49 ワタシの要望
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
アイリーン「ちょっと、ちょっと! おチビちゃんたち! 今すぐ会議室に行くわよー!」
ガレットのお店を営んでいたローラおねえちゃんを引き連れ、ハンターギルドに戻ってきたワタシたち。
そして、受付にいたアイリーンさんにご挨拶をしようとした瞬間、会議室にご案内されちゃいました。
一緒についてきたローラおねえちゃんは、置いてけぼりのポカン顔です。
ローラ「え? なに? だれ? どういうこと?」
・・・
ハンターギルドの受付に着いた早々、アイリーンさんに召集をかけられたワタシたち3人。
いつもの会議室にローラおねえちゃんも含めて全員が入ったところで、アイリーンさんがまくしたてます。
アイリーン「まずはおチビちゃん、ありがとう」
アイリーン「あなたの気持ち、このアイリーン、しかと受け取ったわ!」
アイリーン「アレのためならどんなことでもがんばれるわ。何でも言ってちょうだいね!」
いつもと目の色が違うアイリーンさんに、開口一番お礼を言われてしまいました。
アイリーンさんに朝渡した例のアレ、山吹色のお菓子が、どうやらアイリーンさんに対してかなりの効果を発揮しているみたいです。
「どういたしまして! そしてこれからもご面倒をおかけしま~す」
アイリーン「いえいえ、こちらこそ、これからもよろしくね!」
興奮気味のアイリーンさんがちょっと落ち着いたところで、早速ワタシたちのお話をはじめます。
「アイリーンさん、このひとはローラおねえちゃん。ガレットのお店のひとです」
ローラ「ど、どうも・・・」
アイリーン「はい、こんにちは。それで? このローラさんがどうしたの?」
「ワタシ、営業活動してきました~」
アイリーン「営業活動?」
「この【ホケミ】さんと、小袋の蜜を、ローラおねえちゃんにも売ってあげてください」
ここでワタシは、先程のローラおねえちゃんのお店でのことをざっくりと説明します。
アイリーン「う~ん。営業って、そういうことね?」
アイリーン「わかったわ。でもその代わり、小袋の蜜は納品の量を増やしてほしいわ?」
アイリーン「今の量だと、ハンターギルドで賄う分が足りなくなってしまうでしょうし」
そう聞いてワタシは、最近ようやく仕事をしはじめたワタシの学習能力を少し働かせてみます。
(ワタシのスキル【想像創造】って、たぶん、スキルのレベルと創り出せるモノのお値段に関係性があると思うんだよね~)
(お高いモノだと創れなかったりしたし・・・)
(だから、ちょっと実験してみよう!)
先程【想像創造】した、
【ふんわりパンケーキミックス 170g 小麦粉、砂糖、米でん粉、ホエイパウダー(乳成分を含む)、食塩、ベーキングパウダー等 368円】
これを何個創り出すことができるのか、それによって、スキル【想像創造】のレベルと創り出せるモノのお値段の関係性を調べてみようという魂胆です。
そろばんで鍛えた暗算能力を駆使し、早速、【想像創造】の限界テスト開始です。
(たぶんレベルの数字×10万円が限度なんじゃないかなぁ~?)
(ということで、まずは、【ホケミ】さん368円を1,500個で552,000円分を【想像創造】!)
(・・・)
(やっぱりだめかぁ~)
(それじゃあ、次は、【ホケミ】さん368円を1,087個で400,016円分を【想像創造】!)
(・・・)
(ふむふむ。これもダメ)
(今度は、【ホケミ】さん368円を1,086個で399,648円分を【想像創造】!)
