27 おすそ分けの結果
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
アイリーンさんに誘導されてやってきたのは、ハンターギルドの2階にある、10人ほどが入れるそれほど大きくない会議室。
アイリーン「今から関係者を呼んできますので、ちょっとだけ待っててくださいね」
そう言って会議室から出ていってしまうアイリーンさん。
ワタシもねぇねもおにぃも、これからなにがあるのか、なにをされるのか不安になってしまい、3人で手をつないで会議室の隅でかたまり、ちょっと顔面蒼白気味です。
ねぇねに至っては、ワタシの手を握ったその手が、プルプルガクブルし始めてしまいました。
(なんだろう。おすそ分けの追加のおねだりにしては、仰々しいというか・・・)
そんな時、ふと、意外な人物も同じ部屋にいることに気づきました。
何故だか食堂の強面マスターさんまでも、一緒に会議室について来ていました。
(あれ? なんでマスターさんも会議室にいるの?)
ワタシの視線に気づいたのか、マスターさんが話かけてきます。
マスター「まあそう警戒しなさんな。悪い話じゃぁないからよ」
どうやらマスターさんは、それなりに事情を知っているみたいです。
すると、会議室に男性2人と女性2人が入室してきました。
白髭のおじいちゃんと、丸メガネのインテリさんと、ギルドの制服を着たふくよかなおばちゃんと、そしてアイリーンさんでした。
白髭「急に呼び出してすまないね。まずは自己紹介からさせてもらおう。ワシはギルド支部長のローガンという」
丸メガネ「同じく副支部長のイーサンです」
おばちゃん「私は購買部で主任をしているハンナだよ」
アイリーン「そして私はすでにご存じでしょうけど、アイリーン。受付の主任をしているわ」
マスター「最後にオレは食堂のマスター兼、物資調達部の主任で、名はメイソンだ」
どうやらワタシたち、ギルドのお偉いさんたちに呼び出しを食らっているみたいです。
支部長「まあ、早い話が、君達がアイリーンとメイソンに渡した干し肉と蜜の小袋。それをハンターギルドに卸してほしい、というお願いなんだよ」
気のいいおじいちゃん風の支部長ローガンさんが、ざっくり簡単に今回の状況説明をしてくれました。
昨日、アイリーンさんとマスター(メイソン)さんに渡したビーフジャーキーと小袋ジャム。
それを食したお二人が、ハンターギルドとして是非とも取り扱うべきだと幹部会議に持ち上げてきた、ということみたいです。
アイリーン「あの干し肉は凄く美味しかったわ。アレの存在はもっと広く知らしめるべきだと思うの」
購買部ハンナ「今朝私も食べたけど、いいモノだね。購買部として是非とも取り扱いたいもんだよ」
マスター(メイソン)「オレはあの小袋の蜜を、食堂でパンと一緒に出したいんだ」
「あの、干し肉と小袋の蜜を、ハンターギルドで販売する、ということですか?」
購買部ハンナ「そういうことさね」
美味しい、いいモノだ、ギルドで売りたい、そう言ってもらえて、おすそ分けしてよかったと思っていると、
副支部長「こちらでもいろいろ調べさせていただきました。中身もさることながら、干し肉と蜜を包んでいた見たことがない透明な袋。水分や匂いも漏れ出さない、とても不思議な袋です。多分、あなた方の特殊な能力によって召喚したモノなのでしょう?」
アイリーン「ごめんなさい。『シュッセ』のみなさんが、特殊な納品依頼をこなしていることは、ハンターギルドとして把握しているの」
どうやらワタシたちに特殊な能力があり、その能力を使って珍しいモノを調達していることはバレバレだったみたいです。
(まあ、依頼の処理をしていれば、どこからどういう依頼があって、誰が何をしたかなんて、一目瞭然ですもんね)
マスター(メイソン)「まあ、なんだ。このタイミングで、ギルドという組織にいろいろ任せちまえば、今までみたいにコソコソせずに済むんじゃないかってことだ」
支部長「ということなんじゃが、どうかの? ハンターギルドに任せてみんか?」
どうせバレているのなら、堂々とハンターギルドに任せてしまってもいい気がします。
ということで、ワタシとしては前向きな感じで、ねぇねとおにぃの意見を聞いてみます。
「ワタシは別にいいと思うけど、ねぇねとおにぃはどう?」
おにぃ「あの、それは、おチビが創り出しているモノなんだ。だから、おチビが不利にならないようにして欲しいです」
おにぃ「おチビのお願いを聞いて欲しいです!」
ねぇね「おチビちゃんの能力がバレると、きっとおチビちゃんが危ないことになると思うんです」
ねぇね「だから、おチビちゃんを守ってください」
「「お願いします!」」
「え? ねぇね! おにぃ!?」
ねぇねとおにぃが、それはワタシの能力だと、みんなの前でいきなりカミングアウトしてしまいました。
根が素直なふたりには、これ以上、隠し事をするのは難しかったみたいです。
マスター(メイソン)「まあ、その辺も見当はついてる。お前らを見てりゃぁ、大体分かるってもんだ」
どうやら全部、バレテーラ。
ワタシたちの隠し事なんて、全てお見通しのようです。
マスター(メイソン)「それにアレだろ? オレとアイリーンに贈り物をしたってことは、ギルドから目をかけてほしいとか、そういう意図があったんだろ?」
「え?」
ワタシたちはただ単に、最近お世話になっているからという理由でおすそ分けしただけだったのですが、ワタシたちの贈り物をしたという行為自体に、庇護を求めるとか、そういう裏があったのではと思われていたみたいです。
(それは誤解というか、純粋に日頃のお礼だったのですよ~)
(子供がそこまで根回し的なこと、考えつかないですよ~)
(賄賂的な、山吹色のお菓子的なこと、全然考えてませんよ~)
(ブーブー! なのですよ~)
ワタシが頭の中でマスターさんのオトナの思考に不満を表明していると、
マスター(メイソン)「だがな、おチビの能力だけが必要ってわけじゃぁないんだぜ?」
アイリーン「あなたたちお二人の魔法の実力は、ギルド内でもかなり噂になってるの」
魔法の講習でいろいろやらかしていたねぇねとおにぃは、既に知る人ぞ知る存在になってしまっているようです。
副支部長「ということで、我々ハンターギルドとしては、チーム『シュッセ』を対象にして、交渉したいと考えています」
おにぃ「おチビだけじゃなくて、オレたち3人?」
ねぇね「い、いいんですか?」
支部長「うむ。優秀なハンターを囲い込むのは、ギルドとして当然のことよ」
おにぃ「あ、ありがとうございます」
ねぇね「ございます」
支部長「それでは、ハンターギルドが君達を保護するならば、そういうことでいいのかな?」
おにぃ「はい」
ねぇね「お願いします」
どうやら、ワタシたちがビーフジャーキーと小袋ジャムをハンターギルドに納品すれば、ハンターギルドがワタシたち3人を守ってくれるみたいです。
脱スラムしたばかりの子供にとっては、この上なくありがたいお話です。
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