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105 出世

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


支部長「やれやれ、どうにか間に合うたみたいじゃのぉ」


ワタシたち3人が巨額な納品の対価に目を回していると、ハンターギルドで一番偉いおじいちゃん支部長さんが、白いお髭を撫でつけながら地下倉庫にひょっこり現れました。


副支部長「支部長、緊急のご用件でも?」


支部長「ああ。たった今、ワシのところに商業ギルドから書類が届いてのぉ」


ハンナ「それって、もしかして例の?」


支部長「うむ。今日から正式に、この土地と建物は『シュッセ』のモノになったわい」


「「「へ?」」」 (゜∇゜;)


(この土地と建物がワタシたち3人のモノ? どういうこと?)


なんだかよくわからないことを言われてしまって、またもや固まっちゃうワタシたち3人に、副支部長さんが詳しく説明してくれました。


副支部長「すいません。吉報を後程お知らせすると言いましたが、どうやら今になってしまったようです」

副支部長「実はお預かりしている投資資金で、商業ギルドから我がハンターギルドオーレリア支部の資産を買い取らせてもらいました」

副支部長「その結果、このハンターギルドオーレリア支部のモノは全て、今現在『シュッセ』の皆さんの所有物ということになりました」


どうしてハンターギルドのお話なのに商業ギルドが出てくるのか、ワタシたちには全くわかりませんでしたが、そのあたりの事情も詳しく教えてくれました。

まず、商業ギルドにハンターギルドオーレリア支部の買い取りを依頼。

買い取ってもらったそのお金を使って、ハンターギルドオーレリア支部が王都本部から借りていた借金を一気に返済。

そしてその後、ワタシたち3人からの投資資金を使って、商業ギルドからハンターギルドオーレリア支部の全てを買い戻した、ということみたいです。


副支部長「最初に商業ギルドを噛ませたのは、他からの横槍を防ぐためといいますか、『シュッセ』の名前を表に出さないためです」

副支部長「商業ギルドによる他ギルド資産の買収は、この国ではよくあることなので問題ないのですが、ギルド員である『シュッセ』が、所属するギルド支部を直接買い取るとなると、いろいろと怪しまれてしまいますので」

副支部長「ですから商業ギルドに一旦買い取ってもらって、商業ギルドから『シュッセ』がさらに買い戻すという形を取りました。そうすれば、誰も何も言えませんので」

副支部長「商業ギルドから誰が何を購入しようと、何も問題もありませんからね」


おチビなワタシにはよくわかりませんが、とにかく商業ギルドと手を結んで、『シュッセ』の名前が目立たないように大きなお金を動かした、どうやらそういうことみたいです。


支部長「我がオーレリア支部はのぅ、設立当初から王都の本部からの巨額な借財に悩まされておったんじゃよ」

支部長「その借財を盾にして、王都の本部は我がオーレリア支部をそれこそ我が物顔で牛耳っておった」

支部長「じゃが、商業ギルドに買い取ってもらった金で、借財を一気に返済できた」

支部長「我々はもう、王都の本部からの圧力に屈せずに済む。過去の清算ができたんじゃ」

支部長「尚且つ、『シュッセ』の投資資金によってハンターギルドオーレリア支部の全てを買い戻すことができた」

支部長「つまりは、もう完全に、どこからの圧力にも屈せずに済むという訳じゃ」


おにぃ「はぁ」


ねぇね「へぇ?」


「えーっと、そ、ソウナンデスネー」 (×_×?)


お話の内容が難しすぎて、なにを言っているのかさっぱり理解できないワタシたち3人。

どうリアクションしていいのかわからなすぎて、お返事もおざなりです。


支部長「ところでお前さんたち、ご領主さまから手紙なり書類なり、何か受け取っておらぬか?」


そう言われれば、先日ビーちゃん様からギルドの偉い人宛てのお手紙を受け取った記憶があります。


(やっぱりあのお手紙は支部長さん宛てだったんだね)


そう思ったワタシは、早速、いつも身に着けているミニショルダーポーチの中から、『ギルド責任者へ』と書かれたキレイな封筒を取り出します。


「はい、支部長さん。これでしょ?」


支部長「どれどれ、中身を検めさせてもらうぞ?」


支部長のおじいちゃんはそう言って、手紙のような書類を読みはじめました。


支部長「ふむふむ、内容に問題はないのう。では、これはお前さんたちに返すとしよう」


「え? このお手紙は、支部長さんのでしょ?」


支部長「いいや。この通知はのぅ、新しいギルド、『ユービン』ギルドのオーナー宛てでの? つまりは、お前さんたち、『シュッセ』宛てなんじゃよ」


ねぇね「新しいギルド?」


おにぃ「『ユービン』ギルド?」


「ギルドのオーナー?」 (・_・?)


