38 はじめての指名依頼
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
おにぃ「こんにちは~、ハンターギルドの依頼で来ました~」
「「こんにちは~」」
やってきましたお隣さん、今回ワタシたち『シュッセ』をご指名の【マダムメアリーの薬店】です。
メアリー「おやおや、『シュッセ』の3人さん。よく来てくれたね」
依頼主のメアリーさんは、前回の草刈り依頼のときと同様に、ニコニコ笑顔の糸目でワタシたち3人を出迎えてくれました。
メアリー「来てくれたってことは、指名依頼を受けてくれる、そういうことでいいのかい?」
おにぃ「そうです」
「「よろしくお願いします」」
メアリー「そうかいそうかい。それじゃあ、早速案内しようかね」
ということで案内されたのは、中央に大きなテーブルがあり、壁際にびっしり大きな棚がいくつも並べられたお部屋。
その棚は、等間隔に同じ大きさのマス目に分かれていて、整然としています。
(郵便局内で見た郵便物の分別棚みたいかも)
前世で年始の年賀状配達のバイトをした時の記憶が一瞬頭をよぎったワタシ。
棚にはこれまたたくさんの壺やらビンやらが収められており、すべてを見るだけでも大変そうです。
そんなことを思っていると、メアリーさんがひとりの女の子を連れてきました。
メアリー「この子は私の孫娘でアリス。今日はこの子と一緒に、ポーション作りのお手伝いをお願いするよ?」
アリス「アリスです。今日はお手伝い、よろしくお願いします」
そう自己紹介してくれたのは、ねぇねと同じか少し小さいぐらいのカワイイ女の子。
作業用なのか、濃紺のエプロンと、頭には白い三角巾を着けたゆるふわ茶髪のお孫さんは、ワタシたちに微笑んでくれました。
ワタシたち3人はつい先日まで現役バリバリの欠食児だったので、体格は実年齢よりかなり小さめ。
そう考えると、アリスちゃんの年齢は、ねぇねより下なのでしょう。
ねぇね「こんにちは、よろしくお願いします」
おにぃ「こんにちは」
「よろしくお願いします」
挨拶も済んだので、早速お仕事開始です。
メアリー「今日はアリスと一緒にポーション作りの助手をしてもらうんだけど、最初に一通り私が作業を見せるから、その手順を覚えてもらえるかい?」
おにぃ「分かりました」
ねぇね「お願いします」
ということで、まずはメアリーさんにポーション作りを一通り見せてもらえることになりました。
今日は魔法がメインのお仕事なので、ワタシ的には出番がありません。
ちょっと下がった場所で、みんなの作業を見守る態勢に入るワタシでした。
作業机からちょっと離れて、みんなの作業を遠目から見守るワタシ。
でも、少しでもねぇねとおにぃの役に立ちたいワタシは、隙あらばバックアップする気満々です。
(まずは作業手順を覚えるのか~)
(それなら、書き留められるモノが必要だよね?)
ということで、こっそり【想像創造】しちゃいます。
(書くものとかいろいろセットのヤツ、【想像創造】!)
【文房具セット 小学生女の子用(クマとネコのキャラ絵付き)道具箱、筆箱、下敷き、A4自由ノート、2B鉛筆10本、色鉛筆12色、鉛筆削り器、消しゴム、ネームペン、物差し、のり、セロテープ、はさみ 7,880円】
文房具のセットというと、小学校の入学祝いに親からプレゼントされるような、ファンシーなモノしか想像できなかったワタシ。
思いのほか、ラブリーなモノが創り出されてしまいました。
(なんか、お仕事に使うにはちょっと場違いな感じがするけど・・・)
そんなことを思いながらも、実はけっこう気に入っていたワタシ。
いそいそと、クマさんとネコちゃんの絵が描かれたノートと鉛筆を両手で抱きかかえるように持って、ねぇねとおにぃに交ざります。
メアリー「まずは、そこの1番の棚の1番目の枠から10番目までの枠に入っている壺を持ってきて、その中の粉末を適量摘まむんじゃ」
メアリー「1番の量はこのぐらい摘まむ、2番は少し少な目でこれくらい摘まんで、3番は・・・」
メアリーさんが具体的な分量の説明をしていますが、ワタシ目線では、どう見てもテキトーな目分量にしか見えません。
(え? 量とかちゃんと量らないの? そんなのどう考えたって、あとで再現できないよ?)
