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100 薬師ギルドのお偉いさん

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


おにぃ「す、すいません。遅刻しちゃって」


ねぇね「ご、ごめんなさい」


まだ玄関口まで少し距離がありましたが、【リアカー】を飛び降り、メアリーさんめがけてまっしぐらに走り寄るねぇねとおにぃ。

そして開口一番、平謝りです。


メアリー「なになに、イイってことイイってこと。むしろ、毎日作業を頼んでしまって、すまないねぇ」


メアリーさんは気にするなと言わんばかりの寛大なご様子です。


おにぃ「ありがとうございます」


ねぇね「ございます」


許してもらえて良かった、そんな雰囲気だったのですが、件のお偉いさんによって、その空気は一変してしまいました。


男性「君達が例のアレを作っているのか?」


おにぃ「え? あ、はい・・・」


男性「どう見てもガキじゃないか」


ねぇね「・・・」


男性「・・・まあいい。ガキだろうが何だろうが、今はそれどころではない」

男性「いいか君達。自分たちの置かれた立場となすべきこと、これをもっと自覚してくれたまえ」

男性「こんな大切な仕事に遅刻してくるなんて、一体今まで、どういう教育を受けて来たんだ!」


ねぇね「ご、ごめんなさい・・・」


男性「君たちがどんなつもりなのかは知らないが、遊び半分でやっていい仕事じゃないんだ」

男性「分かったら、さっさと仕事に取り掛かりなさい!」


どこの誰だか知りませんが、ワタシの大切なねぇねとにぃに妙な言いがかりをつけるとは、なんとも不届きな愚か者です。

特に心根が優しいねぇねは、理不尽に怒鳴られた挙句、謝罪までさせられて、ちょっと涙目になっちゃっています。


(あのおじさん、なにしてるんだ~! ねぇねをいじめるな~!) \(*`∧´)/


ということで、怒り心頭のワタシも【リアカー】を颯爽と・・・、自分だけでは降りられなかったのでマスターさんに降ろしてもらって、やる(殺る)気満々で反撃開始です。


「おじさん、おじさん。あなた、だ~れ? なんの権利があって、ねぇねとおにぃに暴言を吐いてるの?」


男性「ん? 何だチビ助。私に気安く話しかけるな!」


オトナの男性にそう言われてしまえば、なにも言えないおチビなワタシ。

ということで、聞き分けの良いワタシは、このおじさんの言いつけどおり、決しておじさんに話しかけないと心に決めます。

なので、今度はメアリーさんに聞いてみることにします。


「メアリーさん、このおじさん、だ~れ?」


メアリー「ごめんよ、おチビちゃん。此奴は薬師ギルドの副支部長、一応私が所属する薬師ギルドのナンバー2さね」


男性「一応とはどういう意味ですか! むしろ、実質ナンバー1でしょうが!」


おチビなワタシには話しかけるなと言っておきながら、ワタシとメアリーさんの会話にはズケズケと割り込んでくる偉そうなおじさん。

なにがしたいのかよくわかりません。

このおじさんのことは無視して、ワタシはメアリーさんとのみお話をすることにします。


「メアリーさん、ねぇねとおにぃのポーション作りの内職は、お昼の時間ということになってるけど、ちゃんとした時間は決めていないでしょ?」


メアリー「そうさねそうさね。だからちょっとお昼を過ぎようが、私は全然問題ないと思ってるんだよ」


そんな至極当然な会話をしていたら、またもや割り込みが入ってきました。


男性「そもそもだ、何でもっと仕事をしないんだ!」

男性「それこそ、朝から晩まで、ずっとあのポーション作りをすればいい!」


メアリー「それは薬草やら材料の問題で、こちらからそうお願いしていることさね」


男性「材料? そんなもん、どこからでもかき集めてくれば済む話じゃないか」

男性「全くどうしてこう、薬師連中は融通が利かないんだ。物事には好機や潮時というモノがあるだろうに・・・」


とりあえずお偉いさんの言は放置して、メアリーさんに情報提供してみます。


「メアリーさん、あのね? この町で病気がはやりそうだったけど、もう大丈夫だって聞いたの」


メアリー「そうなのかい? 此奴の話だと、まだまだ患者が大勢いるから、もっともっと例のポーションが必要だと聞いたばかりなんだけどねぇ」


「え? そんなことないよ? だって、さっきビーちゃん様が、この町の病気のひとはいなくなったって言ってたもん」


メアリー「ビーちゃん様?」


おにぃ「あの、ご領主さまのお嬢様です」


ねぇね「ベアトリス様のことです」


メアリー「ああ、あの姫様のことかい。うちのアリスもお目にかかってるんだってねぇ」


(あれ? そう言えば、アリスちゃんはどこにいるんだろう?)


