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第二試練48 明音VS九装

「くっそ!硬ったいわね!」


明音の猛攻が止まり,一旦距離を取る.

額の汗を拭った後、口で大きく空気を吸って呼吸を整える。

目の前の九装は額に若干の汗はあるものの、息はほとんどどきれていない。


ずっと余裕そうな顔を見せてくるが,そのニヤついた顔に一発入れてやりたいと明音は思う。


「言っただろう。君では私には勝てない。そろそろ諦めて枷に繋がれてくれないか?」

「お断りよ!」

「やれやれ.私は手加減が苦手なんだが、殺してしまうとまずいし。腕の一本くらいは構わないかな」


九装の最後の呟きはこれまでと違って確かな殺気がこもっていた。

纏われていた薄紫色の魔力が,九装の足元から一気に溢れ出す。

魔力の流れは身体の周りを滞留し,着物でも羽織っているかと見間違うほど分厚くなっている。

そのまま手のひらを天井へ向け、浮かんでいた二つの魔方陣を飛ばす。


無窮脱咏むきゅうだつえい


言葉と同時に、二つの魔方陣が天井でぶつかり花火のように光の華を咲かせる。

粒子はより細かくなり、広間全体に降り注ぐ。


「よそ見をしていていいのかい?」


見たこともない現象に明音の動きが止まるが、脇腹から鈍い衝撃が伝わってくる。

隣には掌底を当てている九装の姿があった。


「くっっつ!!」 


よろけつつ,反射的に飛びのく。

光の華に目を取られた一瞬で九装に距離を詰められていた。

姿がほとんど見えず,何が起こったのか分からなかった。


明音は周りを確認し、九装の姿を探すが、


「ぐふっ!!痛ったいわね!!」


後退した先,今度は背中から衝撃が伝わってくる。

痛みで地面を転がりつつ,すぐに後ろへ振り向く。

そこには掌打の姿勢で止まっている九装がいた。


明音は即座に地面を蹴り,九装へ飛びかかる。


「ぐえっ!!」


今度もまた,後ろから衝撃を受けた。

よろけこそしたが,何とか地面に踏ん張る。

九装は確かに目の前にいた。それなのに背中から攻撃を受けた。


目で見えないほどの速さで移動し,背中を殴られた。

明音の身体は魔力が纏われ,筋力だけでなく動体視力も上がっている。

今の状態なら飛んでいる蚊でさえ動きを捉えれるが,九装の身体強化はそれほど強力なのか。


「明音先輩!魔術です!多分幻覚とか錯覚を見せるやつです!」


秋灯から言葉をかけられる。

ただいつもと違って,その声に違和感がある。感覚的にノイズがあるというか。

声が遠く,一部はっきり聞こえない。


明音は目をつむり,身体から魔力をさらに放出する。

足を止めたせいで、これみよがしに背中や腹など衝撃が襲ってくるが、分厚くなった魔力を鎧のように纏いなんとか耐える。


ーー痛みはいらない.目も耳も信用できない.なら、、


魔力の増加に伴って,感覚が研がれていく。

視覚と聴覚,もしかしたら他の五感も魔術に影響を受けているかもしれない。


明音は魔力を身体の表皮からさらに伸ばし,あたりに充満させていく。

自分の身体からでた魔力は一部,触覚の感覚に近い。


九装が何らかの魔術を使って姿を認識できないようにしているなら,魔力でもって認識すればいい。

石の広間全てに薄い赤色の大気が拡がっていく。


「いたぁぁああ!!!!!!!!」


獣の咆哮のように叫び突進。

広間の中央。枷の横に確かに人の形を確認した。

変わらず目で見ても何もないが,明音は構わず全力で殴る。

鋼を打ったような感触とともに,何もなかった空間に九装の姿が現れる。


「そんな力技で破られるとはね。これなら楽だと思ったんだけど」


九装は頬をかきつつ,驚いたような表情をしている。

一部,明音が殴った胸あたりの衣服が黒く変色していた。


「卑怯な手は通用しないわよ!」


明音は精いっぱい胸を張る。

ただ、何度も攻撃を浴び続けたこと、そして今の魔力放出ですでに身体が重たい。

何とか両腕を構えるが,全身が倦怠感に襲われている。


「いや案外効いてそうなんだけど。さて、ちょうど近づいてくれたし君の意識を刈り取って枷に繋ぐとしようか」


余裕の表情で九装が明音に近づく。

二人から離れた場所で終始おろおろしつつ,戦闘を見守っていた伊扇だが,ここに来て彼女の魔力が高まる。

両腕を頭上に掲げ,掌で大気を掴んでいるようなポーズを取る。

見ている先は九装。明音に近づけないよう風で吹き飛ばすつもりみたいだ。


「伊扇さん。大丈夫です」


秋灯は伊扇の後ろから彼女の肩を掴み,ゆっくり手で制す。

そのまま二人に近づき、一拍だけ手を叩く。

それは広間から階層全体に響き、九装の注意を引く。


これまで気配を消して静観していた秋灯だが,いよいよ二人の戦闘がーー予想通り,今の明音先輩では九装に歯が立たなかったーー決着しそうだったので,横槍を入れる。


「さて九装。ちょうどじゃれ合いも終わったし、誰が枷に繋がるか,本格的に話し合いを始めようか」


九装の不確かな術式.ゴブリン戦で活躍していた明音が手玉に取られるほどの強さ。

そしてまだまだ手の内を隠して強さの全貌もはっきりしない。

九装との戦闘は明らかに部が悪い。


それでも,秋灯の顔はーー笑いを噛み殺しているようなーー余裕のある表情をしていた.

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