68 新しいポーション?
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
「それじゃあ、ねぇねとおにぃ、そしてワタシがもらう写真は、これとこれと、これでいい?」
ねぇね「うん。みんなと一緒でうれしい~」
おにぃ「ありがとな」
ねぇねが持ち帰りたいと選んだ写真は、メアリーさんが撮ってくれたワタシたち3人とアリスちゃんの4ショット写真。
おにぃが選んだのは、アリスちゃんが撮ったワタシたち3人の3ショット写真。
そして、ワタシが選んだのは、ワタシが撮ったねぇねとおにぃの2ショット写真です。
「残りの写真は、あとで全部アリスちゃんにあげるね?」
アリス「え? 残り全部くれるの? ありがとう!」
(アリスちゃんにあげる前に、全部の写真を見ておこ~っと)
そんなことを考えていたら、おにぃからヒソヒソと話しかけられました。
おにぃ「なぁおチビ、この『シャッシン』はたぶん大丈夫だろうけど、その『かめら』? はちゃんと持って帰るんだぞ?」(ヒソヒソ)
「え? どうして?」(コソコソ)
おにぃ「ここに置いてったら、たぶんまたアイリーンさんに怒られちゃうぞ?」(ヒソヒソ)
ワタシのなけなしの学習機能が働く前に、おにぃから教育的指導が入ってしまいました。
前回の【マダムメアリーの薬店】の指名依頼の時、いろいろと創り出してはそれらを全部【マダムメアリーの薬店】に置いていったワタシ。
そのことで、アイリーンさんには確認作業やらなんやらで、いろいろとお手数をおかけしてしまいました。
そのこと自体はすでに『山吹色のお菓子』で手を打っている(つもり)のワタシですが、またもアイリーンさんが大変になることをわざわざしようとは思いません。
ということで、ここはおにぃのご忠告を素直に聞き入れておくことにします。
「はぁ~い!」
ねぇね「うんうん。おチビちゃん、今日は偉いね?」
おにぃとワタシのヒソヒソ話に気づいたねぇねが、そう言ってワタシの頭を撫でてくれました。
ねぇねから不意打ちのお褒めのお言葉&ナデナデをちょうだいしたワタシは、ニンマリ至福なのでした。
でも、そんな楽しいひと時もそろそろおひらきのようです。
メアリー「お前さんたち、そろそろポーション作りの方にも精を出してくれるとありがたいんだがねぇ」
ポーション作りそっちのけで写真撮影に勤しんでしまったワタシたちは、メアリーさんのこの一言で、本来の目的を思い出しました。
アリス「あ! おばあちゃん、ごめんなさい」
おにぃ「ご、ごめんなさい」
ねぇね「す、すいません」
「あわわ、ごめんなさ~い」
メアリー「アリスがこんなに楽しそうにしている姿を見られるなんて思ってもいなかったよ」
メアリー「だからまあ、あたしゃ嬉しいんだけどねぇ、でもポーション作りも大切だからねぇ?」
アリス「うん。お仕事ちゃんとやるよ!」
「「ちゃんとやります」」
ということで、早速ポーション作りにとりかかるアリスちゃんとねぇねとおにぃ。
魔法が使えないワタシだけ、ここから先は交ざれません。
なので最後のお手伝いとばかりに、机の上に置いてあったクマさんとネコちゃん柄の【文房具セット】を拝借して、中に入っていた【のり】を使い、ポーションの色の変化がわかる写真を、撮影した順番にノートにのり付けしておくことにします。
アリス「ん? おチビちゃん?」
「はい、これで絵付きの手順書になったよ? みんなポーション作りがんばってね~?」
アリス「これ、すごいね! 色の変化の順番が一目で分かるね! ありがとう!」
これでワタシの出番はおしまい。
少しはみんなの役にたてたかな? と、気分よく作業中のみんなから離れるワタシなのでした。
・・・
それからしばらくして。
お部屋の隅にある長椅子に座り、アリスちゃんにあげる予定の十数枚の写真を眺めていたワタシは、今朝いつもよりほんの少し早く起きた影響か、知らぬ間にお昼寝してしまっていました。
そんなワタシは、突然聞こえてきたメアリーさんの大きな歓声で目が覚めたのでした。
メアリー「なんてこったい! こんな色の体力回復ポーション、初めて見たよ!」
寝ぼけまなこをこすりつつ、声がする方を見てみると、調薬の器を高々と掲げて、凄い凄いと連呼しているとメアリーさん。
そしてその正面には、お顔を真っ赤にしてうつむいているねぇねと、テレテレと頭をさすっているおにぃが見えました。
アリスちゃんもクマさんとネコちゃんのノートを胸に抱きながら、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねています。
『ふわぁ~』と大きくあくびをしたワタシは、のっそりと長椅子からおり、みんなに交ざるべく作業机の方へトテトテと近づきます。
