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人の灯りが消えた世界で  作者: 糸間 ゆう
第二試練 白亜ノ塔
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第二試練24 誰だって色々ある

「instant-bullet」


これで柵周辺にまで迫っていたゴブリンを全て倒し切った。

残りのゴブリンは草原の奥でまばらに出現してくるが,村人の体制も整ったため後は時間稼ぎに専念する。


結局東側の戦闘で虎の子の魔術擬きを大量に使用してしまった。ポケットに入れてある札は残り10枚もない。

一応鳴門市のホテルに作りかけの札が何枚かあるので,この試練が終われば一旦補充できるが、これから戦闘が増えると札のストックは簡単に尽きてしまう。


札作成にかかるコストを解消しなければ、何かあった時に本当に丸腰になってしまう。

自身の戦闘面の課題は今に始まったことではないが、自分の欠点ーー魔力量と術式構築ーーについて、いつも悩まされる。


「・・九装みたいに才能があれば」

「呼んだかい秋灯?」


紫色に淡く発光した九装が目の前に現れる。

周りに風も吹かせず急停止するが、一体どうやっているのだろう。


「やっと来てくれたか。遅いぞまったく」

「すまないね。これでも南側を手早く掃討したんだけど・・・どうやらまだ余裕そうだね?」


秋灯達の周囲は村人だけで、ゴブリンはほとんど見当たらない。

草原の奥には松明が見えるが、まだ近づいてくるまで猶予があった。


「ここの村の人たちと頑張ったんだよ。まじでギリギリの戦いだった」

「そうかい。てっきり私が到着する頃には追い詰められてると思ったんだけど、随分うまく立ち回ったじゃないか」


予定では九装の到着と同時に秋灯が北側に向けて出発するが、南側の防衛が予定よりもだいぶ早く終わったため全体的に時間を巻いている。

秋灯が北側に向けて出発するまで10分くらいは余裕がありそうだ。


「ところで秋灯。これを見て欲しいんだけど」


九装が自分の目元を指差す。

目の周囲には淡い紫色のオーラのようなものが纏われている。


「これは魔力の重点強化と言って、身体の一部の能力を強化するために使われるものだよ。例えば目に魔力を強く纏うと視力を上げることができる。ここからだとゴブリンの外見くらいなら簡単に見える」

「それが何だよ」

「そこに高くなってる丘があるだろう。あそこからならこの戦場を余裕で見渡せると思わないかい?」

「見てたのか?」

「途中からだけど、君がよくわからない紙を掲げて戦っている姿が見えたよ。魔術のようだけど、あれは一体何だい?」


整然と秋灯を詰める九装。

予想していたが、まさか本当に戦闘を見られているとは。

伊扇と違って気を許してはいけない人物だった。


「知らん」

「なら白峰嬢に私が見たことを洗いざらい喋ろうかな」

「お互いの秘密をこれ以上暴かないって約束はどうなったんだよ」

「暴くつもりはなかったけど、ハッキリ見えてしまったからね。流石に君油断しすぎだよ。それに私が橋を切断した人物だとバレたとしても支障はないさ。交友深度は諦めるしかないけど」


これまでの会話を察して秋灯の急所ーー白峰明音へ素性がばれることーーをついてくる。

魔術が得意だけじゃなく下手に頭まで回る。


「どんな技術なのか、それだけ教えてくれたらいいよ。そしたら黙っておいてあげよう」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」


苦虫を嚙み潰したような表情になる秋灯。これでは七階にいたときと立場が逆転している。

九装を詰めていた時はあんなに気持ちが良かったのに、詰められる側になるとたまったものじゃない。


「概要だけだ。・・・《instant-magic》ただの魔術擬きの技術だ」


渋々秋灯はポケットから《instant-bullet》の術式が書き込まれた紙札を取り出す。


「触るなよ。見るだけだ」

「これは?!なるほど。術式が書き込まれ、いや織り込まれているのかい?儀式魔術の応用かな。それにしてもこんなに小さく。そうか、あらかじめ魔力を込めているから君の魔力量でも扱えるのか」

「普通の魔術師はこの類の技術を嫌わないか?」

「そうだね。術師たちは三次元魔術より下の次元で組まれる術式を軽視する。正確には術式を物質的な何かに書き記すことを嫌悪している。これは昔から根深い差別意識みたいなものだけど、正直私はどうでもいい」


目を輝かせながら九装は紙札を眺める。

ギリギリまで顔を寄せているが、律儀にも触れてこない。


「なるほど、すごいな。ここの積層の技術で立体術式を再現しているのか。インクには血が含まれているっぽいね。そうか血を媒介にして魔力を溜め込んでいるのか。この紙片も特殊な・・」


九装の呟きが止まらない。思った以上に食いつきが良くて意外だった。

これまで出会ってきた魔術師、幼少期に出会った大人の魔術師は秋灯の考えた魔術擬き《instant-magic》を嫌悪した。

先人の残してきた経典魔術への冒涜だと言うものや、無能の癖に奇跡を扱おうとするなと罵る者もいた。


魔術師の大家である九装が自分が研究してきた魔術擬き《instant-magic》を称賛してくれるのは少し嬉しかった。


「これではますます君が気になってしまうね。どこの生まれとか、どうやってこの技術を研究したのか、洗いざらい教えてくれたりしないかい?」

「お前が隠していることを全部話すなら検討してやる」

「検討か。確約してくれるなら私も全てを明かすが・・まぁ今日のところはこれくらいで満足しておこうかな」


一頻り秋灯を詰められたことに満足したのか、九装は紙札から顔を上げる。


「とりあえずこれで七階でしてやられたことは返せたかな」

「お前、意外と根に持つのな」

「当たり前さ。九装家たるもの誰かに軽んじられることがあってはならない。負けたのなら二倍に返して勝たねばならぬってね。」


そんな家訓は面倒くさそうだが、九装自身が負けず嫌いなだけな気がする。

九装に詰められていると、そろそろ移動しなければいけない時間になる。

一応九装に西側の戦闘、ゴブリンの倒した数や村人の配置、避難先について説明しておく。


「これは興味本位なんだけど、どうして白峰嬢に黙ってるんだい?君の口ぶりだと伊扇嬢にはバレてもいいのだろ?」


ざっくり説明を終え、北側へ移動しようとしたが、最後に九装が聞いてくる。

いつもと違って今回はやけに突っ込んだことを聞いてくる。


「それを暴くつもりなら、俺は本気でお前と戦うよ」


言い残して北側へ向けて走り出す秋灯。

いつもの淡々とした雰囲気が崩れ、どこか情けない顔をしていた。


「やれやれ。どうやら踏み込みすぎてしまったかな」

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