69 専属
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みんなで炊き込みご飯のおにぎりを食べた後、今回の【マダムメアリーの薬店】からの指名依頼は、にわかに終了となりました。
メアリー「指名依頼の完了報告書はここに置いておくからね?」
メアリー「あたしゃ早速この銀色のポーションを薬師ギルドで調べてもらってくるよ」
そう言って、急いで出かけてしまったメアリーさん。
ワタシたちは突如として置いてけぼりみたいになっちゃったのでした。
時刻はお昼を過ぎ、夕方と呼ぶにはかなり前といった感じ。
ということなので、アリスちゃんにお別れをして、ハンターギルドに指名依頼の完了報告に向かうことにしたワタシたち3人なのでした。
「「「こんにちは~」」」
アイリーン「はい『シュッセ』の皆さん、こんにちは。今日の依頼は終わったのかしら?」
おにぃ「はい、終わりました」
アイリーン「そう、それじゃあ、早速別室に行きましょうか?」
ハンターギルドの受付でアイリーンさんの姿を見つけたワタシたち3人は、早速指名依頼の完了処理をしてもらおうと思ったのですが、今日は受付では何もせず、いきなり別室にご案内されちゃうみたいです。
いつもの会議室の、厚めのクッションが敷いてあるいつもの席に、おチビなワタシがおにぃに持ち上げられて座らせてもらうと、アイリーンさんからの説明がはじまりました。
アイリーン「まずは前回の受付での騒ぎについて、改めてごめんなさい」
アイリーン「あんなことが二度と起きないよう、こちらとしても対策を取りました」
アイリーン「その一つが、『シュッセ』の皆さんとのお話は、基本的にすべて会議室で行うということ」
アイリーン「そしてもう一つが、私、アイリーンが『シュッセ』の皆さんの専属になるということです」
「「「専属?」」」
アイリーン「そう。今後『シュッセ』関連のお話はすべて私が立ち会います」
アイリーン「なので、今まで以上に気軽に声をかけてちょうだいね?」
おにぃ「分かりました」
ねぇね「よろしくお願いします」
「お願いしま~す」
アイリーン「はい。よろしくね?」
アイリーン「それじゃあ早速、事務的なお話をさせてもらうわね?」
アイリーン「まず最初に、先日納品してもらった【文房具セット】の対価なんですけど、1セット200リル、1セット持ち帰りで残りの62セット納品してくれたので、12,400リル。これをチーム『シュッセ』と3人の各個人、4つの預入に分けて入金しました」
アイリーン「その結果、みんなの預入金額は、現時点では、ひとり116,335リルです」
おにぃ「え?」
ねぇね「そんなに?」
「すごいね~」
ひとり116,335リルという言い方をしたのは、たぶん、チーム『シュッセ』(116,335リル)、ワタシ(116,335リル)、ねぇね(116,335リル)、おにぃ(116,335リル)、ということなんだと思います。
ちなみに1リルを120~140円ぐらいだと考えると、116,335リルは大体、13,960,200~16,286,900円ぐらいです。
(すごい金額だね~。ワタシ、何もしてないのに、いいのかな~)
そんな感想を抱いていると、アイリーンさんがお話を続けます。
アイリーン「これにはまだご領主さまからの報酬が含まれていないから、あくまで暫定なんだけどね」
アイリーン「それに今後、ますます納品が増えるでしょうから、お金はもっともっと増えるでしょうね」
(そうか~。このあとさらに、ご領主さまからのお金も入ってくるのか~)
(ご領主さまって、お貴族様だよね? またすごい金額になっちゃうのかな~?)
そんなことを思っていたら、珍しくねぇねがお話しをはじめました。
ねぇね「あ、あの、前のお話のとおり、私のお金は全部、おチビちゃんの言っていた『ユービン』に使ってください」
ねぇね「もちろん、今後増える分についてもです」
ねぇね「私にはこんな大金、不要なので」
おにぃ「オレのも」
「ワタシもワタシも!」
アイリーン「ええ。あくまで投資ということで、『ユービン』のために使わせてもらいますね?」
「「「お願いします」」」
アイリーン「でも、いざという時のために、預入を全額使っちゃうのはちょっとおすすめできないわ」
アイリーン「預入金がゼロになっちゃうのは、みんなの将来的にも心配なのよね」
アイリーン「例えば『シュッセ』の誰かが病気やけがをしてしまった場合、どうするの?」
アイリーンさんがそう言ったその時でした。
おにぃ「病気は! 病気は絶対にダメだ!」
不意に鬼気迫る勢いで声を上げたおにぃ。
それまでは落ち着いた雰囲気だったので、ちょっとビックリです。
ですがそのショックのおかげで、おチビなワタシにも漠然としていた病気というその言葉の意味がしっかり認識できたというか、危険なモノなんだと肌で感じ取ることができました。
「え? ねぇねとおにぃが・・・病気?」
この世界で病気になるということは、前世のそれとは比べ物にならないくらいに危険で大変なことです。
なにしろこの世界では、化学的な衛生管理や医療体制なんて、全く整っていないのですから。
ねぇねとおにぃが、いずれ病気になるかもしれない。
それを認識できてしまったおチビなワタシは、プチパニックです。
「いや! ねぇねとおにぃが病気になるのは、いや! ぜ~ったい、い~や~!」
幼児特有の甲高い語勢で、癇癪を起こしたようになってしまったワタシ。
さっきまで叫んでいたおにぃも、気勢をそがれた感じになってしまいました。
おにぃ「おチビ・・・」