そう思って辺りを見回してみると、建物の裏の方、ワタシたちのお家へ向かう裏庭の方に、見慣れた三角巾の女の子が、これまた最近よく見る【トランシーバー】を握りしめながら、こちらを心配そうに伺っている姿を見つけることができました。


(もしかして、【トランシーバー】を使って、今話題にしているひとに向けて実況生中継でもしてるのかな?)


そんなことを思っていたら、またもや横槍が入ってきました。


男性「ベアトリス様? ふん。嘘も大概にしろ」

男性「お前たちのような平民のガキが、どうして領主家のご令嬢と知遇を得ることができるというんだ」


偉そうなおじさんは無視一択と決めているワタシ。

なので、そんな不快な雑音は相手にせず、メアリーさんとのお話を続けます。


「だからね? しばらくあのポーションは作らなくてもいいんじゃないの?」


メアリー「ご領主の姫様がそう言ってるのなら、それでもいいのかもしれないねぇ」


すると、今まで以上にハイボルテージで、第三者が口出ししてきました。


男性「何を言っとる! 薬師ギルドの人間が、その責任を全うしないでどうする!」

男性「薬師の義務を果たさないというのなら、私の裁量で、薬師ギルドから追放してやるぞ!」


メアリー「ほぉ? 追放と来たかね。だが私とアリスには有効かもしれんが、この子たちには関係ないねぇ」

メアリー「何しろこの子たちは、薬師ギルドの会員ではないしねぇ」


男性「何だと? 薬師ギルドの会員じゃない唯のガキが、例のポーション、『簡易エリクサー』の作成者なのか!?」


メアリー「そうだともそうだとも。だからお前さんが喚こうが叫ぼうが、この子たちに言うことを聞かせることはできやしないよ」


男性「い、いやいや、これは連帯責任だ。否、メアリー婆さんの監督責任と言えなくもない」

男性「おい、そこのガキども。もし、例のポーション作りを止めるというのなら、メアリー婆さんのこの店を、薬師ギルドから追放するぞ?」

男性「そうされたくなければ、私の命令を聞いて、今までどおり、いや、今まで以上に、例のポーションを作ることだ!」


さらに不快な雑音が聞こえてきましたが、無視無視。

メアリーさんにワタシが知っている情報提供を続けることにします。


「あ、そう言えばビーちゃん様がね、『薬師ギルドからビックリするぐらい凄い金額を請求された』って言ってたよ?」

「もしかして、メアリーさんもお金持ちになったの?」


メアリー「ん? それはおかしいねぇ」

メアリー「作り方や材料は体力回復ポーションと全く同じだから、販売価格は体力回復ポーションと同じだと聞いているんだがねぇ」

メアリー「実際、私が薬師ギルドに卸している金額は、体力回復ポーションと同じ金額だよ?」


「え? そうなの? それってなんだかおかしいよ?」

「だれかがズルいことしてるんじゃないの?」


男性「ふん。金を持っている所に、それ相応の対価を要求して何が悪い」

男性「それに私は、薬師ギルドに莫大な利益をもたらしているんだ。褒められこそすれ、文句を言われる筋合いはない」


メアリー「ほうほう、開き直りかい? これは薬師ギルドに行って、金の流れの詳細を確認しておかないとだねぇ」


男性「はっ。やりたきゃやればいい。いち薬師ごときが騒ぎ立てたところで、何も出来やしない」

男性「ポーション作りしか能がない連中をまとめあげ、この町の薬師ギルドをここまで大きくしたのは、この私だ」

男性「今やこの町の薬師ギルドは私のモノ。私の言葉が絶対なのだよ!」


両手を広げて、自分自身に酔いしれている感じで、まるでオペラでも演じているように語りはじめた薬師ギルドお偉いさん。

メアリーさんも呆れ顔です。


メアリー「そうかいそうかい。そいつは凄いねぇ~。ホント、お前さんには心底ガッカリだよ」

メアリー「ここいらが潮時なのかねぇ・・・」

メアリー「お前さんに辞めさせられるくらいなら、こちらから薬師ギルドを抜けようかねぇ・・・」


メアリーさんが、そんな独り言のようなつぶやきを発した時、それまで少し離れたところでずっと黙っていた、アイリーンさんとマスターさんが近づいてきました。


アイリーン「メアリーさん、そういうことでしたら、一度お時間いただけませんか?」


マスター「我々にもいろいろとお手伝いできると思うんで」


メアリー「ほぉ。このタイミングで話しかけてきたということは、そういうことなのかい?」


アイリーン「ええ。たぶんメアリーさんのお考え通りだと思いますわ」


メアリー「そうかいそうかい。それはありがたい話だねぇ」


男性「何だね君たちは、藪から棒に」


アイリーン「私たちは、ハンターギルドの職員です」


マスター「オレ達は、ただ、メアリーさんの勧誘に来ただけだぜ?」


男性「ハンターギルド? そんな連中が、薬師の婆さんに何の用があるというのだ」