支部長「そうじゃ。お前さんたち『シュッセ』の3人が、新設された『ユービン』ギルドのオーナーじゃ」

支部長「実はワシの方で、ご領主さまに『ユービン』ギルドの設立申請をしておったんじゃが、オーナーには『シュッセ』を登録しておいた」

支部長「何だか騙し討ちのようになってしもうて、悪かったのぅ」


おにぃ「オレ達が、ギルドのオーナー?」


ねぇね「へ?」


突然新しいギルドのオーナーになったと言われても、子供のワタシたち3人はなにも知りませんし、なにもできません。

なので、そのことアピールしておくことにします。


「あのね、ワタシたち、ギルドのことなにもわからないし、なにもできないよ?」


副支部長「ええ。とりあえず『シュッセ』の3人は、ハンターギルドオーレリア支部の実質的な所有者で、『ユービン』ギルドの設立者兼オーナー、ということだけ覚えておいてください」

副支部長「実務につきましては今まで通り我々で対応しますので、その辺はどうぞご安心を」


マスター「まぁ平たく言えば、お前ら3人は、このハンターギルドオーレリア支部と、新しくできた『ユービン』ギルドのボスってこった」

マスター「つまりはだ、『シュッセ』は立派な資産家さまになったってこった」

マスター「ちょっとやそっとのことじゃビクともしねぇ、確かな地位を手に入れたってこった!」


おにぃ「オレ達が、確かな地位を?」


ねぇね「何だか嘘みたい・・・」


少し前まで身分証もなくて、町のひとたちに相手にされずにいた自分たちの境遇を思い出しているのでしょう。

ねぇねとおにぃが半笑いのような苦笑いのような、複雑な表情をしています。


(いや~、ワタシたち3人、出世したねぇ~

(ちょっと前まで現役バリバリのスラムっ児で、食べ物探し歩いていたのにねぇ~)

(まさにチームのお名前どおり『シュッセ』しちゃったねぇ~)) (´V`)♪


おチビなワタシだけ能天気にそんなことを考えていると、マスターさんが言葉を続けます。


マスター「まぁボスってぇのは、細けぇことは気にせず、ただ偉そうにしてりゃいいんだよ。手下をこき使ばいいんだ」

マスター「ということでよ、オレ達のボスとして、やってほしいこととか欲しいモノとか、何かないか?」


そう問われたワタシは、ちょっと考えてみます。


(ハンターギルドって、たしか、国を跨いだ組織だったよね?)

(ということは、いろいろなところから情報を調べられないかな?)

(例えば、行きたくてもどこにあるのかわからない、そんな場所の情報とか)


ということで、試しにお願いしてみることにします。


「あのね? 調べてほしいことがあるの」


マスター「お? 何だ何だ?」


「ねぇねの故郷、『天恵の里』の場所を調べてほしいの」


アイリーン「昨日話題に上がった、教会関係の隠れ里かもしれない所のことよね?」


「そうで~す」


マスター「なるほど、情報提供の依頼か。ハンターギルドの他の支部にも照会すれば、それなりの情報は集まるだろうよ」

マスター「ボスの命令とあっちゃぁ、手を抜く訳にはいかねぇな」

マスター「よっしゃ、気合入れて調べさせとくぜ」


「よろしくお願いしま~す」

「ねぇね、よかったね? お里のこと調べてくれるって!」


ねぇね「うん。お里の場所がわかればいいな~。みんなと一緒に行けたらいいな~」


先程の苦笑い気味の表情から一変して、ニコニコと希望に満ちた笑顔を見せてくれるねぇね。


(やったー! ねぇねが笑顔になった~!) ヽ(^◇^*)/

(うむうむ、これなら出世も悪くないかもね~)


いきなりギルドのオーナーだと言われて、勝手に難しい役職を押し付けられたのでは? と、先程まではちょっと警戒していたワタシでしたが、マスターさんから『命令だけしていればいい』と聞いて一安心。

さらには、ハンターギルドの広域情報網を利用して『天恵の里』の情報を調べてもらえることになり、ねぇねの笑顔を引き出すことができて大変満足です。


(ギルドのオーナーってよくわからないけど、ねぇねが喜ぶなら、なんでもやっちゃうぞ!) (*^ー゜)v


ギルドのオーナーになって出世したことよりも、大好きなねぇねの笑顔が最優先のおチビちゃんなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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