48 美味しくないお菓子屋さん
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
アイリーンさんおすすめのお菓子屋さん【セオドア菓子店】。
美味しいと有名ながら、ワタシたちに対する接し方はかなり尊大で横柄でした。
そんな印象が悪いお店ではお菓子を買う気にはなれなかったので、そそくさとそのお店から離れ、ワタシたち3人は大通りの反対側まで退散してきました。
すると、どこからか、食べ物のいい匂い、穀物が焼ける香ばしい香りが漂ってきます。
よく見ると、先ほどの嫌なお店から大通りを挟んだ反対側にも、小さなお菓子屋さんがありました。
まずはねぇねとおにぃに、このお店を知っているか、嫌な思いをしたことがあるお店かどうか聞いてみます。
「ねぇね、おにぃ。この店は知ってる?」
おにぃ「いや、知らないな」
ねぇね「うん。たぶん、前は空き家だったと思う」
そんな会話をしていると、そのお店の売り子さんがワタシたち3人に声をかけてくれました。
売り子「いらっしゃいませ~。ガレットはいかがですか~。焼きたてできたて、おいしいガレットですよ~」
子供だけだとまた何か言われるかもしれないと身構えていましたが、どうやらこのお店は、ワタシたちをお客さん扱いしてくれるようです。
お店の看板には『ガレットのお店 ローラ』の文字。
きっとこの売り子さんがローラさんなのでしょう。
お店の中にはメニューらしきものが張り出されていて、『ガレット1つ4リル』とだけ書かれていました。
「ねぇね、おにぃ、ガレット食べてみない?」
おにぃ「ああ、いいぞ」
ねぇね「すごく楽しみ~」
「おねえちゃん、3つくださいな?」
売り子「はい。まいど~」
ということで早速買って、早速実食です。
最近、ギルドの食堂で毎日おいしいものを食べているおかげで、舌が肥えはじめたおチビなワタシ。
そんな、にわかグルメなおチビちゃん。
できたてのガレットを一口含んでの、開口一番の感想は、
「あんまりおいしくないね?」
幼児特有の率直、シンプルかつどストレートな物言いで、お店のひとをノックアウトです。
売り子「うぐっ・・・」
おにぃ「そうか? オレは美味しいと思うけどな」
ねぇね「そ、そうだね・・・」
どうやらねぇねもワタシ側のようで、ちょっと言葉を濁しています。
ねぇね「そうだ! これ、この小袋の蜜をつけてみない?」
ねぇね「きっと甘くなるよ?」
ねぇねがいつもポケットに忍ばせている小袋ジャムを取り出しました。
いちごジャムとりんごジャムです。
早速ねぇねはいちごジャム、ワタシはりんごジャムをつけてガレットを食べてみます。
ねぇね「ん~。甘くなったね~」
「そうだね~」
ジャムをつけたら甘くなりました。
決して、美味しくなったとは言わないワタシなのでした。
売り子「なにそれ、なにをつけたの?」
ワタシとねぇねの行動を見ていた売り子のおねえちゃん。
小袋のジャムに興味津々みたいです。
どうせならここで、ちゃんと美味しいおやつを食べたいと思ったワタシ。
売り子のおねえちゃんのこの問いかけに、チャンス到来とばかりに、早速交渉に入ります。
「おねえちゃん、お名前はローラおねえちゃんでいいの?」
ローラ「え? そうだけど・・・」
「ローラおねえちゃん、なんでこのガレットは苦くてぼそぼそしているの?」
ローラ「そ、それは・・・」
ローラおねえちゃんが言うことには、仕入れがうまくできなかったみたいです。
どうやらできの良い小麦粉などは、商業ギルドが高位会員に優先的に回してしまうため、ローラおねえちゃんのような下っ端には、クズ小麦しか回ってこないみたいです。
そんなローラおねえちゃんの状況説明を聞いたワタシは、早速商談開始です。
「ローラおねえちゃんがワタシのお願いを聞いてくれたら、いろいろ教えてあげるよ?」
ローラ「ほんと? でも、お願いって、なに?」
「これを使って、ガレットを焼いてほしいのです」
そう言って、ワタシは【想像創造】であるモノを創り出します。それは、
【ふんわりパンケーキミックス 170g 小麦粉、砂糖、米でん粉、ホエイパウダー(乳成分を含む)、食塩、ベーキングパウダー等 368円】
前世では、休日のブランチ等でご活躍いただいた、いわゆる【ホットケーキミックス】、略して【ホケミ】さんです。
「これ、この粉を使って、ガレットを焼いてくださいな?」
ローラ「え? その粉で? ま、まぁいいけど・・・」
ということで、交渉成立。
早速【ホケミ】さんを程よく水で溶いて、焼いてもらいます。
・・・
そして、焼き上がったできたてアツアツをみんなでいただきます。
「ん~! いい匂~い! 柔らか~い! そして美味し~い!」
ねぇね「甘~い! 美味し~!」
おにぃ「さっきのと全然違うな。なんかすっごく甘くてうまい!」
ローラ「なにこれ? 高級な小麦? それにまさか、砂糖が入ってるとか?」
焼き上げられた極薄のパンケーキ。
どちらかといえばクレープといった方が近いかもしれません。
何もつけなくても程よく甘くて、とっても幸せのお味です。
「ローラおねえちゃん、【ホケミ】さんを焼いてくれてありがとう!」
「そして、今から、ワタシたちと一緒にハンターギルドに行きませんか?」
「甘いモノの秘密を全部教えちゃいますよ?」
学習機能が標準装備されているワタシは、昨日の不機嫌なアイリーンさんを思い出しました。
このままここでワタシたちだけでお話を進めてしまうと、きっとまたアイリーンさんがぷんすかしちゃうでしょう。
なので、後ろ盾となっているハンターギルドに戻って、オトナを交えてのお話合いです。
そしてあわよくば、こういった面倒なお話は、全てアイリーンさんに丸投げしちゃおうと考えたのです。
(せっかく山吹色のお菓子でアイリーンさんによろしくお願いしたんですから、働いてもらいますよ~?)
ローラ「え? ハンターギルド? なんで?」
急展開過ぎて全くついていけないローラおねえちゃん。
それでも甘いモノの秘密には抗えなかったようで、おチビなワタシの言う通り、ハンターギルドについて行くのでした。
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