42 おともだち
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
お部屋の隅の長椅子でお昼寝をして気分スッキリ。
そしてメアリーさんにひとしきり構ってもらって、大変満足したワタシは、アリスちゃんとねぇねとおにぃのポーション作りの作業にに交ざることにします。
「みんな~、どうですか~? ポーション、できましたか~?」
おにぃ「おう、けっこうたくさんできたぞ」
ねぇね「粉の量を量るのがちょっと面倒だけど、なんとかできたよ」
アリス「私、おばあちゃんの手助けなしで、初めてポーション作りに成功しました」
アリス「材料をおばあちゃんじゃなくて自分で取り分けて、ポーション作りに成功したのは初めてでした」
どうやら孫娘のアリスちゃんは、いつもおばあちゃんに材料の分量を決めてもらっていたみたいです。
「こうやって、しっかり量って、手順通りに作れば、たぶん毎回同じものが作れるよ?」
アリス「そう! そうなの! そこが凄いの!」
アリス「おばあちゃんみたいに長年やってる薬師じゃなくても、材料の分量を決められるのが凄いの!」
アリス「しかも、何度も何度も繰り返し、同じものが作れるの!」
ワタシの両手をとり、興奮気味に語り始めたアリスちゃん。
アリスちゃんとおチビなワタシとでは身長差があるので、ワタシは軽く万歳状態です。
アリスちゃんは興が乗ってきたのか、その場で軽くステップを刻みはじめちゃってます。
(うわぁあああ、なんだか一緒にお散歩中の大型犬に引きずられている気分~)
単にうれしいというだけではなく、なんだかいろいろため込んでいたものを発散している感じのアリスちゃん。
先程までの、やや無口気味な印象は全くありません。
「それじゃあ、今度からは、アリスちゃんひとりでもポーション作れるね?」
ややあって、少し落ち着いたアリスちゃんの顔を見上げつつ、そう問いかけてみると、アリスちゃんの歓喜の舞は、急に終了になりました。
アリス「でも、私、量る道具とか、持ってないし・・・」
今度は急に、沈んだ表情になるアリスちゃん。
アリスちゃんは、かなり喜怒哀楽が激しい女の子のようです。
「ん~と、それなら大丈夫だよ? 今日使った計量器具とかは、全部ここに置いていくから」
アリス「え? そうなの?」
「えっと、ワタシたちは、今回指名依頼でお手伝いに来ただけだから、この道具類はここでしか使わないと思うの」
「だらか、これ全部、アリスちゃんにあげるね?」
「いいよね? ねぇね、おにぃ」
おにぃ「もちろんさ」
ねぇね「それはおチビちゃんのだから、おチビちゃんの決めたとおりでいいよ?」
アリス「おチビちゃん、いいの?」
「うん。でもそのかわり、今度ワタシとたちと一緒に、遊んでね?」
アリス「え? もちろん!」
そう言ったアリスちゃんは、クマさんとネコちゃんのノートを両手で抱きしめて、ニコニコ笑顔なのでした。
(やったー! どさくさ紛れに、はじめてのお友達ゲットで~す!)
ハンターギルドに加入してから、3人だけだったワタシたちの世界は、ちょっとずつちょっとずつ広がってきました。
外の世界、社会とかかわりあいを持つようになったワタシたち3人。
でも、同世代の子供と接したのは今日がはじめてです。
お友達と楽しい時間を過ごすこと、それは、今までできなかったこと。
生きるために精一杯だったワタシたち3人が考えたこともなかったこと。
脱スラムできた今のワタシたち3人が、ようやくできるようになった『普通』のことなのです。
ワタシたちの会話を聞いていたメアリーさんも会話に加わります。
メアリー「おやおや、アリスにもお友達ができたみたいだねぇ~」
メアリー「いつも薬師の修行ばっかりで、誰かと一緒に遊んでいるところを見たことがなかったから、心配だったんだよ」
メアリー「良かった良かった。今日はいいことずくめだねぇ」
メアリー「また『シュッセ』に指名依頼を出すから、ぜひともまた来ておくれ」
「はい」
「「よろしくお願いします」」
ついでなので、メアリーさんにもひとつお願いをしておきます。
「それで、メアリーさん。あの、今後このお店に来る時は、裏庭から来てもいいですか?」
メアリー「ん? 裏庭から? どういうことだい?」
「実はワタシたちのお家、裏庭の先の草むらの中にあるんです」
「だから裏庭からならすぐに来れるんです」
メアリー「へぇ~、また随分と変わったところに住んでるんだね~」
メアリー「もちろん裏庭を通ってきても構わないけど、でもあそこはハンターギルドの土地じゃなかったかい?」
おにぃ「ハンターギルドからもらったんです」
ねぇね「楽しい遊び道具もあるんです」
メアリー「へぇ~、遊び道具かね~」
メアリー「それじゃ今度、アリスも一緒に遊ばせてもらいな?」
アリス「うん!」
最後にそんなうれしい出来事もあり、時刻は夕方少し前になりました。
メアリーさんから指名依頼の継続のお話と、その旨を記した完了報告書をもらったワタシたち3人。
とても充実した一日を過ごしたワタシたち3人は、満足気に3人で手をつなぎながら【マダムメアリーの薬店】の裏庭に回ります。
そして、ワタシたちの草むらのお家の、壁代わりに残しておいた背の高い雑草を、人ひとりが通れるように踏み倒しながらお庭の中まで進み、【マダムメアリーの薬店】側の出入り口を作ります。
そしてそのままお庭を通り抜け、指名依頼の完了報告をするため、ハンターギルドに戻ったのでした。
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