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人の灯りが消えた世界で  作者: 糸間 ゆう
第二試練 白亜ノ塔
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第二試練37 16階 絶叫の間

16階 絶叫の間

《叫び声をあげた者 時間解凍-1》

伊扇すでにダウン.九装、秋灯なんともない.明音けっこう怖い


月が雲に遮られ真っ暗な林の中。

細い砂利道を歩くが、道の脇には崩れた墓石や倒れた地蔵が散乱している。

足元もほとんど見えないため、時折大きな石につまずきそうになる。

道の途中にある等間隔に並んだ灯篭がかろうじて道の先を示してくれる。


この階層は全体がお化け屋敷のようなつくりで、井戸や骸骨、墓地、廃病院などがあった。

気になって井戸の中を覗こうとしたら背中の伊扇が必死に首を絞めてきたので断念した。


課題の内容は叫び声を上げると時間解凍の回数が減っていく。

一度幽霊ーー白装束を着ていて、半透明の人ーーに遭遇した時,伊扇が腰を抜かしてしまった。

幸い驚きすぎて逆に声を上げなかったが、その場から動けなくなってしまった。

明音先輩に背負ってもらおうとしたら、伊扇と一緒にあわあわしていたので、秋灯が背負うことにした。


幽霊やミイラにゾンビなど。人型のギミックが多い。

しっかり動くので最初は驚かされたが特にこちらを襲ってこないし、辺りを徘徊しているだけだ。

お化け屋敷とかでも配置されている幽霊役の人が触れてくることはまずない.

秋灯と九装はなんとなくこの空間が人を怖がらせるために用意された物と認識してしまったため,結構冷めてしまっていた。


今は目の前で人魂のような薄緑色の光が浮かんでいるが,明かり代わりなってラッキーくらいにしか思えない.

秋灯と九装は遊園地にあるお化け屋敷など冷ややかな目で見つめて終わるタイプで,キャストの幽霊役に嫌われるのだろう.


「ふぉーふぉーふぉーふぉー」


背中の伊扇が首のやや下に顔面を埋め息をしている。

ダイレクトに首元に生暖かい息がかかってきてすごくむず痒い。


「伊扇さん.ちょっと首が締まってきてるから緩めて」

「はいぃぃぃいい,すみませんぅぅ」


伊扇のガチガチに固まった腕から少し力が抜かれる。

ようやく楽に息が吸えるようになった。


それにしてもと秋灯は考える。

伊扇は一個下の年齢だが、外見は中学生、もしかしたら小学生でも通る。

ただ、意外と年相応に成長している箇所もあるんだなと感じる。

どこというわけではないが,背中から伊扇のバクバクとした心音が伝わってくる。

それはつまり,身体の正面が秋灯の背中に当たっているワケで。

大きなアレも押し潰される形で服越しだが,当たってくる。


「なに考えてんのよあんた」


横の明音先輩が脇腹を肘で着いてくる。

叫び声としてカウントされないよう小声だが、その声は冷ややかだ。

秋灯は感情を悟られないよう,無表情でいたつもりだが目ざとくきづいたらしい。

明かりもないのにどうして表情に気づけるんだ.


「いや,あたりが真っ暗くて足元が見づらいし,怖いなーと」

「あんたの顔,口元がニヤついててキモいんだけど」


現役女子高生からキモいをいただいた.

面と向かって言われると結構傷つく.


「どうせ風穂野のその・・む,胸でも考えてたんでしょ」

「いえいえ、そんなことはないですよ」


歯切れが悪く、顔が赤くなっている明音先輩。暗くて分からないけど。

恥ずかしいなら口にしなければいいのだが、この人はけっこう初心だよなと思う。


秋灯は自分の動揺を悟られないよう、心を落ち着かせる.

思い浮かべるのは背中の二つの果実、ではなく自分の母親.

正確には《禄積の國》を出てから養子に出されたので義理の母親で,年齢的には祖母と勘違いされることが多い.


ただ,義理といえど数年共に過ごして世話をしてもらった.

しわくちゃの手に幼少期、傷ついていた心を癒してもらった.

秋灯の煩悩が母の姿に上書きされ一気に冷めていく.

エロと母は両立することはない.秋灯はそう実感した.


「えっと,明音先輩.脇をつねるのをやめていただけないでしょうか」

「つねってなんかないわよ」


秋灯が菩薩のような表情をしていると服の裾が肉と一緒にに摘まれる.

握力がすごくて脇の肉が捩じ切れるのではないかと思うほど痛い.


「いやほんと、痛いまじで痛い・・痛ぇって」


器用にも小声で悲鳴をあげるとようやく肉を摘むのをやめてくれた.

ただ,未だに服の裾を掴んでくる.


「もしかして明音先輩も怖いんですか?」

「こ、怖くないわよ.こんな作り物みたいな空間.怖いわけないでしょ」

「ちょっ、叫ばないでください.解凍回数減っちゃうんで」


見るからに動揺しているが、明音先輩は第一試練でーーまだ伊扇と出会う前くらいにーー人擬きと遭遇した時叫び声をあげていた。遠く離れた屋内にいた秋灯にも余裕で聞こえるほどに。

この階層では意外と平気な顔をしていたが、どうやら我慢していただけだったみたいだ。


「俺は今服の裾を摘まれても暗くて気づかないようです.なかなか目が慣れてきませんね」


秋灯のあからさまな独り言の後、服の裾がちょこんと摘ままれる。

普段の強気な態度と違って申し訳なさそうに摘んでいる姿は、ギャップがある.

しおらしい明音先輩の姿は触ったら壊れそうな何とも言えない儚さがあるが、実際に壊れるのはこっちだ。


「それにしても、、長いなこの道」


地面が歩きづらいこともあるが、それにしても長い。

明音先輩と話しつつも歩き続けていたが、そろそろこの林の中を抜けたい.

九装はさっさと先に行ってしまったので、出口を見つけてるといいのだが.


約30分後.ようやく秋灯たちは次の階層の扉を見つけた.

出くわすお化けや幽霊、妖怪などに伊扇は何度も叫びそうになり、その都度秋灯が口を抑えた.

明音先輩も服の裾を掴んでいたはずなのに、最後辺り直接肉を掴んできた

万力に潰されたのかと思うほど、秋灯の横腹は赤く腫れていた。


次の階層へ続く扉の横。

九装が片手を上げて迎えてくるがその姿にイラっとした。

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