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101 干し柿とねぇねの故郷

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


その後、しばらく呆然と立ち尽くしていた薬師ギルドの偉そうなおじさんでしたが、もはや誰にも相手してもらえないとわかったのか、ゆらりゆらりと幽霊のような足取りで、どこかへ歩き去っていきました。

ワタシはそんなことには全く気にも留めず、無礼者の暴言によって傷づけられてしまった優しいねぇねに抱きつきながら、その表情を下から目線で伺います。


ポフッ


「ねぇね、大丈夫? 変なひとに絡まれちゃったけど、ビーちゃん様が追っ払ってくれたから、もう心配ないよ?」


ねぇね「うん。最初はちょっと怖かったけど、もういないから平気」


そう言いながら、笑顔と共にワタシを優しく抱きしめ返してくれるねぇね。

とりあえず一安心みたいです。


「よかった~。あの変なおじさんのことは忘れて、さっきの柿で干し柿をいっぱい作って、みんなでおいしく食べようね?」


ねぇね「うん」


そんな会話をしていると、メアリーさんがワタシたちに話しかけてきました。


メアリー「おやおや。お前さんたち、柿を持っているのかい? そいつは珍しいねぇ」


「柿って、珍しいの?」


メアリー「そうともそうとも。柿は何代か前の御使い様からもたらされた恩恵でね?」

メアリー「今では教会がほぼ独占しちまってるのさ」

メアリー「だから私ら一般人が口にすることは、まずないんだよ」

メアリー「アレと同じだよ。お前さんたちが食べとったお米と一緒で、高級品になっちまってるのさ」


(そう言えば、以前メアリーさんから、お米の栽培方法は教会が独占してるって聞いたかも)