マスター「そいつはアンタには関係ねぇ話だ。まあ、オレ達にもいろいろと事情ってもんがあるんだよ」


男性「ふん。貴様らが何をしようとどうでもいい。この町のハンターギルドごとき、王都経由で圧力をかければ、どうとでもなるしな」


マスター「そう、まさにアンタの言う通りだ。この町のハンターギルドなんて、所詮そんなもんだ」

マスター「だがな? 今後もずっとそうとは限らねぇ。よく覚えておくこったな」


オトナのひとたちがなにやら言葉の応酬をしていますが、ワタシのお相手はメアリーさんだけです。


「ねえ、メアリーさん。ねぇねとおにぃのお昼の内職、お休みでいい?」


メアリー「そうさね。私も薬師ギルドを辞めにゃならないみたいだから、ポーション作りはしばらく中止だねぇ」


男性「ま、待て。まだ隣の領で病が流行る可能性があると教会から聞いているんだ」

男性「こんな稼ぎ時、無駄にしてどうする!」


どこからか耳障りな雑音が聞こえていますが、無視するワタシ。

早速ねぇねとおにぃに報告です。


「ねぇね、おにぃ、もうお昼に内職しなくていいって」


おにぃ「そうみたいだな」


ねぇね「これでお昼もおチビちゃんと一緒にいられるね?」


「うん!」


男性「な、何を言っとる! 能力がある人間が、その責務を全うしないでどうする!」

男性「薬師ギルド員であろうとなかろうと関係ない。あの『簡易エリクサー』を作るのはお前たちの義務なのだ!」

男性「そして『簡易エリクサー』は、薬師ギルドのモノなのだ!」


メアリー「ふむふむ。薬師の責務ということなら、ずっとお休みという訳にはいかんのぉ」

メアリー「それじゃあ後日、諸々準備でき次第、ポーション作りを再開しようかのぉ」

メアリー「もちろん、薬師ギルドとは無関係にのぅ」


アイリーン「そういうことでしたら、材料の入手や販売先の確保は、我々にお任せくださいね?」


マスター「こっちには商業ギルドもついてる。あとのことはドーンと任せてくれ」


メアリー「そのときは、『シュッセ』のみんなも、協力してくれるかい?」


おにぃ「もちろんです」


ねぇね「はい。がんばります」


「は~い」


男性「薬師ギルドと無関係にだとぉ?」

男性「おのれ~、どこまでもコケにしおって~」

男性「こうなれば、教会経由で王都のハンターギルドに働きかけ、この町のハンターギルドごと、お前たちを叩きつぶしてくれるわ!」


なんだか物騒なことを喚いているひとがいるみたいですが、無視無視。

最後に【トランシーバー】を使って、例の人物にも報告しておくことにします。


『ビーちゃん様、ビーちゃん様~、聞こえていましたか~』


ベアトリス『ええ、バッチリ。薬屋のアリスちゃんが、最初からずっと【電波】してくれていたわ』


やはりアリスちゃんは物陰から【トランシーバー】で実況生中継してくれていたようです。


ベアトリス『聞いた内容は全部、お父様にも報告済みよ?』

ベアトリス『お父様は、『高い薬代は手切れ金代わりにくれてやる』って言ってたわ』

ベアトリス『フフッ。この町の薬師ギルドが今後どうなるのか、楽しみね~』


『へぇ~、そうなんだ~』


ベアトリス『裏門の橋のこともあるし、おチビちゃんたちにはまた連絡するわね~』


『は~い』


そんな【トランシーバー】による通話が終わると、からかい交じりの声が上がりました。


マスター「ほぉ~。何だか知らねぇが、随分と愉快な話になってきちまったじゃねぇか」

マスター「こりゃあ、この町の薬師ギルド、終わったんじゃねぇのか?」


そして、偉そうなおじさんのお顔の色は、みるみるうちに変わってしまいました。

先程までの怒り心頭、真っ赤っかだったのが嘘のように、無表情で顔面蒼白といった感じです。


男性「ま、まさか。今の声が、ベアトリス様?」

男性「い、いやいやそんな馬鹿な。どこにも姿がないではないか」

男性「で、でも今確かに、ご領主さまに報告したと・・・」

男性「て、手切れ金? それはつまり・・・」

男性「ちょ、ちょっと待ってくれ。これは一体どういうことなのか、分かるように教えてくれ~」


ビーちゃん様が【電波】魔法で【トランシーバー】と通信できることを知らないこの偉そうなおじさんは、かなり混乱しているご様子。

最後はワタシに向けて話しかけているみたいでしたが、ワタシは無視一択です。

ワタシの大切なねぇねとおにぃに難癖をつけた愚か者に、ワタシがなにかをしてあげる義理なんてないのです。


(このおじさん、大っ嫌~い。ふ~んだ) (●`з´●)


最初に話しかけるなと言われた以上、徹頭徹尾それを守る、とってもよい子なおチビちゃんなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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