【ふんわりパンケーキミックス 170g 小麦粉、砂糖、米でん粉、ホエイパウダー(乳成分を含む)、食塩、ベーキングパウダー等 368円】×1,086個
「できた~! やっぱり、スキル【想像創造】のレベルの数字×10万円が【想像創造】できる限界なんだ~!」
周りに人がいることをすっかり忘れて、【想像創造】の実験に没頭していたワタシ。
会議室には、1,086個の【ホケミ】の袋が所狭しとあふれかえってしまいました。
アイリーン「うわぁ、なになに? なんなの? この袋の山はなにごと?」
「これは、ワタシのスキルの実験です」
「一度にこれくらいなら創れることが分かったので、納品量を増やすのも大丈夫だと思います」
アイリーン「これだけあれば、たしかに大丈夫でしょうけど、これ、どこに置いておこうかしら・・・」
とりあえず、会議室を使えるようにするため、アイリーンさんは同僚に助けを求めに行ってしまいました。
・・・
しばらくして、会議室がようやく落ち着きました。
いま、会議室には、応援に駆けつけてきたマスターさんと、購買部のハンナさんもいます。
購買部ハンナ「それで、納品の量を増やせるって話だけど、具体的な数字はどれくらいなんだい?」
「えっと、【ホケミ】さん、小麦粉とか砂糖とかが交ざってるやつですけど、これは、1度に1,086袋です」
購買部ハンナ「ちなみに1袋ってどれくらい使えるんだい?」
「170g入ってて、さっきローラおねえちゃんのお店で焼いてもらった感じだと、クレープなら1袋で10枚は焼けるんじゃないかな?」
ローラ「ウチの店なら、1日10袋もあれば十分だと思う・・・」
購買部ハンナ「ギルドに卸してもらってる干し肉や小袋の蜜も、納品の量を増やせるのかい?」
「ちょっと待ってくださいね? 今、計算してみます」
今日はそろばん4級の暗算能力が大活躍です。
(確か、ビーフジャーキーは・・・)
【本格熟成ビーフジャーキー 30g 120個セット 粒胡椒 和風ダレにんにく風味 99,800円】
だったから、4倍は行けるね。
(小袋のジャムは・・・)
【給食用小袋ジャム 業務用セット いちごジャム オレンジマーマレード ブルーベリージャム りんごジャム チョコレートスプレッド ピーナッツクリーム つぶあん はちみつ メープルゼリー レーズンクリーム 15g×1200袋 32,400円】
だったから、12倍は可能かな。
「たぶんですけど、干し肉は今の4倍、小袋のジャムは12倍は納品できると思います」
マスター「そんなにか! そいつはありがてぇ」
マスター「今はひとり1袋と制限をかけて販売してるほど人気で品薄だったんだ」
購買部ハンナ「それならジャンジャン売れるねぇ~」
購買部ハンナ「うんうん。こいつは腕が鳴るねぇ~」
ここでワタシは、売る気満々のハンターギルドの皆さんに、ひとつお願いをしてみます。
「すいません。ワタシの納品したモノを売るにあたって、お願いしたいことがあります」
アイリーン「ん? なにかしら?」
「実は、さっき、【セオドア菓子店】に行ってきたんですが、ワタシたち、酷い扱いを受けました」
「それに、ねぇねとおにぃは、以前から追い払われたり、嫌なことを言われていたみたいです」
アイリーン「え? ごめんなさい。私がおすすめしたお菓子屋さんが、そんなところだったなんて・・・」
おにぃ「いいえ。大丈夫です」
ねぇね「アイリーンさんのせいではありませんから」
「それに、ワタシたちがいると、お店の品位が下がるから近寄るなと言われました」
「だから、ワタシが創り出したモノであのお店の品位が下がらないようにしたいと思いました」
アイリーン「ん? ふむふむ、なるほど? つまり、【セオドア菓子店】には一切売りたくない、そういうことね?」
「はいです!」
ワタシからのお願い、それは、【セオドア菓子店】には一切ワタシが納品したモノを売らないでほしい、ということ。
あの嫌な店員さんの言う通り、ワタシたちのような貧乏な子供は、あのお店には一切関わらないようにしてあげましょう!
(ねぇねとおにぃをいじめたお店になんかに、商品を卸してあ~げな~いっ!)
(-ε-)
アイリーン「りょーかい。納品者の意向は最大限に尊重しなくっちゃねっ」
アイリーン「でもまた今度、山吹色のごほうび、お願いねっ?」
アイリーンさんに、山吹色のお菓子(【ウィスキー】)の効果は絶大だったようです。
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