65 スペシャルエピソード(出会い)
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
今から2年ほど前のこと。
ここは、とある町の寂れたスラムの一角。
ちょっと開けたその場所には、たまに行われる炊き出し目当てに、浮浪児たちが数名たむろしています。
その開けた場所から裏通りに抜けるちょっと手前でのこと。
女の子「ねえねえ、あれ見て」
男の子「ん?」
女の子「あれって、捨て子じゃない?」
男の子「そんなの、ここじゃよくあることだろ」
女の子「そうだけど、なんだかとっても小さいよ?」
男の子「・・・」
女の子「ねえねえ、私、ちょっと見てくる」
男の子「あ、おい・・・」
走り出した女の子を追って、男の子もその場所へ向かいます。
建物の階段を椅子代わりにして座り込んでいたその幼児は、目を閉じたり開けたり。
首を前後にコックリコックリ、舟をこぎ始めていました。
女の子「ねえねえ、あなた、大丈夫?」
幼児「・・・」
声をかけられた幼児は、無言でその声の主に目を向けます。
女の子「見て見て、この子、すごくカワイイ!」
女の子「それにこの子の目、神様の目と同じ色してるよ!」
男の子「ふん。オレは神様なんて・・・、嫌いだ」
女の子「この子、ずっとここにいるのかな」
女の子「このままだと、人さらいとかに連れてかれちゃうかも」
女の子「それとも、教会に連れてかれるのかな?」
男の子「教会なんかに連れてかれたら、こいつ、なにされるかわからないぞ!」
幼児「・・・」
急な大声に驚いた幼児は、またも無言でその声の主に目を向けます。
男の子「っ」
女の子「ねえねえ、この子、一緒に連れて帰ろう?」
男の子「・・・まあ、・・・オレも、ゴブリンやオーガみたいなオニじゃないからな」
男の子「・・・お前がどうしてもって言うんなら、・・・しょうがないから連れてってやるよ」
男の子「・・・教会なんかよりはましだろうし」
女の子「ホント? ありがと!」
笑顔を男の子に向けた女の子は、今度は幼児に向かって微笑みかけます。
女の子「ねえねえ、あなた、一緒に来る?」
女の子「この、オニみたいに怖い子も一緒だよ?」
幼児「・・・ねぇね・・・おにぃ・・・」
幼児がはじめて発したその言葉は、女の子の物言いを真似たのか。
その声音は、とても小さくたどたどしいものでした。
男の子「オレはオニじゃねぇってーの!」
女の子「うふふっ。怖い怖~い」
女の子「そう思うよね? おチビちゃん」
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