28 交渉
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副支部長「それでは、具体的な条件を詰めていきましょう」
副支部長「まずは、納品可能な量とそのペースを教えていただけますか?」
「えっと、干し肉も小袋の蜜も、2~3日に1回、全種類100個ずつぐらいなら持ってこれると思います」
副支部長「100個? そんなにたくさん?」
購買部ハンナ「全種類って、あの小袋の蜜も全種類ってことかい?」
「はい。小袋の蜜はたしか10種類あったと思うので、合計で1000個になるのかな?」
副支部長「1000個? それを2~3日で?」
購買部ハンナ「そんなにたくさん、大丈夫なのかい? 体に負担とかないのかい?」
「とくに負担とかないので、大丈夫です」
副支部長「わかりました。こちらとしては、無理のない範囲で出来るだけ、ということでお願いしたいと思っています」
副支部長「そうですね~、少し余裕を見て、5日に1度、干し肉も小袋の蜜も全種類100個ずつ納品、ということでいかがでしょう?」
「それで問題ありません」
副支部長「ありがとうございます。それでは次に、その見返り、報酬について具体的に詰めましょう」
支部長「まずはハンターギルドが君達を保護するということだが、具体的にはなにを望むのかの?」
「どうする? ねぇねとおにぃは、どうしてほしい?」
おにぃ「おチビが決めてくれ」
ねぇね「そうね。おチビちゃんが望むようにして欲しい」
「ワタシの望みでいいんですか?」
おにぃ「ああ」
ねぇね「ええ」
「それなら~、ワタシたちがなにか揉め事に巻き込まれたら、どんなことでも、とにかく仲立ちというか、仲裁をして欲しいです」
支部長「仲裁をするだけでいいのか? 君達の味方をするのでななく?」
「法律とかいろいろあって、ワタシたちが悪い場合もあるかもしれませんし」
「それに、お貴族様とか凄く偉い人が相手だったら、ハンターギルドでも・・・」
支部長「ハッハッハ、おチビなのにいろいろ考えておるの」
支部長「あい分かった。とにかく、どんな揉め事でもハンターギルドが仲裁をし、極力君達の味方になることを約束する」
「いいんですか? やったー!」
「「ありがとうございます!」」
支部長「うむうむ」
ということで、ワタシたち3人は、ビーフジャーキーと小袋ジャムを対価にして、ハンターギルドという強力な後ろ盾を得たのでした。
副支部長「それでは、次のお話に移りましょう」
「え? もう終わりじゃないの!?」
副支部長「それでは、見返りについては決まりましたので、納品物への報酬のお話に移りましょう」
「え? 今のが報酬ではないんですか?」
副支部長「いえいえ、今のはあくまでもあなたたち3人をハンターギルドが囲い込むことに対する見返りです。納品物に対する報酬は別ですよ」
購買部ハンナ「そうさね。ただでモノを巻き上げるような真似、ギルドがするわけにはいかないさね」
マスター(メイソン)「おチビ、お前、ハンターギルドがそんなぼったくりみたいな真似すると思ってたのか?」
「いえ、そういうつもりじゃなかったんですけど・・・」
副支部長「まあとにかく、納品物に対して報酬は別途支払いますのでご心配なく」
おにぃ「あ、ありがとうございます」
ねぇね「ございます」
副支部長「それで納品物の対価なんですが、具体的に希望はありますか?」
おにぃ「希望? どうする?」
ねぇね「おチビちゃん、なにが欲しい?」
ここでワタシは考えます。
これはチャンスなんじゃないかと。
(【ジョシュア雑貨店】への納品で、お金は今後も定期的に稼げると思うんだよね~)
(だからこの際、お金じゃなくて、ワタシたちが手に入れにくいモノを・・・)
「あのですね? 対価はお金以外でもイイですか?」
副支部長「ハンターギルドで対応可能であれば構いません」
「それでしたら、今、ワタシたちが住んでいる、ハンターギルドの裏庭にある、背の高い草むらをくれませんか?」
おにぃ「ねぐらの草むらか!」
ねぇね「それって、いいかも!」
支部長「裏庭にある草むら? どこの土地だ? 誰か知っておるか?」
アイリーン「たぶん、裏庭の広場の一番北側にある草むらのことだと思います」
副支部長「ああ、その土地でしたら、隣地との境界線があいまいで、今後係争の可能性があるため、整備せず放置している場所ですね」
副支部長「資産としての価値は、ほぼ無いに等しいです」
支部長「うむ。そんなあやふやな土地みたいだが、それでいいのかの?」
「はい。とりあえず使えるのなら、問題ないです」
副支部長「場合によっては、隣家との係争になるかもしれませんよ?」
「はい。大丈夫です」
(隣家って、今日草刈りしてきた【マダムメアリーの薬店】のことでしょ?)
(メアリーさん、背の高い草むらは自分の土地じゃないと認識していたし、問題ないはず!)
支部長「ならばよかろう。その土地を対価として、納品を頼むことにしよう」
「ありがとうございます」
おにぃ「オレたちの土地だ!」
ねぇね「やったー!」
ということで、今住んでいるねぐらのある草むらをゲットしたワタシたち3人。
ついにワタシたち、土地持ちになったのでした。
・・・
「あ~疲れたよ~、緊張したよ~」
ねぇね「怖かったね~、でもよかったね~」
おにぃ「そうだな~」
今日は初めて普通の依頼を受けたり、草刈りは全くの戦力外だったり、そして、おすそ分けのビーフジャーキーと小袋ジャムがギルドの偉い人たちに話題だったりと、忙しない一日でした。
終いには、ハンターギルドがワタシたち3人の実質的な後ろ盾になってくれることになるし、ねぐらとして使っている軽パコを隠している草むらを貰うことができたりと、まだ5年ちょっとしか生きていませんが、人生で一番めくるめく一日でした。
今は夕方少し前、ワタシたち3人のいつものお夕飯タイム。
ギルドの偉い人たちから解放されたワタシたち3人は、その足でギルドの食堂へ赴き、一緒に戻ってきたマスターさんに
「いつものヤツお願いします」
と注文をして、すぐに出てきたお食事をペロリとたいらげました。
そしていつものカウンター近くの席で、3人で食後にまったりとくだをまいているところなのです。
おにぃ「干し肉と小袋の蜜は、いつハンターギルドに渡すんだ?」
「最初は明後日にしてもらったよ~」
ねぇね「明日は【ジョシュア雑貨店】の蜜と石鹸の納品するの?」
「1日おきだから、明日は納品するよ~」
おにぃ「なんだか、おチビばっかり大変になっちまったな」
ねぇね「そうだね。おチビちゃんに頼ってばっかりだよ」
「そんなことないよ? 今日の草刈りだって、ねぇねとおにぃの魔法で終わらせたんだし・・・」
「・・・ワタシ、・・・草刈り・・・なんにも・・・できなかったし・・・」
「・・・」
おにぃ「ん? あ~、寝ちゃったかな?」
ねぇね「そうだね。今日はお昼寝してないしね」
おにぃ「それじゃあ、オレが負ぶってくな」
ねぇね「うん。お願いね」
来客が少ない時間帯、夕暮れ前のハンターギルドのホール。
その食堂のカウンター付近のテーブル席の一角。
最近そこは、忙しなく働くギルド職員がちょっと楽しみにしている場所。
手を休めて聞き耳を立ててしまう、無意識に目を向けてしまう、そんなちょっと気になる空間なのでした。
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