46 見覚えのある依頼とお疲れのアイリーンさん
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
朝から【想像創造】で創り出した贈答用の【ウィスキー】。
ワタシが【想像創造】したモノの中では比較的小さい部類ですが、おチビなワタシにとっては、かなりの大物。
残念ながら、ワタシには持ち上げることができませんでした。
ということで、きれいな化粧箱に納められ、さらにその上から贈答用の紙袋に覆われたそれを、おにぃに持ってもらいます。
そして目指すは、朝のちょっと遅い時間で程よく混雑が解消されつつあるハンターギルドです。
ワタシたち3人がギルドホールに入ると、一瞬ワタシたちに注目が集まった気がしましたが、すぐに何事もなかったような雰囲気に戻りました。
最近よくあるいつものことなので、あまり気にせず受付に進もうとしたその時、ふと、近くの掲示板の中央に貼ってある依頼が目に留まりました。
依頼
依頼主:【セオドア菓子店】店主 セオドア
依頼内容:以下のモノを以下の対価で大至急求む
【ニホンセイ はちみつ ブレンディッド】1gあたり1リル(容器代込み)
納品場所:【セオドア菓子店】
納期:大至急
なんだかとても見覚えがあるような依頼内容です。
そして、とても内容がセコイです。
1gあたりの単価が、【ジョシュア雑貨店】の2リルに対し、このお店【セオドア菓子店】は1リル。
なんと、半分しかもらえません。
しかも、よく見ると、『(容器代込み)』と追記されています。
はちみつが入っているガラスの容器は、【ジョシュア雑貨店】では10,000リルで買い取ってくれます。
それをこのお店は、『ただでよこせ』と言っているのです。
(なんだろう、この依頼。二番煎じどころか、出がらしになっちゃってるよ)
そう思ったのはワタシだけではなかったようで、
ねぇね「あ! あの依頼、ジェーンさんとジョシュアさんのお店の真似してる!」
ねぇね「しかも、ケチ!」
普段おとなしいねぇねですが、【ジョシュア雑貨店】が絡むと目の色が変わります。
【ジョシュア雑貨店】のライバルと思しきそのお店を、ここぞとばかりに、必要最小限の言葉でけなします。
ワタシもねぇねの意見に全くの同意なので、その依頼は完全スルーなのでした。
「アイリーンさん、おはよーございます!」
「「おはようございます」」
変な依頼はちゃっちゃと無視し、そそくさといつもの受付カウンターにやってきたワタシたち3人。
お目当ての人を見つけると、早速ご挨拶です。
アイリーン「『シュッセ』のみんな、おはよう」
いつもより、かなりはしょった感じのご挨拶を返してくれたアイリーンさん。
顔色もいまいちな感じで、なんだかお疲れ気味のようです。
アイリーン「昨日はあれから、【マダムメアリーの薬店】に行って、いろいろ確認したり、ホント、大変だったんだから~」
アイリーン「今日もその続きやら報告やらで、もうクタクタ。疲れちゃったわ~」
そんな倦怠感をにじませるアイリーンさんの『空気読め』的な雰囲気をもろともせず、元気に凸するおチビなワタシ。
5歳児ワタシに、場の空気を読むなんてこと、期待してはいけないのです。
「アイリーンさん、昨日のお詫びに、これ、受け取ってくださいな?」
そう言って、おにぃに合図を送ると、おにぃが受付カウンターの上に、例のモノを置いてくれました。
おにぃ「ど、どうぞ、お受け取りください」
アイリーン「これは?」
最小限の単語で会話を進めようとするアイリーンさん。
ちょっとダルそうです。
「これは、ワタシたちからの昨日のお詫びのしるし。山吹色のお菓子です」
アイリーン「え? お菓子なの?」
「でもこれはオトナの世界のお菓子なので、よそのひとには見られてはいけないモノです」
「だからひとりになるまで開けてはいけません」
「いいですね? 絶対ですよ?」
アイリーン「ん? よくわからないけど、ひとりであければいいのね?」
「そうです」
「それと、これに免じて、今後ともよろしくお願いいたしま~す!」
「「よろしくお願いいたします」」
アイリーン「うん? よくわからないけど、ギルドが後ろ盾になっている以上、今後も面倒は見させてもらいますね」
(これでアイリーンさんの買収は完了だね! これぞオトナの処世術だね!)
これで昨日のことはチャラになったはず。
ひとりそう思い、オトナの解決ができたと、大変満足気なワタシなのでした。
今日やるべきことはこれで終了。
あとは、ワタシたち3人の時間を楽しむだけです。
ということで、必要な情報を早速アイリーンさんに質問です。
「それで突然ですがアイリーンさん。美味しいお菓子のお店を知りませんか?」
アイリーン「え? お菓子のお店? 本当に突然ね? まあおチビちゃんなら今更なのかしらね?」
アイリーン「えぇ~っと、お菓子店ね~、そうね~、お高いけど有名なのは【セオドア菓子店】かしらね」
(ん? 【セオドア菓子店】? どこかで聞いたような・・・)
ねぇね「それって、さっきのケチな依頼のお店!」
「ああ、掲示板にあった、はちみつのパクリ依頼を出してる、しぶちんさんのお店ですね~」
アイリーン「おチビちゃん、あなた・・・」
アイリーン「『パクリ』だとか『しぶちん』なんて言葉、どこで覚えたのかしら・・・」
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