52 謁見
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オトナ用の大きな三輪車にけん引されたリアカーに乗って、領主館に来たワタシたち3人と保護者一同。
道中、かなりの数の町の人たちの視線を集めたことは言うまでもありませんが、そんな些末なこと、今はスルーです。
ワタシたち3人はいつも通りの服装ですが、ジョシュアさんもギルドの支部長さんもアイリーンさんも、黒っぽい服を身にまとって、ちょっとおめかしさんです。
そしてあれよあれよという間に謁見の場所に案内されたワタシたち一行。
そこには、金髪に口ひげ、ちょっと優男風のご領主さまと思しき男性と、金髪のロングヘア、涼し気な目元の奥様らしき美人さんが、ちょっと高座になっている場所で、高級そうな椅子に座って待っていました。
早速、全員片膝をついてご挨拶。ワタシたち3人も、オトナの見様見真似で対応です。
領主「急にすまんね。館の中で噂になっている『黄金色の蜜』に興味があってね、それにその納品者にもね?」
そう言ったご領主さまは、意味ありげにワタシに目線を向けてきました。
(これはワタシに話しかけているのかな?)
そう思ったおチビなワタシは、空気を読まずに勝手に発言してしまいます。
「ご領主さま、ワタシ、発言してもよいでしょうか?」
ジョシュア「え?」
支部長「これこれ、おチビよ」
領主「まあよいではないか。おチビちゃん、発言を許そうではないか」
「ありがとうございます」
「まずは、ご領主さまのご希望をお伺いしたいのですが、派手な方がいいですか? それとも地味な感じでしょうか?」
領主「ん? 派手好きかといわれれば、そうであろうな」
「わかりました」
そうお返事をしたワタシは、早速【想像創造】(本日2回目)です。
【セ〇コー 自動巻き腕時計 セ〇コー5 ゴールド 生活防水 ステンレスベルト ミネラルクリスタル 40,500円】
前世の記憶にある、一番派手な金ピカ腕時計を創り出しました。
「どうぞ、これをお納めください」
ワタシは、近くにいた侍従っぽいひとに、創った腕時計を差し出します。
侍従から腕時計を受け取ったご領主さまは、
領主「これは凄い。こんなに小さく、身に付けられる時計があるとは。しかも全体が金色に輝いておる!」
「お気に召していただいて、よかったです」
「次に、今日の納品、はちみつは、どこに出したらいいでしょうか?」
領主「ん? ああ、そうであったな。あの『黄金色の蜜』も今ここに出してもらって構わんぞ」
「わかりました。それでは」
ということで、早速次の【想像創造】(本日3回目)です。
【はちみつ ブレンディッド 1200g 4,800円】×83個 398,400円
「どうぞ、お納めください」
領主「なっ? 一瞬にして、このような数の・・・」
領主「なんと見事な・・・」
奥様「キレイ。ほんと、キレイなガラスね」
ここにきて、奥様が発言しました。
(ん? 奥様は、ガラスがお好きなのかな?)
(じゃあ、ガラスをプレゼントした方がいいのかな?)
(でも、ただのガラスじゃ・・・)
(そうだ! アレならどうかな?)
ということで、本日4回目の【想像創造】です。
【自立式全身鏡 チーク無垢材フレーム 幅90cm×高さ180cm 29kg 49,500円】
「奥様には、こちらをどうぞ」
そう言って、創り出した姿見を指し示すワタシ。
そこでふと考えたら、この世界で自分の姿をちゃんと見た覚えがありません。
キレイなガラスがない世界です。当然、まともな鏡を見る機会なんて皆無です。
ということで、ついでなので、出てきた鏡を覗き込んでみます。
するとそこには、ちょっと輝きのある灰色の髪の毛に灰色の目をした幼女が映っていました。
(うぉ、だれ? まさかコレがワタシ?)
試しに前世の記憶にあるボディビルのポージング【フロントダブルバイセップス】をしてみましたが、鏡の中の幼女が全く力こぶがない中途半端な万歳をしはじめたので、たぶん、これが今のワタシなのでしょう。
そんな感じで、不思議顔をした自分の姿を鏡をとおして見ていると、奥様から声がかけられました。
奥様「こんな大きなガラスでできた鏡なんて・・・」
奥様「本当にいただいちゃっていいのかしら?」
「はい。ぜひどうぞ」
これで一件落着。
そう思ったときでした。
目の前に、ワタシのステータス画面が出てきました。
名前:アミ
種族:人族
性別:女
年齢:5歳
状態:発育不良 痩せすぎ
魔法:【なし】
スキル:【想像創造】レベル5(5回/日)
どうやら、スキルのレベルアップをお知らせしてくれたみたいです。
(やった! 【想像創造】がレベル5になって、1日5回使えるようになった!)