ねぇね「おチビちゃん・・・」
アイリーン「そうなの、病気になると大変なの。でも今後、病気にならないとは言い切れないでしょ?」
アイリーン「もし病気やけがになったとき、大金が必要となる場合もあるわ」
アイリーン「薬草やポーションは結構するし」
アイリーン「だからね? そういう時に備えて、お金を残しておきましょ?」
アイリーン「そこでなんだけど、チーム『シュッセ』としての預入はそのままにしておかない?」
おにぃ「そうですね・・・」
ねぇね「お金、あったほうがいいかも・・・」
「うん! 病気に備えてお金を残しておく~!」
そんな感じでアイリーンさんに説得されたワタシたち3人は、チーム『シュッセ』としての預入だけは今後も残すことにしたのでした。
アイリーン「私からの事務的なお話は以上です。次に今日の指名依頼について報告してもらっていいですか?」
おにぃ「はい。これが今回の【マダムメアリーの薬店】からの指名依頼完了報告書です」
アイリーン「拝見しますね?」
・・・
アイリーン「今回も大変好評価だったみたいですね」
アイリーン「特に、未知の効能の可能性がある新しいポーションの作成成功について、絶賛されていますね」
アイリーン「詳細は薬師ギルドでの精査が終わらないと何とも、ということみたいですが、それでも未知のポーションを作り出したことは評価に値すると記されています」
アイリーン「素晴らしい成果ですね」
おにぃ「ありがとうございます」
ねぇね「そう言ってもらえて、うれしいです」
「でしょでしょ? ねぇねとおにぃはとってもすごいんだ~」
ねぇねとおにぃ大好きなワタシは、ここぞとばかりにねぇねとおにぃの自慢を入れておきます。
アイリーン「報告書を見る限り、おチビちゃんの言う通り、2人は凄いみたいですね」
アイリーン「今後も【マダムメアリーの薬店】からの指名依頼があるでしょうから、またお願いしますね?」
おにぃ「はい」
ねぇね「がんばります」
「は~い」
アイリーン「それで『シュッセ』の皆さんから、何か報告とか相談とか、ありますか?」
おにぃ「はい。あの、おチビが『かめら』という、短時間で絵を描く道具を創り出しました」
アイリーン「それは今ここに?」
「今回はもってま~す」
アイリーン「えら~い! おチビちゃん、今回はいい子じゃない!」
「えへへぇ~」 (*´∀`*)
アイリーンさんに褒められてうれしくなったワタシは、早速【カメラ】とワタシ用に持ってきたねぇねとおにぃの2ショット写真をアイリーンさんに見せます。
「は~い。これが【カメラ】で、それで撮った写真がこれで~す」
アイリーン「これが『かめら』? と、これがそれで描いた『シャッシン』という絵なのね?」
アイリーン「すごくカラフルで詳細なのね?」
【マダムメアリーの薬店】にいる時から薄々気づいていましたが、ワタシ以外のみんなが言う『写真』は発音的にちょっと変で、前寄りアクセントの『シャッシン』になってしまっています。
「この【カメラ】はね? 目の前の光景をこのフィルムに写し撮ることができるの」
「誰でも簡単に使えるんだ~」
アイリーン「へぇー。おチビちゃん、これは納品することはできるの?」
「えっとね、これはフィルムを交換したり、電池が切れたら使えなくなったりするから、あんまり広められないの」
アイリーン「『ふぃるむ』? 『でんち』? よく分からないけど広められないのね? それはちょっと残念ね」
「でも身近なひとになら、渡してもいいと思うよ?」
アイリーン「身近? それは例えば、私ならいいのかしら?」
「アイリーンさんになら、もちろんいいよ?」
アイリーン「ホント?」
「うん!」
ということで、早速【インスタントカメラ】を再度【想像創造】です。
【インスタントカメラ チェック! スクエアタイプ 11,980円 + フィルム 100枚セット 8,400円 計20,380円】×5 101,900円
今回は【カメラ】の台数を5台にして、フィルムも多めに創造しちゃいます。
(ハンターギルドには、アイリーンさん用も含めて3台でいいかな?)
(あとは、ねぇねとおにぃにそれぞれ1台ずつということで!)
「それじゃあ、使い方は――」
・・・
アイリーンさんに【インスタントカメラ】の使い方をレクチャーしつつ、ハンターギルド用に創り出した300枚(30カートリッジ)のフィルムのうち、5カートリッジを失敬しておくワタシ。
玉切れ状態だった私の【カメラ】も、これでまた撮影することができます。
(どさくさに紛れてワタシの【カメラ】のフィルムも補給しちゃった~)
そんなこんなで【カメラ】の操作方法をマスターしたアイリーンさん。
アイリーン「ホント、凄いわね? この『かめら』」
アイリーン「これを使えば、現場の報告が容易になるわ」
どうやらお気に召していただけたようです。
これで指名依頼の完了報告会は無事終了しました。
今日はこのあともうひとつやっておきたいことがあるワタシは、アイリーンさんもお誘いしてみることにします。
「このあと、【リアカー】と【三輪自転車】の納品をするために裏庭の広場に行くんだ~」
「アイリーンさんも一緒に行く?」
アイリーン「もちろんよ、専属としてお供させてもらうわね?」
(やったー! アイリーンさんにも【三輪自転車】に乗ってもらうぞ~)
(そしてみんなでサイクリングして遊ぶんだ~)
納品という名のお遊戯会を画策していたワタシは、アイリーンさんという新しい遊び仲間をゲットしたのでした。
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