってくるのが遅い』と文句を言いつつも、律義にワタシたちにご挨拶を返してくれるあたり、とてもよい子であることは間違いないビーちゃん様。

それはさておき、回転ジャングルジムの動きに合わせて体は回転しているのに、お顔だけは常にワタシたちの方に向いている(ように見える)ビーちゃん様。

一定の間隔で一瞬お顔がブレるのは、きっとそのタイミングでお顔の位置を修正しているのでしょう。

只今絶賛回転中のはずなのに、ワタシたちに全くそのことを感じさせないビーちゃん様の佇まいは、それだけで一生食べていけるぐらいのキレがあり、まさにイリュージョンです。


(ビーちゃん様のあの動き、すごいよね~)

(あれがお貴族様に不可欠な技術として名高い、『淑女のたしなみ』ってヤツなのかな? それとも社交ダンスかな?)

(お嬢様教育とかありそうだし、きっと日頃の訓練の賜物なんだろうな~)


そんな感じでワタシがビーちゃん様の立ち振る舞いに感心していると、近くから当惑の声が聞こえてきました。


アイリーン「え? ベアトリス様? どうしてここに・・・、ご、ご機嫌よう、お嬢様」

アイリーン「というか、何ここ? 何これ?」


アイリーンさんがワタシたちのお家、草むらの中に来るのは今日がはじめて。

いろんな遊具があるワタシたちのお庭に戸惑い、そして、そのお庭の遊具で当然のごとく遊んでいるビーちゃん様にさらに戸惑っている、そんな感じで困惑マックスのアイリーンさんです。


ベアトリス「みんな改めてこんにちは。それと、ハンターギルドの職員さん、そんなにかしこまらないでね?」

ベアトリス「なんだったら、おチビちゃんみたいに、私のことは『ビーちゃん様』と呼んでくれて構わないわよ?」


アイリーン「え? いえいえ、さすがにそれは・・・、ベアトリス様とお呼びさせていただきます」


ベアトリス「そう? それは残念ね」

ベアトリス「それはそうと、みんなが手に持っているその箱は何なのかしら?」


ご挨拶早々、ワタシたちが手にしている【カメラ】に気づいた、目ざといビーちゃん様。

好奇心旺盛なのは、【三輪自転車】の時と同じみたいです。

そしてその刹那、回転ジャングルジムの頂上から、忽然とワタシたちの目の前に移動していたビーちゃん様。


アイリーン「え!? ベアトリス様? い、いつの間に・・・」


それはまるで瞬間移動でもしたかのようで・・・。

ビーちゃん様の目新しいモノに対する好奇心は、どうやら時空を超えちゃうみたいです。


「えっとこれはね? 【カメラ】といって、写真を撮る道具なの」

「目の前の景色をすぐに描ける道具なんだ~」

「でもね、あまりひとにはあげられないモノなの」


ベアトリス「『かめら』? 『シャッシン』? よく分からないけど、それってすぐに絵が描ける道具なの? 凄いじゃない!」

ベアトリス「その道具があれば、工事とか災害とか、いろいろな現場の状況を正確に報告できるかもしれないわね?」

ベアトリス「いいな~それ、私も欲しいな~」


そしてソッコーで、ワタシに【カメラ】のおねだりをはじめるビーちゃん様。

見た目、おにぃよりちょっと背が高く見えるビーちゃん様は、おチビなワタシよりかなり背が高いはずなのに、なぜか下から上目づかいされているようになる錯覚は、日ごろからのおねだりで磨かれたテクニックなのでしょうか。

匠の技的な、洗練された職人芸を彷彿とさせます。


(えっと、どうしよう。こういう場合は渡さないとダメなんだよね?)

(とりあえず、ワタシのをあげようかな?)

(それにしても、お貴族様は、おねだり上手なんだね~)


