1 突然ですが、思い出しました
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1 突然ですが、思い出しました
ゴツン
「あいたっ (>_<)」
「・・・」
「!?」
「・・・」
「ここは・・・え?」
「・・・」
「うそっ・・・え?・・・そういうこと・・・」
突然ですが、ボロ屋の扉に頭をぶつけた拍子に前世を思い出しました。
前世では50歳ぐらいまで生きたと思われますが、記憶が曖昧ではっきりしません。
ココとは違い、魔法がない【科学】が進歩した世界で、普通に生きて普通に生活してたと思います。
でも、自分自身のことについては、ほとんど思い出せません。
(え? ワタシってば、異世界転生、しちゃったの?)
(なんてファンタジックな・・・)
(でも、以前の性別も名前も思い出せないや・・・)
そんな今のワタシに、名前は、ありません。
いわゆるスラムに住んでいる、現役バリバリの浮浪児なのです。
周りからは便宜上、【おチビ】と呼ばれています。
今日は今から、一緒に生活している【ねぇね】と【おにぃ】について行って、食べられるものを探しに行くところでした。
ねぇね「おチビちゃん大丈夫? 頭打った?」
「大丈夫、ちょっと休んでいれば治ると思う」
ねぇね「そう? それじゃあ、今日は私たちだけで食べ物探してくるから、おチビちゃんは休んでいて?」
「ごめんなさいです」
ねぇね「いいのよ。あなたは小さいんだから」
おにぃ「そうだぞ。おチビは休んでな」
ねぇね「それじゃあ、行ってくるね?」
「うん。いってらっしゃーい」
突然前世の記憶がよみがえり、いろいろと整理する時間が欲しかったワタシは、優しい【ねぇね】と【おにぃ】の好意に甘えることにしました。
(とりあえず、こういうお話では、魔法とか、スキルとか、何かしら持ってることが多いよね?)
(それを確認するには、ステータス!)
そう念じると、目の前にパソコンの画面のようなものが現れました。
そこに表示されていた内容は、
名前:おチビ
種族:人族
性別:女
年齢:5歳
状態:栄養失調
魔法:【なし】
スキル:【想像創造】レベル1(1回/日)
こんな感じでした。
(ワタシのお名前、【おチビ】になってるし・・・)
(まあ、それはおいおい考えるとして、魔法は【なし】か~)
(魔法使えないのかな~、ワタシ)
(使いたかったな~、魔法・・・)
夢の異世界転生で魔法少女爆誕か? と思いましたが、残念ながら魔法は使えないようです。
その代わりといってはアレですが、スキルがあるようです。
(スキル:【想像創造】レベル1(1回/日)?)
(文字の意味的には、想像したモノを創り出せるのかな?)
(そしてこのスキルのレベルは1で、1日に1回使えるってことかな?)
(う~ん。とりあえず何か創ってみようかな?)
(でも1日1回っぽいし、大切に使わないとだよね・・・)
ということで、今一番欲しいモノを考えてみます。
(今のワタシは貧乏、この上なく貧乏です)
(ということで、創るなら、お金かな?)
(あれ? でもワタシ、この世界でお金を見たことがないかも・・・)
浮浪児のワタシは、お金に無縁の生活でした。
なので、今までお金を見たことがありません。
(見たことがないから、想像できないや・・・)
ということで、お金を創り出すのはあきらめ、別のモノを考えます。
(お金の次に欲しいモノは、やっぱり食べ物だよね~)
(何がいいかな~)
(といっても、この世界の食べ物なんて、今まで碌なモノ食べてないし・・・)
浮浪児のワタシには、欲しいモノを想像することも一苦労です。
(あれ? それなら、前世のモノを思い浮かべればいいのかな?)
考え方を変えて、ちゃんと思い出すことができる前世のモノを想像してみることにします。
(う~ん、何がいいかな~)
(おいしくて、お腹いっぱいになって・・・)
(あっ、ねぇねとおにぃの分も忘れないようにしないと)
(でもこのスキルは1日1回だから・・・)
(ということは、1個でたくさん食べられるモノじゃなくっちゃだよね・・・)
(よし、決めた!)
「それじゃあ、【想像創造】」
そう声を出して念じてみると、目の前に前世でよく見たものが現れました。
【無洗米 コシヒカリ 愛知県産 5kg 2,280円】
「やったー、お米ゲットだぜぇ!」
そんなことをしていたら、ねぇねとおにぃが帰ってきました。
ワタシのことを心配して、早く帰ってきてくれたのでしょう。
おにぃ「ただいま、おチビ」
ねぇね「おチビちゃん、ただいまー」
「おかえり~」
「ねぇね、おにぃ、これ、見て見て~」
「食べ物だよ~」
ねぇね「え? 食べ物? この不思議な袋が?」
「この袋の中身だよ~」
「お米っていうんだ~」
おにぃ「へー、それでこれ、どうしたんだ?」
「えへへぇ~、ワタシのスキルで出したんだ~」
おにぃ「スキル?」
「そうなの。ワタシ、スキル覚えたんだ~」
ねぇね「スキルで出したの? 凄いわね、おチビちゃん」
ねぇね「それで、これはどうやって食べるの?」
「えっとね、お鍋にお水と一緒に入れて、お水がなくなるまで煮るの!」
「そうするとね、ふんわり甘いご飯になるんだ~」
ねぇね「それじゃあ、さっそく煮てみましょうか」
ねぇね「お鍋とお水が必要なのね?」
「そうで~す!」
おにぃ「それじゃあ、オレは火を用意しとくよ」
そんな感じではじまった、異世界クッキングinスラム街。
ボロボロのお鍋に無洗米を入れ、そこにねぇねが魔法でお水を注いでいきます。
(ねぇねは水魔法が使えるんだね~)
(おにぃは火魔法かな?)
計量カップなんてありませんので、水加減は目見当。
キャンプの飯盒炊飯的な感じです。
あとはいつも使っている竈っぽくなっているたき火の上にのせて、炊き上がるのを待つだけです。
(はじめちょろちょろ中ぱっぱー♪)
しばらくすると、お米の炊ける幸せの匂いが広がってきました。
「う~ん、いい匂い~」
ねぇね「もう食べられる?」
「もうちょっと待ってね~」
そんなやり取りの後、ついに炊き上がったコシヒカリちゃん。
お米はちょっと柔らかく、なべ底は焦げ付いてしまいましたが、本当の意味で欠食児の3人にとって、そんな些細なことは全く気になりません。
各々のボロボロのお皿に盛り付けて、早速実食です。
「ん~ん。甘~い。美味し~」
ねぇね「はじめて食べるけど、甘くて美味しい~」
おにぃ「うん。美味い!」
ねぇねとおにぃがとってきた野草をおかずに、久しぶりにお腹いっぱいになったワタシたち3人なのでした。
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