そんなことを思い出していると、ねぇねから新たな情報がもたらされました。


ねぇね「おチビちゃん、あのね? 私がお母さんと住んでいたお里にはね、柿の木がたくさんあったの」

ねぇね「今思うと、それ以外にも、他では見ない植物や作物がいっぱいあった気がするの」

ねぇね「それで、その里のお名前がね、『天恵の里』って言うの」


「てんけいのさと?」


ねぇね「うん。天からの恵みで、天恵。神の御使い様がいらしたこともあるって、お母さんから聞いたことがあるの」


「へぇー、きっとすごいところなんだろうね~」


ねぇね「うん。だからね、今度、おチビちゃんと一緒に行けたらいいな」


「ねぇねの故郷に里帰りだね? いいねいいね! 今度みんなでいっしょに旅行できたらいいね?」


おにぃ「オレも一緒に行っていいのか?」


「もちろんだよ! ね? ねぇね」


ねぇね「うん。私たち3人は、いつも一緒だもん」


おにぃ「そっか。ありがと」


ワタシたち3人がそんな今後の目標を話し合っていると、メアリーさんが難しい顔をしはじめました。


メアリー「うむうむ。もしかすると、お嬢ちゃんのお里は、アレかもしれないねぇ」

メアリー「教会でも限られた者しか知らされていない、隠れ里なんじゃないかい?」


「「「隠れ里?」」」


メアリー「そうさねそうさね。御使い様がいらっしゃる里なんて、聞いたことがないし」

メアリー「それにそのお里は、教会が独占している御使い様の恩恵があふれていそうじゃないかい?」

メアリー「きっと教会の重要な場所として秘匿されていたんじゃないのかねぇ」


ねぇね「秘匿?」


「それって、そのお里がどこにあるか、だれも知らないってこと?」


メアリー「その可能性が高いんじゃないのかねぇ」


ねぇね「えぇ? そんな・・・」


「大丈夫だよ! 時間をかけて調べれば、きっと見つけられるよ!」


ねぇね「・・・うん、おチビちゃんがそう言うなら、きっと大丈夫だね・・・」


故郷の場所がわからないかもしれないと聞いて、カワイイお顔をシュンとさせてしまったねぇね。

そんなねぇねを元気づけるべく、ワタシは一も二もなく行動を開始します。

ねぇねの思い出の柿を使って、みんなでいっしょに干し柿作りです。

場所は【マダムメアリーの薬店】のいつもの作業部屋、メンバーはワタシたち3人と、メアリーさんとアリスちゃん、そして、アイリーンさんとマスターさんも参加です。


「本当はね? 丸っと1つの柿を天日干しにした方がおいしいの」

「でもね、それだと時間がかかっちゃうから、今日は短時間で作れる方法にしま~す」 (^-^)/


「「「お~」」」


ねぇねとおにぃ、そして、アリスちゃんからも同意を得られました。


「まず、柿の皮をむいて、食べやすい大きさ、4等分ぐらいに切って――」

「そのあと、さらに2~3mmの厚さにスライスして――」


マスター「よしっ! その辺の包丁作業は、プロのオレに任せてもらおう!」


さすが毎日包丁を握っている料理人さんだけのことはあります。

スルスルと柿の皮むきが終わったと思ったら、とんとん拍子で柿のスライスができあがっていきます。


「あとはね、乾燥させるんだけど、天日干しだと2~3日かかちゃうから、今日は魔法で乾燥させま~す」


「「「お~」」」


またもやお子様組からご賛同をいただいたところで、早速、魔法を使ってもらいます。


「ねぇねは水魔法で、この柿スライスの水分を抜ける?」


ねぇね「うん。できると思う」


「おにぃはいつもの【ドライヤー】魔法で乾かしてみてね?」


おにぃ「分かった」


「アリスちゃんは乾かす魔法を使える?」


アリス「私、毎日薬草の処理をしているから、【乾燥】魔法は得意なの」


「すごいね! それじゃ、みんな、柿スライスの重さが半分以下になるまで、水分を飛ばしてみてね?」


「「「お~」」」


ワタシの前世の記憶では、食品乾燥機を使っても何十時間とかかる作業なのですが、さすがファンタジーの代名詞『魔法』、期待以上の結果でした。

なんと、ねぇねとおにぃはたくさんの柿スライスを一瞬にして乾燥させてしまいました。

アリスちゃんは、1枚1枚丁寧に、それでも瞬時に乾燥させています。


マスター「お前らスゲェな。一瞬かよ」


アイリーン「本当に。その若さでその魔法の手際、末恐ろしいわね」


メアリー「アリスもなかなかどうして、できるようになったねぇ」


アリス「えへっ。おばあちゃん、ありがとう」 (*^.^*)


ねぇね「そ、それほどでも・・・」 (//ω//)


おにぃ「どうもです・・・」 (〃∇〃)


オトナのみなさんからの賛辞にテレテレ気味のお子様魔法組に、さらに追い打ちをかけるべく、ワタシも参戦します。


「すご~い! さすが、ねぇねとおにぃだね~」

「たくさんの柿スライスを一瞬で乾かしちゃうなんて、魔法の天才だね~」

「アリスちゃんもすごいな~。1枚1枚キッチリ乾かしていて、魔法の使い方が丁寧できれいだよね~」


おチビちゃんのキラキラ瞳からの尊敬の眼差しを一身に受けたお子様魔法組。

その視線に耐え切れなくなったのか、3人とも自分が乾燥させた出来立ての干し柿スライスを口にしはじめました。


おにぃ「さ、さっそく食べてみようぜ」


パリッ


おにぃが乾燥させた干し柿スライスは、おせんべいのようなチップスのような、固めの歯ごたえのようです。


アリス「私も食~べよっと」


フニョン


アリスちゃんが乾燥させた干し柿スライスは、表面は少し硬くて中は柔らか、まるでグミのような食感です。


ねぇね「わ、私も」


トゥロン


ねぇねが作った干し柿スライスは、外も中もまさにトロットロ。

まるで大福や半熟卵のような舌触りです。


その様子を見て、おチビなワタシやオトナ組のみなさんもご相伴にあずかります。


「ん~。柿の味が濃くなってて、どれもおいし~」 (*^~^*)


メアリー「こりゃ面白い。乾かし方次第で、こんなに口当たりが違くなるとはねぇ」


アイリーン「甘くて美味しっ。これ、最高のおやつね」


マスター「この硬いヤツ、つまみや携帯食にもなるんじゃねぇのか?」


お手軽クッキングならぬ、お手軽魔法乾燥の干し柿スライスは、オトナのみなさんにも十分ご満足いただけたようです。

そしてしばらくみんなで、3種類の干し柿スライスを食べ比べたりしていたら、ねぇねがワタシに話しかけてきました。


ねぇね「おチビちゃん、当たりの柿もハズレの柿も、こうすると全部食べられるんだね?」


「うん。干し柿にするとね、むしろ渋柿、ハズレの柿の方がおいしくなるんだよ?」


ねぇね「そうなんだね。大切な柿を無駄なく食べられて、私、うれしい~」


フワッ


満面の笑みで跪いて、ふんわりワタシを抱きしめてくれたねぇね。

思い出の柿を余すことなく食べられると知って、きっと感謝してくれているのでしょう。


「ねぇね、これでいっぱい柿を食べられるね? よかったね~」


ねぇねとのふれあいが大好きなおチビちゃんは、スキありとばかりに、ちゃっかりほっぺでスリスリしちゃうのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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