33 はじめてのお客さん
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
マスター「お邪魔するぜ」
「「「いらっしゃ~い!」」」
ワタシたちのお家の玄関(草むらの小道)を通り、折りたたんだリアカーを運ぶワタシたち4人。
そう、4人です。
ここまでワタシたちを乗せてリアカーを引いてくれたお礼に、ワタシたちのお家にマスターさんをご招待したのです。
もちろん、ワタシたち3人にとって、はじめてのお客さんです。
マスター「ほぉ~、結構広いじゃねぇか。外からじゃ分からなかったが、中はちゃんと整備してあるんだな」
おにぃ「そうなんです」
「ねぇねとおにぃの魔法で、除草したんだ~」
マスター「魔法で除草? そいつはすげぇじゃねぇか」
「でしょでしょ? ねぇねとおにぃは凄いんです!」
腰に手をやり胸を張り、『むふぅ~』と自慢げに語るワタシ。
「ねぇねが水魔法で燃え広がらないようにして、おにぃが火魔法で雑草を燃やしたんだ~」
おにぃ「オレ、火魔法は得意なんです」
ねぇね「私、魔法を使うのが好きなんです」
マスター「ほうほう。それは有望だな」
マスター「それで、あの、奥にある車輪がついた鉄の大きな箱はなんだ?」
ねぇねとおにぃのことをもっと自慢したかったのですが、マスターさんの興味は他に移ってしまったみたいです。
おにぃ「あれは、俺たちの新しいねぐら、ケッパコです」
マスター「ケッパコ? また聞いたことがないヤツだな」
マスター「ねぐらってことは、家か? それにしちゃあ、ちいとばっかり小さくないか?」
ねぇね「私たちにはちょうどいい大きさなんです」
ねぇね「それにキレイで快適なんです」
マスター「ふぅ~ん。車輪付きの家ねぇ~」
マスター「青銀の塗料が塗られた金属がベースで、ガラス窓まであるのか・・・」
マスター「多分本来の使用方法は・・・」
マスター「というか、あのガラス、かなりヤバいな・・・」
マスター「まあ、こいつら3人なら、あれぐらいの大きさでも十分家として使えるんだろうな」
またもやブツブツと独り言モードに入ってしまったマスターさんでしたが、取り合えず納得したみたいです。
マスター「それで、あの、網で囲われている、大きなカゴはなんなんだ?」
今度は別のものに興味を示したマスターさん。
「あれは、トランポリンといって、中に入ってぴょんぴょんする遊び道具で~す」
マスター「遊び道具? あんなデカぶつが?」
おにぃ「あの中で飛び跳ねると、すごく高く飛べるんです」
ねぇね「とっても楽しいんですよ?」
マスター「ほぉ~? それは面白そうだな。オレもやってみていいか?」
「「「どうぞ~」」」
ということで、マスターさんがトランポリンでホッピング&ジャンピング開始です。
ぶぁうぃい~ん
ぶぃうぃい~ん
ぶぅうぃい~ん
ぶぇうぃい~ん
ぶぉうぃい~ん
ワタシたちが使う時とは明らかに違う爆音を奏でるトランポリン。
その中で、ひとり満面の笑みを浮かべているマスターさん。
マスター「うおっほぉ~いっ、うわっほぉ~いっ」
マスター「ハッハッハッハッハ。こいつぁ面白れぇ~な」
マスター「まさかオレが、ここまで飛び上がれるとはな!」
強面の、たぶん100kgぐらいあるゴリマッチョの男性が、ワタシたちに向けてニコニコスマイルです。
表情筋を総動員して、面の皮を強引にひきつらせた感じの破顔です。
爆音を伴いつつ両足でホッピングし、最高到達点付近でこちらに愛想をふりまいています。
時と場所によっては、下手をすると、かなり危険な事案になるかもしれない感じのお顔です。
(きっと、知らない人が見たら、全力で逃げられちゃうんだろうな~)
(まあ、ワタシたちは、マスターさんのこと知ってるから大丈夫だけど・・・)
そんな感じで10数分の疑似空中散歩を楽しんだマスターさん。
とっても満足気です。
マスター「いやぁ~楽しかった。いろいろ知ることもできたし、今日はここにこれで良かったぜ!」
ワタシたち3人が、はじめてお迎えしたお客さん。
お茶を出すとか、そんなオモテナシ的なことは一切できませんでしたが、ご満足いただけたようでなによりです。
「なにもお構いできませんでしたが、よろしければ、またいつでも来てくださいね?」
「「来てください!」」
マスター「おう! また寄らせてもらうぜ!」
片手を上げ、その言葉とともに、颯爽と草むらの小道を帰っていくマスターさん。
時刻はもう、ワタシがいつもお昼寝をする時間です。
「マスターさんって、朝からずっとワタシたちと一緒にいたよね?」
ねぇね「ギルドの偉い人なのに、お仕事とか、大丈夫なのかな?」
おにぃ「きっと暇だったんじゃないか?」
どうやら『マスターさんはわりとお暇』説は、核心をついていたようです。
「ギルドの偉い人は、昼間遊んでても怒られないんだね」
ねぇね「そうみたいね」
おにぃ「だな」
ワタシたち3人の中で、ハンターギルドの幹部職員に対する憧れが、ちょっと弱まったのでした。
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