表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/250

第二試練30 北側防衛3と赤帝空拳

「柵の近くには出てこないんじゃないのかよ!」


嘆きつつ銀甲冑のホブゴブリンの群れに近づく。

宿からくすねてきたナイフを五本取り出し、肌が出ている首の付け根を狙う。

走りながら投擲するが、こつんと軽い音がしただけで甲冑に全てはじかれる。


「ナイフ投げなんて練習してねーよ」


愚痴を漏らす。

楽に終われると高をくくっていたのに結局最後はこれである。


近づいたことで、ホブゴブリン全員がこちらを見る。

瓦礫を投げ捨て、身体をこちらに向けてにじり寄ってくる。

一旦注意を引くことに成功したが、この後どうするか。


西側で使っていた槍は走るのに邪魔だったので置いてきた。

魔術擬きの札は残っているが、明音先輩がいるこの場所では使えない。

魔力を使えば、にぶい明音先輩でも流石にばれる。


じりじり近づいてくる巨漢たち。

即反転して走りたかったが、今逃げると何匹か村に入ってしまいそうだ。


「あー逃げたい、帰りたい」


愚痴が止まらない。

ホブゴブリンが持っている棍棒で殴られれば一撃でミンチになる自信がある。

甲冑も硬そうで、魔術擬きを使ったとしても致命傷になるか分からない。

というかなんでこんな強そうな個体は出てきているんだ。

今まで甲冑の着たゴブリンなんて見たことがなかった。

今回の課題が順調すぎたから、試練の運営者、神様とかが調整をしたんじゃないだろうか。

それにしても最後の最後でこれは意地が悪い。


心の中で神に向かって毒づていると、群れの先頭にいた一体が草原を走り迫ってくる。

見た目からは考えられないほど速い。

肥満体形の癖にこれまでみたゴブリンの中で一番機敏だ。


「こっちくんなよ」


なげやりにつぶやく。


走りながら勢いよく棍棒を振り下ろしてくるが、身体を後ろに逸らしギリギリで避ける。

鼻先をかすめて風切り音が耳に響く。

そのまま後ろの四体も速度を上げて追随してくる。

これなら後退しても大丈夫そうだ。


棍棒を雑に振るホブゴブリン。後退しつつ躱す秋灯。

一撃一撃が致命傷になるそれを薄皮一枚で躱していく。

明らかに秋灯のほうが動きが遅いが、初動が少し早い。


《禄積の國》にいた頃、学んでいたのは魔術擬きだけではない。

魔術擬きは魔力が少なく、術式が使えない秋灯が奇跡に憧れて作った技術。

他の魔術師に対抗するため自分も魔術を使えるようになる必要があった。


ただ、なにも魔術だけが全てではない。

例え奇跡のような力が使えなくても魔術師を殺すことはできる。

國にいた頃も、そして今も何度も考えてきた。


自分より力が強く、早く、一撃が致命傷になる。

そんな戦闘をずっと想定してきた。


「赤帝空拳《縷々舞式》」(るるぶしき)


昔の友人から教わった体術。

それを自分が使えるようにアレンジした。

相手の筋肉の動き、棍棒を持つ手の握り、足運び、息遣いそれらを観察しながら次の動きを予測する。


ホブゴブリンの攻撃を肉薄して躱す。

手をそえ受け流し、わずかに後退。

後ろのゴブリンも走って近づいてくるが、適度に距離を取る。

埃でも叩いているように秋灯の身体はぎりぎりで躱し続ける。


明音先輩がいるこの場所で使いたくなかった。

ただ、魔力を使うよりはましだと判断した。


草原の奥では、明音先輩が順調にホブゴブリンを倒していっている。

感知した戦い方がバーサーカーじみていた気がするが、今は気にしていられない。


「はぁ、はぁ、はぁ、、」


徐々に呼吸が荒くなてきた。

筋肉が軋んで身体が重く感じる。

心臓の音がやけにうるさいのに、周りはゆっくり動いているように見える。

観察しすぎて、目も疲れてきたらしい。

自分より早く大きい身体。一撃一撃が自分を殺せる。

何度もひやりとして、背中には嫌な汗が噴き出てくる。


それでも躱す。逃げながら躱す。

地面を這って躱す。股をくぐって躱す。

地面を転がりながら躱す。身体を捻って躱す。

棍棒に手を添えて軌道を逸らし、ぎりぎりで躱す。

手のひらの皮膚が火傷のように擦り切れ、身体には徐々に切り傷が増えていく。


「はぁ、はぁ、、、今回はほんとに疲れた」


もうこんな戦闘はしたくない。

今度から後ろで見ていよう。

出来る限り《魔術擬き》も《赤帝空拳》も使いたくない。


「やっとか」


明音先輩がホブゴブリン15体を全てを倒しきって近づいてくる。

まだもう少し続けられそうだが、今の状態を見られるのはまずい。


大きく後ろへ飛びのいてから、ホブゴブリンに向けて再度ナイフを投擲。

今度は狙い通り、兜の隙間から目を串刺しにする。ナイフ投げが上手くなったかもしれない。


痛みで猪のような叫び声をあげているが、気にせず反転。

草原の奥、明音先輩の方向へ全力で走り出す。


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、」


陸上選手のようなきれいなフォームで草原を走る。

一拍置いた後、後ろのホブゴブリンたちがものすごい勢いで近づてくる。

筋肉もりもりの癖にすごく早い。


「やっぱり、早いな」


ヒグマは確か、50mを3秒で走れるらしい。

生物の教師がそんなことを言っていたのをなんとなく思い出した。

徐々にその差が埋まっていくが、目の前から赤い光が近づてくる。


「バトンタッチです明音先輩!」

「まかされたわ!」


明音先輩の手を打った後、草原に大の字に倒れこむ。

後ろで戦闘が始まるが、一瞬で一体目を倒した。

手刀で顔面串刺しってえぐいことするな。


さっきは15体全てを倒していたので、5体ならすぐに済むだろう。


「お疲れ様、俺」


疲労感で立ち上がれず寝転びながら戦闘を眺める。

我ながら今回はほんと頑張ったと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