アリス「あ! おチビちゃん。聞いて聞いて! 凄いポーションができちゃったみたい!」
メアリー「見ておくれよおチビちゃん。このポーションの色、銀色になっているだろぉ?」
メアリー「銀色と言えば神様の色、恐らくとんでもない効果があるに違いないさね」
メアリー「この最後に作ったポーションは、もう体力回復ポーションとは全くの別物になっちまってるだろうさ」
メアリー「いやはや凄いねこの子たちは。あたしゃこんなポーションはじめて見たよ!」
メアリー「これは早速薬師ギルドに詳細な検査をしてもらわないとだねぇ」
詳しくはわかりませんが、とにかく、ねぇねとおにぃが凄いポーションを作っちゃったみたいです。
ということで、ここはしっかり会話の流れに乗っかって、大好きなねぇねとおにぃを褒めそやしておきましょう。
「ねぇね、おにぃ、すごいポーションを作ったの? さすがだね! 天才だね!」
ねぇね「違うの違うの、そんな大したことじゃないの」
ねぇね「前におチビちゃんが『魔法はイメージが大切』って言ってたでしょ?」
ねぇね「だから、最後のポーションを作るとき、ちょっと工夫してみたの」
ねぇね「水魔法でお水を出すときに、汚いモノをキレイするように念じながら多めに魔力を込めてみたの」
おにぃ「オレも魔法で火を出すとき、悪いモノを燃やしちゃう感じを想像して、魔力を多めにしてみたんだ」
はにかむねぇねと照れるおにぃが、最後のポーションを作るときにどんなことをしたのか説明してくれました。
(いろいろとイメージしながら魔力を多く込めて作ったら、すごいポーションができちゃった、そういうことなのかな?)
(ねぇねとおにぃは凄いよね~。やっぱり魔法の天才なんだね~) (*゜▽゜*)
そんな感想を抱きつつ、ねぇねとおにぃに尊敬の眼差しを向けるワタシ。
そんなワタシの熱視線に気づいたのか、照れ隠しのような感じで、ねぇねが急に話題を変えてきました。
ねぇね「あ! そ、そうだ! 私たち、おすそ分けを持ってきたんです」
ねぇね「メアリーさんとアリスちゃん、よかったらどうぞ!」
そう言ってねぇねが持ってきたのは、机の隅に置かせてもらっていた大きな葉っぱの包み。
それは、今朝ワタシたちが食べきれなかった、炊き込みご飯のおにぎりが入っている包みです。
アリス「おすそ分け?」
おにぃ「朝作ったやつなんだけど、美味しかったから、2人にもどうかなって」
メアリー「食べ物なのかい?」
「そうなの。おにぎりっていう、お米を食べやすくニギニギしたやつなんだ~」
メアリー「お米かい? そりゃまた珍しいモノをもってきてくれたもんだねぇ~」
「お米って、珍しいの?」
メアリー「何十年か前まではよく出回っていたけど、今じゃなかなか手に入れられない代物だよ」
「どうしてですか?」
メアリー「それは金持ちとかお偉いさんが買占めしちまってるからさね」
メアリー「確か栽培方法は教会が独占してるんじゃなかったかねぇ?」
おにぃ「教会・・・」
こんなところで、またも教会というお名前が出てきちゃいました。
(お米と教会? どんな関係があるんだろ~) (・_・?)
メアリー「まあ何にせよ、お昼過ぎてちょっとお腹がすいていたから、ありがたいよ」
メアリー「せっかくだし、ご相伴にあずからせてもらうよ?」
ねぇね「どうぞどうぞ」
そう言ってねぇねが大きな葉っぱの包みを広げます。
メアリー「おや? これはもしかして、いろんな具材と一緒に調理したのかい?」
「そうで~す。炊き込みご飯と言ってね? 甘じょっぱくてとっても美味しいの」
アリス「この『おにぎり』は、大人用3つと子供用3つと、ん? このちっちゃいのは妖精さんのかな?」
「あ、えっと、それはワタシが――」
ねぇね「そうなの! それを食べると、きっと妖精さんから祝福がもらえるよ?」
アリス「そうなんだ! それじゃあ、私このちっちゃいのもーらいっ!」
ねぇね「私も~」
おにぃ「オレもな!」
おチビなワタシが上手に作れなかった小さなお団子おにぎりでしたが、ねぇねがうまくフォローしてくれたおかげで一番人気になっちゃいました。
魔法の実力もさることながら、こういう何気ない優しさと気配りを、こともなげにさらっとできるねぇねのことが、本当に凄いと思うワタシです。
それに加えて、そのねぇねの慈しみがワタシに向けられていることが、誇らしくて幸せで。
ねぇね「はい、おチビちゃんも食べようね?」
ニッコリ微笑むねぇねから手渡された、キレイな三角形のおにぎり。
「うん! ありがとう。ねぇね大好き~!」
ぽふっ
ねぇね「わぁ! 急に抱きつくと危ないよ?」
とにかくやたらにうれしくて、無性にねぇねにひっつきたくなったおチビなワタシなのでした。
Mノベルズ様より、書籍発売中です。