20 もう少しゆとりを
Mノベルズ様より、書籍発売中です。
ジェーンさんとジョシュアさんにお礼の贈り物をした帰り際、ワタシはジョシュアさんに、あるお願いをしてみることにしました。
「ジョシュアさん、すいませんが、明日は納品をお休みさせてもらっていいですか?」
ジョシュア「ん? ああ、もちろんいいとも」
ジョシュア「おかげさまで、今のところ在庫に少し余裕があるしね」
ジョシュア「もし負担が大きいようなら、今後の納品は1日おきにしてもらって構わないよ?」
「え? 1日おきでいいんですか?」
「もしかして、あまり売れてないんですか?」
ジョシュア「いやいや、そうじゃないんだよ」
ジョシュア「高級品として商いしているから、誰彼構わず気軽にポンポン売ってないだけなんだよ」
ジョシュア「売る相手も厳選して、より特別感を出している、そんなところだね」
ジョシュア「商品価値を高められるよう、いろいろ工夫しているというわけさ」
「なるほど~。商売っていろいろ難しそうですね」
ジョシュア「それがまた腕の見せ所というか、やりがいなんだけれどね」
そんな感じの会話があり、今後の納品は1日おき、明日はお休みにしてもらいました。
なぜワタシが、急にこんなお話をもちかけたかというと、
(ワタシたち、もうちょっと時間的なゆとりがあってもいいんじゃないかな?)
と、不意に思ったからです。
ワタシに前世の記憶が戻ってから今日まで、脱スラムのため、ひたすらにがんばってきました。
寝る間を惜しまずとまではいきませんが(むしろ睡眠時間はたっぷりとって、お昼寝までしていましたが)、ワタシ的には怒涛の勢いで生活改善をしてきたつもりです。
脱スラムのためとはいえ、ハイスピード過ぎたかな? 全く余裕がないというかゆとりがないというか、タイト過ぎたかな? ふとそう思ったのです。
(ここまでくれば、生活の質向上だけじゃなくて、心の質というか、楽しみがあってもいいと思うんだよね~)
それに、ギルドの講習でいろいろとお勉強もしましたので、多少ですが世間というか、社会というか、スラムでは知りえない、『普通のこと』を知ることができました。
その知ることができた知識を、今度は体験する時間が欲しくなった、ということもあるかもしれません。
そんなこんなで、戻ってきました我らのお家こと、ハンターギルド裏庭の軽パコ。
ギルドの講習も終わってしまったので、今日はもう、とりあえずやることがありません。
(明日は納品お休みだから、今日の【想像創造】は自由に使えるね)
(この際だから、ねぇねとおにぃに何かプレゼントでもしようかな?)
ということで、早速本人たちに聞いてみます。
「ねぇね、おにぃ、なにか欲しいモノとかある?」
おにぃ「ん? 欲しいモノ? それは当然、美味い食いもん。肉が一番だな!」
「おにぃはやっぱり食べ物なんだね?」
「ねぇねは? ねぇねはなにかない?」
ねぇね「私? 私はね、あの売り物の甘いの、蜜をなめてみたかったかも・・・」
「ねぇねは、はちみつ、なめてみたかったの?」
ねぇね「うん。でも、すっごく高いから・・・、やっぱいい」
ねぇねの言葉を聞いて、ワタシはハッとしました。
どうやらねぇねは、今までずっと、はちみつをなめてみたかったみたいですが、買取金額が凄かったので、ずっと遠慮していたみたいです。
ワタシがガツガツお金稼ぎのことだけを考えていたしわ寄せが、一番大切で身近な存在に及んでいたことに、全く気づきもしませんでした。
(そうだよね。目の前に美味しそうな甘いものがあったのに、今までずっと食べられずに我慢してたんだよね)
(うわぁ~ワタシのバカ! なんで気がつかないかな~!)
