43 アリス(アリス視点)
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
私はアリス。
長く続く薬師の家系に生まれた、12歳の女の子です。
私には、有名な薬師だったお父さんとお母さんがいました。
火魔法が得意で、いつも優しく頭を撫でてくれたお父さん。
水魔法が得意で、いつも穏やかに笑いかけてくれたお母さん。
そんな大好きなお父さんとお母さんには、今はもう会えません。
王都に納品に行く途中、ふたりが乗っていた馬車が崖から落ちてしまったそうです。
私が8歳の時でした。
今はお父さんとお母さんの思い出がいっぱいのこの薬店を継ぐために、おばあちゃんにいろいろ教えてもらっています。
将来は立派な薬師になって、お父さんとお母さんがいる天国にも、薬師アリスの名が届くようにと、がんばっています。
でもそう簡単にはいかないようで、毎日のポーション作りは、思うようにいきません。
おばあちゃんに言われたとおりにやってみても、ポーションをうまく作ることができません。
おばあちゃんからは、「これだけはセンスの問題だからのぉ、仕方ないさねぇ」と言われいます。
少しうら悲しい、少し薄暗い感じがする、毎日がそんな気分です。
そんな私の日々の生活に変化がありました。
今日、私の薬店におばあちゃんが指名依頼をかけた子供ハンターの3人組が来ました。
おばあちゃんが目を付けた魔法が使えるハンターみたいです。
火魔法が得意で、私よりちょっと年上にみえる元気そうな男の子。
水魔法が得意で、私と同い年ぐらいのやわらかな雰囲気の女の子。
そして、ひとりおチビちゃんがいましたが、その子は魔法は使えないみたいです。
その子供ハンター3人組の前で、おばあちゃんが一通りポーションの作り方を見せるというと、おチビちゃんがなにやらはじめました。
おばあちゃんの説明を途中途中で止め、おばあちゃんが用意した薬草の粉末類を、一種類ごと丁寧に正確に量って、記録しているみたいです。
いつ、どこから道具を出したのか、さっぱりわかりませんでしたが・・・。
魔力水の量や、火魔法の保持時間なども細かく書き留めていくおチビちゃん。
今までの私とおばあちゃんとの作業とは全く違うことをしていて、なんだか新鮮です。
そしておばあちゃんによるポーション作りの説明が終わると、今度はおチビちゃんが子供ハンター3人だけでポーションを作ってみたいと言い出しました。
絶対に無理だと思いました。
失敗すると思いました。
だって、私でも、それは無理だからです。
おばあちゃんから教えてもらいながら4年もがんばっている私でも、作ることができないからです。
でも私の予想とは違い、3人はポーションを作り上げてしまいました。
しかも、すごく色が濃い、上等なものができあがりました。
おばあちゃんはその3人が作ったポーションを見て、魔法が使える男の子と女の子を称賛していました。
材料の魔力を破損させない安定した魔法の火を操る男の子。
目に見えて魔力を豊富に含んでいる魔法の水を創り出すことができる女の子。
私もそのふたりは凄いと思いました。
でも、もっとすごいのはおチビちゃんだと思います。
(魔法もうらやましいけど、おチビちゃんのあの計量の道具と手順書は、それ以上に凄いと思う)
(だって、おばあちゃんがいなくても、あれがあれば、私でも何度も同じものを作れそうだもん)
そう思い、試しに私も一緒にポーション作りに参加させてもらいました。
そして私の予想通り、おばあちゃんがいなくても、私でもポーションを作ることができました。
何回かポーションを作ってみましたが、失敗することはありませんでした。
しかも、できたポーションは、全部、全く同じに見えます。
おばあちゃんは、ポーションの材料の分量を、すべて体感的に比率で決めていきます。
最初につまんだ材料から、次の材料の量を比率で決めて、さらに次の材料も最初の材料の量から割り出していきます。
それが昔からの、薬師が師匠から教えられてきたやり方です。
でもそれは、かなり感覚的で、曖昧です。
おばあちゃんが言う、センスの領域です。
でも今日、おチビちゃんは、そんなやり方を全く気にせず、一つ一つ材料の量を正確に量って記録していました。
今までの薬師のやり方とは全く違うそのやり方は、私にとってあまりにも衝撃的でした。
そもそも、常に比率を意識して分配を決めるやり方しか知らなかったので、それ以外の方法があるとは思ってもいませんでした。
おチビちゃんのやり方なら、きっといつでも何度でも同じものを作ることができると思います。
その日によって出来が良かったり悪かったり、そんな品質のばらつきもなくなるかもしれません。
ただそれには、ちょっとつまんだだけの材料の、かなり小さな重さを量ることができる道具が必要です。
今まで、そんな精密に量れる道具、見たことがありませんでした。
なので、今日おチビちゃんが持ち出した、あの計量の道具類は、驚きです。
欲しいです。
是非とも譲ってほしいです。
あれがあれば、私でもひとりでポーションが作れるかもしれません。
そんな気持ちが出てしまって、おチビちゃんの手を取り、興奮気味におチビちゃんの凄さを語ってしまいました。
すると、おチビちゃんがあの計量の道具と手順書を私に譲ってくれると言ってくれました。
そして、今度遊ぼうと誘ってくれました。
うれしくてうれしくて、すぐに手順書を手に取り、抱きしめてしまいました。
(別に、そのノートのクマさんとネコちゃんの絵が可愛いかったからではありませんよ?)
(ノートとおそろいの図柄の鉛筆を使って、ニコニコと字を書いているおチビちゃんの姿が可愛くて、うらやましかったからではありませんよ?)
今まで薬師の修行ばかりで、お友達はひとりもいませんでした。
それが今日、一気に3人もできました。
とてもうれしいことなのですが、ちょっとだけ寂しい気持ちもわいてきました。
私のお父さんと同じ火魔法が得意で優しげな男の子と右手をつなぎ、私のお母さんと同じ水魔法が得意で穏やかそうな女の子と左手をつなぎ、ふたりの真ん中でうれしそうに笑顔を振りまいているおチビちゃん。
私が少し寂しい気持ちになったのは、3人仲良く手をつないで帰っていく、そのむつまじい後ろ姿を見送ったときでした。
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