32 派手な荷車
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
嬉しいビッグサプライズがありましたが、無事、ハンターギルドへのビーフジャーキーと小袋ジャムの納品が終わったので、ワタシたちは草むらのお家にUターンです。
おにぃ「それじゃあ、帰りもオレが荷車を引くけど、帰りはおチビ、荷車に乗ってくか?」
ねぇね「私も、私も乗ってみたい!」
おにぃ「おお、いいぜ! ふたり乗っても余裕だろ」
そんな会話をしていると、
マスター「いや、全員乗れ。オレが引く」
納品物を持ってギルドに引き返したと思っていたマスターさんが、再度ワタシたちに話しかけてきました。
どうやら『マスターさんはわりとお暇』説は、かなり的を射ていたようです。
「え? マスターさんがリアカーを引くんですか?」
マスター「ん? この銀色の派手な荷車は、『りあかぁ』というのか?」
「はい。折り畳み式のリアカーです」
マスター「ん? この『りあかぁ』は、たためるのか?」
「そうです。使わないときは、小さくたたんでしまっておくんです」
マスター「ほぉ~、そいつは便利そうじゃねぇか」
そんな会話をしていると、まさか自分が乗れるとは思っていなかったおにぃが、いの一番にリアカーに乗っかります。
おにぃ「オレ、いっちば~ん!」
ねぇね「あ~、私も、私も~」
おチビなワタシはひとりではリアカーに乗れないので、先に乗ったねぇねとおにぃに引っ張り上げてもらいます。
マスター「それじゃあ、出発するぞ~。ヨッコラしょっと・・・んん? なんだ? 嫌に軽く引けるじゃねぇか」
「えへへぇ~、すごいでしょ~」
マスター「お前ら3人乗せて、100kgぐらいはあるだろうに、軽々引けるな」
おにぃ「オレたち、これで引っ越ししたんです」
ねぇね「お荷物全部載せられたの」
マスター「ふぅ~ん。悪くなさそうだな~」
マスター「これはうまいこと運用すれば・・・」
マスター「1台に折りたたんだ数台を乗せて、現地で・・・」
マスター「あとはこいつがどれだけ丈夫なのかだが・・・」
なんだか急に、マスターさんがブツブツと独り言をはじめてしまいました。
(どうしたんだろう急に。またアメリカンジョーク考えてるのかな?)
そんなことを考えている間も、マスターさんが引くリアカーは、ハンターギルドの裏庭の広場を突き進みます。
無意識なのかわざとなのか、徐々にリアカーを引くスピードを上げているマスターさん。
マスター「お前ら、振り落とされるんじゃねぇぞ~」
おにぃ「ひゃっほー、らくちんラクチ~ン!」
ねぇね「きゃ~、早いね~、楽しいね~」
リアカーのタイヤが小石に乗り上げるたび、キャッキャと楽しげに笑うねぇねとおにぃ。
ワタシはねぇねの腰のあたりの服を鷲掴みにして、振り落とされないように必死です。
舌を噛まないようお口を閉じても、リアカーが揺れるたびにお口がカパカパ開いてしまい、自然と変な声が出てきます。
「あわわわ、うわわ」
おチビなワタシには、リアカーのちょっとした揺れでも、大地震なのです。
「あわわぁ~、ゆぅれぇるぅ~」
期せずしてはじまったリアカーによる人力車ごっこ。
ふと思うと、ワタシたち3人が自分たち以外のひとと、こうして戯れるのは初めてかもしれません。
ワタシたち3人にとっては思いのほか楽しくなった、草むらのお家への帰り道。
最後はなぜかむきになったマスターさんのリアカー全力疾走を満喫して終了したのでした。
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