「ごめんね、ねぇね」
「ワタシ、お金のことばっかりで、ねぇねの気持ちとか、考えが足りなかったの・・・」
ねぇね「いいのいいの! 全然イイの!」
ねぇね「おチビちゃんは、いろいろがんばってくれてるの!」
ねぇね「スラムから出られたのも、ギルドに入れたのも、全部おチビちゃんのおかげなの!」
おにぃ「そうだぞ。全部おチビが考えてやってくれたことだ」
おにぃ「おチビが謝ることなんて、なにもないんだ」
「ねぇね、おにぃ・・・、ホントごめんね」
「それじゃあ、今までがまんさせちゃった分、今からいっぱい、美味しいモノを出すからね?」
ということで、今まで我慢させてしまっていたねぇねとおにぃに、スペシャルなプレゼントを考えます。
(う~ん、美味しくて、それでいて・・・、やっぱりたくさんあった方がいいよね)
(それなら・・・まずは、おにぃ用に【想像創造】!)
【本格熟成ビーフジャーキー 30g 120個セット 粒胡椒 和風ダレにんにく風味 99,800円】
おにぃ用に【想像創造】したのは、お徳用のビーフジャーキー。
なんと、120個セットです。
にんにくの風味が効いた醤油ベースのタレに、粒胡椒がアクセントになって、ちょっと大人なピリ辛味のおつまみですが、子供のおやつとしても大変結構なモノです。
120個もありますし、これならおにぃも、しばらくの間、お肉を食べ続けられることでしょう。
(つづいて、ねぇね用に【想像創造】!)
【給食用小袋ジャム 業務用セット いちごジャム オレンジマーマレード ブルーベリージャム りんごジャム チョコレートスプレッド ピーナッツクリーム つぶあん はちみつ メープルゼリー レーズンクリーム 15g×1200袋 32,400円】
ねぇね用に【想像創造】したのは、給食とかについてくる、パンにつける小袋のジャム。
いろんな種類がセットになっている業務用のヤツで、チョコやはちみつ味もあり、その数なんと1200袋。
パンにつけて食べてもよし、もちろん、ねぇねの希望通り、そのままペロペロなめてもイイでしょう。
甘いものなんて滅多に口にできないワタシたちにとっては、まさに『ネコにちゅ〇る』状態になること間違いなしです。
おにぃ「うぉ? なんだ? このデッカイ茶色の箱?」
ねぇね「なんだかたくさん箱が出てきたね」
「こっちの箱はビーフジャーキーといって、美味しいお味の干し肉が、たっくさんで~す!」
「そしてこっちの箱には、いろんなお味のあま~い蜜が入った小袋が、たっくさ~ん入ってま~す!」
おにぃ「干し肉! すげぇー、これ全部?」
ねぇね「甘い蜜が、こんなにたくさん?」
「ねぇねもおにぃも、いっぱい食べてね?」
おにぃ「いいのか? ありがとなおチビ!」
ねぇね「おチビちゃんありがとう」
ねぇね「でも、おチビちゃんは? おチビちゃんの欲しいモノはないの?」
「え?」
ねぇね「この干し肉と蜜は、おにぃと私が欲しいモノでしょ?」
ねぇね「おチビちゃんの欲しいモノはないの?」
おにぃ「そうだぞ。おチビにもちゃんと、自分の欲しいモノを用意しないとだぞ?」
こんな時までワタシのことを気にかけてくれるワタシの大切なふたり。
おチビで無力で、スラムという劣悪な環境ではただただ足を引っ張るだけの存在だったワタシを見捨てず、今までずっと一緒にいてくれた優しくて強いふたり。
前世の記憶が戻ってからは、『ワタシ、このふたりがいなかったら、どうなっていたことか・・・』と思う毎日です。
そんなふたりの気持ちを考えもせず、ガツガツお金稼ぎだけに邁進してしまっていたワタシ。
だから謝罪の意味も込めて、ふたりに感謝をしたかったのに。
それなのに、逆に気を遣わせてしまって・・・。
なんだか急に、とても悔しくなって、とても悲しくなって、そしてふたりに申し訳なくて。
「うわぁ~ん。ごべんだざい。ごべんだざ~い」
ただただ、泣きながら謝ることしかできない、おチビなワタシなのでした。
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