そう思ったワタシは、再度【想像創造】で必要なものを創ります。
(ちゃんと量れるヤツ、【想像創造】!)
【化学計量セット ビーカー、フラスコ、メスシリンダー、精密はかり、タイマー 13,800円】
量るモノ、そう想像したら、化学の実験でお馴染みのセットが出てきました。
キッチリしっかり計測できる精密器具で、機能美にあふれた佇まいをしています。
(う~ん。文房具と違って、こっちは凄く実用的というかなんというか・・・、可愛くないかも)
クマさんとネコちゃんのキャラもの文房具を先に手にしていたワタシ。
その後だっただけに、落差にガッカリなのでした。
それはそれとして気分を入れ換え、メアリーさんの説明会に参加するワタシ。
そして、ちょっとタンマと声をあげます。
「すいません。お話し中でごめんなさいですけど、ちょっといいですか?」
メアリー「おや? なんだいおチビちゃん。あっちの長椅子に座ってていいんだよ?」
「いえいえ、そうじゃなくてですね? その、なんで粉の量をちゃんと量らないのかなって」
メアリー「ん? そこは長年のカンというか、そこが薬師の技量の見せ所だからね」
メアリー「それに、こんな摘まんだぐらいの粉の量なんて、量れはせんよ」
(いやいや、それじゃあ、素人のねぇねとおにぃにはなにもできませんよね?)
「あの、ワタシたちにはそれは難しいと思うんで、メアリーさんが摘まんだその粉の量を量っていいですか?」
メアリー「ん? ああ、量れるのなら別に構わないさね」
ということで、ねぇねとおにぃに手伝ってもらいながら、早速計量開始です。
本当は全部ねぇねとおにぃにやってもらいたかったのですが、計量器具の目盛りがワタシしか読めない日本語(アラビア数字)なので、最終的にはワタシが全部読み取ってノートに記すことになります。
そんな感じで全ての粉末の計量が終わったら、今度は実際に作成する工程に入ります。
メアリー「次はこの容器に水魔法で水をこれくらい入れて――」
「すいません。そのお水の量を量らせてもらっていいですか?」
メアリー「あ? ああ、構わないとも」
・・・
メアリー「次はこの容器に火魔法で直接過熱して――」
(タイマーで時間を計っておかなきゃ!)
・・・
そんなことを繰り返し、ようやくメアリーさんによるポーション作成のデモンストレーションは終了したのでした。
メアリー「今回は途中途中でいろいろあったけど、とりあえず手順としてはこんなもんさね」
メアリー「なにか質問はあるかい?」
おにぃ「いいえ」
ねぇね「大丈夫だと思います」
メアリー「そうかい? それじゃあ、アリスと一緒に――」
ここでまた、メアリーさんの話をさえぎって、ワタシは声をかけます。
「あの、すいません」
メアリー「ん? なんだいおチビちゃん。またなにか量るのかい?」
「いいえ。あの、最初に一度だけでいいんで、ワタシたちだけでポーションを作ってみていいですか?」
ねぇね「え?」
おにぃ「オレたちだけで?」
メアリー「ほぉ? 『シュッセ』だけで? わたしゃ別に構わないけど、さっきの説明だけで、できるのかい?」
「たぶん大丈夫だと思います」
ねぇね「本当に? 私たちだけでポーション作れるの?」
おにぃ「ん~。なんか不安だよな」
「手順と材料の分量はばっちりメモったから、大丈夫、大丈~夫!」
「ねぇねとおにぃは魔法がすごく上手だから、きっとうまくできるよ!」
おにぃ「そうか?」
ねぇね「おチビちゃんがそういうなら」
メアリー「それじゃあ、あたしゃちょっと休憩してくるから、その間に作ってみておくれ」
「分かりました」
「「ありがとうございます」」
ということで、早速再現実験ならぬ、再現ポーション作りなのです。
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