今日は4回【想像創造】したので、あと1回、なにかを創り出せることになります。
(状態は【発育不良 痩せすぎ】のままか~)
(もっとおいしいモノをたくさん食べないとだね?)
そんなことを思いつつ、この謁見もそろそろおしまいかな? と思っていると、この謁見の間に新たな人物が入ってきました。
女の子「私のは? 私には何かないの?」
おにぃと同じぐらいの背の高さで、金髪碧眼。
豪奢な髪を両サイドドリルにした、まさに動くお人形さんが、堂々の登場です。
領主「ベアトリス、今は接見中だ。後にしなさい」
ベアトリス「お父様とお母さまだけずるいじゃない。私も何かほしいのです!」
完全におねだりに来ただけみたいです。
そう思っていると、ねぇねとおにぃが反応しました。
ねぇね「あの子って・・・」
おにぃ「あぁ。炊き出しの時の・・・」
どうやらお嬢様のことを以前から知っているみたいです。
それはそうと、この状況をとっととどうにかしたいワタシとしては、さっさとプレゼントを渡してしまおうと考えます。
(女の子が好きそうなものを渡せばいいんだよね?)
(それなら・・・)
ということで、本日打ち止め、5回目の【想像創造】です。
【ミケネコさん ギュッと抱き枕ぬいぐるみ 約103×W30×D25cm 4,740円】
ワタシとほぼ同じ(ぬいぐるみの方が大きい)大きさのぬいぐるみを創り出した瞬間、その場でそのぬいぐるみにポフッと抱き着いたお嬢様。
カワイイ美少女がカワイイことをしているだけですが、とても絵になります。
そして、「凄~い! 大切にするね! ありがとう!」と、そそくさと帰っていくお嬢様なのでした。
領主「我が娘がすまんね。邪魔が入ったことだし、今日のところはこの辺にしておこうか」
奥様「おチビちゃん、今日はありがとうね。また遊びに来てちょうだい?」
「はいです。本日はお時間ありがとうございました」
支部長「ご領主さま、本日はこれにて、失礼させていただきます」
こんな感じで、謁見という名のプレゼント大会は無事終了。
今日納品したモノの代金は、精査して後日支払われることになりました。
(ただ強請られただけのような気がするのは、ワタシだけ?)
(なんだか体のいいカツアゲだよね? これ)
(でもまあ、対価はもらえるようだし、ちょっと変わった訪問販売だと思えば、これはこれでアリなのかな?)
そんなことを思いつつ、大量のはちみつをどたばたと片付けている侍従の皆様を横目に、要件は済んだとばかりにそそくさと退散するワタシたち一行なのでした。
そして帰りのリアカー上では、早速謁見の反省会がはじまりました。
ジョシュア「いや~、おチビちゃん、ありがとうね」
ジョシュア「全部おチビちゃんに任せっきりになってしまって申し訳ないよ」
アイリーン「でもご領主さまが寛大な方で良かったわ」
アイリーン「おチビちゃんったら、いきなりご領主さまに話しかけちゃうんですもの」
支部長「ワシはヒヤヒヤしたぞ? おチビよ」
「ごめん・・・なさい・・・」
「はやく・・・謁見・・・終わらせて・・・」
「・・・」
おにぃ「あ~、もうダメみたいだな」
ねぇね「今日はおチビちゃん、お昼寝してないもんね」
そして反省会開始早々、おチビなワタシは電池切れ。
ねぇねに後ろから抱き寄せてもらったおチビちゃんは、心なしか行きよりゆっくり丁寧に走るリアカーの上で、すやすや夢の中なのでした。
Zzz…(´~`)。o○
その頃、おチビちゃんたち一行が辞去した謁見の間において。
奥様「ねえ、あなた見た? あのおチビちゃん」
領主「ああ。鏡に映った自分の姿に驚いて、百面相しておったな」
領主「何とも愛くるしいことよ」
奥様「そうじゃなくて! まあ、それもそうなんですけど、違うのです!」
奥様「あのおチビちゃんの、髪と目が!」
領主「お前も気づいたか」
奥様「ええ。時折、光を反射したような・・・」
奥様「あれはつまり、そういうことなのかしら・・・」
領主「一見したところ、灰色のようだったが・・・」
領主「もしかすると、今日は思わぬ収穫だったかもしれぬな」
奥様「では、やはり?」
領主「今の時点では確証はない。確証はないが・・・」
領主「まずは陛下に一報だけでも入れておくべきであろうな」
領主「とにかく今後とも、注視しておくことにしよう」
領主夫妻の間で、なにやら意味ありげな会話が行われていたのでした。
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