41 計算
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
早速【拡大鏡】を使って薬草類の納品報告書を確認しはじめたメアリーさん。
その表情は、先ほどまでの苦渋のような困ったような、そんな感じはなくなっていました。
手持ち無沙汰になったワタシは、興味本位で、真横に座るメアリーさんが見ている報告書をのぞき込んでみます。
縦横で罫線が引かれたそれは、前世でもよく見た集計表のようでした。
(ということは、一番下が合計なのかな?)
試しに一番ワタシに近くて覗き見しみやすい、表の最右の列を上から加算してみます。
(え~っと、上から、願いましては~、113円なり、89円なり・・・)
実はワタシ、前世でそろばん4級だったので、暗算はそこそこ得意なのです。
(そろばんは、がんばれば4級までなら普通にとれるんだけど、3級が、3級に越えられない壁が・・・)
そんなちょっとほろ苦い思いが頭をよぎりつつも、しっかり暗算をこなしたワタシ。
その結果を表の一番下に書いてある数字と見比べると、なんと、一致しませんでした。
(あれ? 暗算間違っちゃったのかな?)
試しに、もう一つ隣の列を暗算してみると、今度は一番下の数字と一致しました。
(これって、最初に暗算した最右列の一番下の数字が間違ってるんじゃないのかな?)
そう思ったワタシは、メアリーさんに話しかけてみます。
「メアリーさん、メアリーさん、その表、計算間違ってませんか?」
メアリー「え? 間違ってる? どこだい?」
「その表の一番右下の数字、たぶん違うと思います」
メアリー「どうしてそこが間違ってると思ったんだい?」
「実はワタシ、計算は得意なんです」
ちょっと『むふぅ』と胸をそらして自慢げに語ってみましたが、メアリーさんは半信半疑といった感じです。
メアリー「本当なのかい? 計算なんて、おチビちゃんにできるとは思えないんじゃがのぉ」
「本当ですってば~。それじゃあ、今から目の前で証明しますね?」
ということで、本日4回目の【想像創造】です。
【玉の大きいそろばん 高齢者用11桁 3,080円】
この【そろばん】を使って目に見えるように計算してみせれば、きっとわかってくれるはずです。
ということで、早速【そろばん】を使って計算してみせることにします。
「メアリーさん、今から、この【そろばん】という計算機を使って、報告書の表を実際に計算してみますね?」
メアリー「ん? 計算機? そうかい? どこから出したのか良くわかないけど、まあ見せてもらおうかね」
「はい」
「ではまず最初は、この【そろばん】という計算機を初期状態にします」
「この横棒、梁っていうんですけど、これをなぞる感じでこうすると」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
メアリー「ん? 玉が上下に分かれたね、上は1つで下は4つなんだね?」
「そうです。これが御破算という最初の状態です」
メアリー「ふぅ~ん。『ゴハサン』ねぇ~」
「それではここから、【そろばん】という計算機に実際に数字を入れてみましょう」
「メアリーさん、その報告書の表の一番右の列の1行目の数字は113でしょ?」
メアリー「ん? ああそうだね」
「113は、この【そろばん】という計算機だと、こう、なります」
ぱちんぱちんぱちん
「梁についてるこの黒丸を基準にして、1、1、3、こんな感じです」
メアリー「ふむふむ。このハリだったか、これより下の玉を1つと1つと3つ上にするのかい?」
「そうです」
「一番下の桁の数字、3を、梁の黒丸のところに合わせるのが重要です」
メアリー「なるほど」
「次に、報告書の表の一番右の列の2行目の数字は89ですが、【そろばん】ではこう、表現します」
ぱちんぱちん
メアリー「ふむふむ」
メアリー「ん? ということは、このハリの下が4までの数値で、上の狭い方の1つが5を表しているのかい?」
ワタシによる【そろばん】の説明を真剣に聞いてくれるメアリーさん。
メアリーさんはかなり理解力があるようで、【そろばん】の仕組みをすぐに理解してくれました。
「そうですそうです。だから、113がこうで、89がこう」
メアリー「ほうほう」
「それで両方を足すと、こうなるから、合計はこう、数字で202ですね」
メアリー「ほぉ~、これは面白い」
「じゃあ、続きで一番右の列の3行目数字が――」
・・・
こんな感じで【そろばん】で表の一列を合計してみた結果・・・
メアリー「ほぉ~、確かにこの表のここの計算は間違っとるわぃ」
「ですよね?」
メアリー「おチビちゃん、よく間違いに気づいたね~」
メアリー「凄いじゃないかい」
「えへへぇ~、計算は得意なんです」
褒められるとうれしくて、ゆるゆるのお顔になってしまうワタシ。
今まで、ねぇねとおにぃ以外に褒められたことがなかったワタシ。
全く褒められ慣れていないだけに、なおさらテレテレしちゃいます。
メアリー「それとこの【そろばん】計算機、すごく便利だねぇ~」
「そうでしょ? お気に召しました? よかったら、これももらってくださいね?」
メアリー「え? いいのかい?」
「はい、褒めてくれたお礼です」
ねぇねとおにぃ以外で、1対1でこんなに長い時間お話したのは、たぶんはじめてなワタシ。
それがなんだかうれしくて、あれもこれもプレゼントしちゃうワタシなのでした。
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