そんな風に考えていたら、珍しくおにぃからビーちゃん様に声をかけました。


おにぃ「あのビーちゃん様、よかったら、オレのを使ってください」

おにぃ「オレはおチビに借りればいいだけですから」


そう言って、ビーちゃん様の護衛さんに【カメラ】を渡すおにぃ。

さすがワタシのおにぃです。なんともスマートで大人の対応です。


ベアトリス「いいの? えっと確か、オニール君だったかしら? ありがとう!」


ねぇね「わ、私のも、よかったら使ってください」

ねぇね「私もおチビちゃんのがありますから」


優しいねぇねもおにぃに右へ倣えです。


ベアトリス「え? ネーネちゃんも? うれしい!」

ベアトリス「この『かめら』? この町のために有効活用させてもらうわね!」


満面の笑みでお礼を言うビーちゃん様。

早速【カメラ】を受け取っていじりはじめました。


ベアトリス「へぇ~、こんなちっちゃいのにたちまち絵が描けるのね~」

ベアトリス「なにか特別な魔法的な仕組みでもあるのかしらね~」


するとここで、ねぇねがまたもやビーちゃん様に声をかけました。


ねぇね「あ、あの、ビーちゃん様、私の名前はネーネじゃないんですけど・・・」

おにぃ「オレもオニールって名前じゃ・・・」


ベアトリス「ん~? ネーネちゃんとオニール君でしょ~?」

ベアトリス「いつもおチビちゃんがそう呼んでると思ったけど~」

ベアトリス「そうよね~? おチビちゃ~ん?」


【カメラ】に夢中で心ここにあらず、そんな感じで、ノールックでワタシにお話を振ってくるビーちゃん様。

そんなぞんざいな問いかけでしたが、ねぇねとおにぃに関することである以上、キッチリお答えしておくのがワタシです。


「ビーちゃん様、あのね? ねぇねのお名前はねぇねで、おにぃのお名前はおにぃなのよ?」


ベアトリス「ほ~らやっぱり~。ネーネちゃんとオニール君でしょ~?」


【カメラ】をいろんな角度からためつすがめつ、またも生返事な感じのビーちゃん様。

きっと、細かいことはどうでもいいとか、名前なんて『分かればいい』ぐらいに思っているのかもしれません。


ねぇね「おチビちゃん・・・」


おにぃ「おチビ・・・」

おにぃ「えっと・・・もう、それでいいです・・・」

おにぃ「どのみち、名前はあまり知られたくなかったし・・・」(ボソボソ)


ついには、ねぇねとおにぃもお名前を訂正するのをあきらめちゃいました。

そんなことがあった後、ビーちゃん様に一通り【カメラ】の使い方を説明したのですが、論より証拠、百聞は一見に如かず、そんな感じの勢いで、ビーちゃん様による写真撮影会が急遽はじまっちゃいました。


ベアトリス「は~い! おチビちゃんはネーネちゃんのお膝の上ね~」

ベアトリス「ネーネちゃんの後ろからオニール君が肩に手をおいて~」

ベアトリス「おチビちゃんは左手は【すべり台】の縁をもって、右手はこちらに向けて手を振ってね~」

ベアトリス「みんな顔はこっちに向けて~、はい!」


カシャ(パッ)

ウィーン


いろいろな遊具で遊ぶワタシたち3人を撮影するビーちゃん様。

割と細かいポージング要求も飛んできます。


ベアトリス「は~い! いいわよ~。次は【ブランコ】に行きましょうか~」


新米カメラマンのビーちゃん様、かなりノリノリです。

そして今気づいたのですが、この【インスタントカメラ】は常にストロボが点灯するみたいで、日中の明るい日差しの下でもピカっとしています。


(あのストロボ無効にできないのかな~。あれじゃ電池がすぐなくなっちゃうよ~)


そんなことを考えていたら、ビーちゃん様の【カメラ】以外からのフラッシュがワタシの目に入ってきました。


カシャ(パッ)

ウィーン


どうやらアイリーンさんが、ワタシたち3人を撮影するビーちゃん様の姿を撮影したみたいです。


アイリーン「こちらの『シャッシン』はご領主さまにお渡しください」


護衛1「おお! これはありがたい」

護衛1「こんな生き生きとしたお嬢様の姿絵など、今までありませんでしたからな」


護衛2「ご領主さまも奥方様も、もさぞ喜ばれることでしょう。感謝いたします」


大人どうしでやり取りされる金髪美少女の生写真。

一見すると怪しい取引に見えなくもないですが、きっとビーちゃん様のお外での様子を報告するために使われるのでしょう。


ベアトリス「この『シャッシン』があれば、お父様にここの遊具のことをちゃんと分かってもらえるはずだわ」


そしてどうやらビーちゃん様は、ワタシたちのお庭にある遊具すべてを【カメラ】に収めて、ご領主さまに報告するつもりみたいです。


(遊具の写真が欲しいなら、ワタシたちのポージングって、あんまり必要ないんじゃないのかな~)

(でも、ねぇねとおにぃといっしょに写真撮影してもらえてうれしかったから、よしとしましょ~) (*^-^*)


予定外の写真撮影会になってしまいましたが、仲良し家族の記念撮影みたいだったので、大変満足なワタシなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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