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人の灯りが消えた世界で  作者: 糸間 ゆう
第一試練 終末紀行
50/205

㉚転送介入

周りを見渡すが人が一人もいない。

明音先輩と伊扇も同じように飛ばされたはずだが。


「おーーーーーい、誰かいませんかーー」


あまりにも静かすぎて、自分の声がとてもよく響いた。祝賀会の場所は本当にここなんだろうか.

朱色の柱と平たい瓦の屋根、神々しさを感じさせる神社のような建物。

空は薄い青色で本殿以外の場所は地平線まで続く海が見える.


足元はくるぶしまで水に浸かっていたので、秋灯はとりあえず本殿へ上がる。

床板を濡らしてしまうことに躊躇いつつ、長い廊下を進む。

観賞用なのか石畳の小道や美しい庭園が神社の内部に作られている。


秋灯はぼんやりと眺めつつ、現状を考える。

もしかしてすでに第二の試練が始まっているのだろうか。

この迷路みたいな神社から抜け出すとか。


腕を組み悩みながら進んでいると開けた場所にでる。

秋灯の前には床板よりわずかに高く作られた舞台があった。

そしてその中央。舞台の上に白い猫が鎮座していた。


ここにきて初めて生物に出会えたことを喜ぶが、得体が知れないので一応観察してみる。

白い猫は目を伏せたまま全く動こうとしない。

もしかしたら置物かもしれない。


秋灯は数段ある階段を登って舞台へ上がる。

なんとなく足音を殺してそっと近づく。


近くでみると毛並みが綺麗で、光を反射している。

この神社で飼われているのだろうか。


秋灯は撫でたい欲求を我慢できず猫に手を近づける。

手の甲で頭にそっと触れるが、特に逃げるそぶりを見せない。

置物かと思われた猫は体温が感じられ、確かに生きている。


秋灯は床にあぐらをかき、猫の首をわしゃわしゃを掻く。

存外気持ちよさそうなそぶりでこちらの手に体重をかけてくるのでそのまま撫で続ける。

白猫はゴロゴロとなきながら秋灯の膝の上にジャンプした。


「こんなよくわからない場所にいるくせに、人懐っこい猫だな」


膝の上で丸くなったので今度は背中を撫でる。

一瞬びくついたが、ふみゃーという鳴き声とともに力が抜けていった。


5分くらいぼーっと撫で続けていると、音もなく黒い猫が秋灯の横に座っていた。

こちらの猫は白猫と違いある程度の距離から近づいてこない。

ただ、秋灯の顔を凝視してくる。


一応手招きして呼んでみるが、黒猫はためらうそぶりを見せ近づいてこない。


「ほらおいで。怖くないよ」


もう一度呼んでみると黒猫がためらいつつ近づいてくる。

頭を下げたのでそっと撫でる。


そういえば昔こんなことがあったような。

秋灯は自分の過去を思い返すがそれらしい場面を思い出せない。

ただなぜだろう。記憶ではなく感情がこの光景を懐かしいと言っている。


「悠久の日々の中。またお会いできたこと大変嬉しく思います」


黒猫の声が耳に届いた瞬間、秋灯の意識が暗転した。


「・・・・もう少し続けても良かったのじゃ!」

「姉君自重してください。嬉しいのは分かりますが、これがバレるとまずいです」


遠くなる意識の中、二匹の猫が二足歩行で喋っている姿が見えた気がした。

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