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人の灯りが消えた世界で  作者: 糸間ゆう庵0358
第三試練 刻々ノ壁
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第三試練41 見てはいけないモノ

天井板の綺麗な木目と部屋を横断する太い梁。

部屋の内装と井草の匂いが昨日まで使っていた忠邦の屋敷を彷彿とさせる。

ただ、窓の外は暗闇の中にぽつぽつ明かりがついていて、すごい静かだ。

真っ暗で虫の声がうるさかった伊扇の里とは違う。


「戻ってきたんだな‥‥」


布団から起き上がり、窓の横に置かれている丸椅子に座る。

伊扇を隣の客室に運んだ後、秋灯も気絶するように眠った。

壁の中でも眠ったはずだけど、泥の上ではあまり休まらなかったみたいだ。

今の時刻が夜中の三時。まだ起きるには早すぎるが、全然眠くない。


「先輩の顔でも見に行くか?」


天使に急かされたこともあり、さっきはあまり話せなかった。

刻々ノ壁で何を見たかも含め、もう少し無事な顔を確認しておきたい。


ただ、流石にこの時間はないか。

あの部屋には天使もいるので、追い返されそうだ。

とりあえずお見舞いは、日が登ってからにしよう。


「病気じゃないなら‥‥」


白神の話だと、明音の今の状態は病気じゃないらしい。

青白い顔とダルそうにしていることから、何かしら病気の症状だと思っていた。


治ったと思っていたが、なんで今更ぶり返したのか。

魔力の扱いも随分慣れてたはずなのに。


やはり、壁の中で何かを見たのか。

少しでも昔の記憶を思い出したのか。


「‥‥悩んでも仕方ないか」


色々気になってきて、更に眠れる気がしなくなった。

部屋の中を物色するが、備え付けの冷蔵庫は空っぽ。

隣に電気ポッドはあるが、水が無い。


秋灯は部屋を出て、一階へ降りる。


「何か飲み物は、」


エントランスを見渡すが、特にそられしいものはない。

売店も自販機も置かれてないみたいだ。


「中のほうかな?」


奥の厨房へ向かうが、なんとなくごそごそした音が鳴った気がした。


「‥‥‥‥‥‥‥」


調理台と大口のコンロ。流しや電子レンジなど。

見た目和風の旅館でここだけ銀に統一された厨房の風景。

その中で、業務用冷蔵庫を開けて食材を食べている明音がいた。


――――――――――――――――――――


「なにしてんすか?」

「‥‥‥‥‥」


胡乱な目で見る。


病人の癖に素早く食材を仕舞う。

流しの横に置いていたマグカップを手に取り、無言で厨房を出る。

エントランスに置かれている椅子に座り、窓の外を見上げ、そして。


「あら秋灯。こんな夜中にどうしたの?」

「無理があるだろ」


なんでいけると思った。


「お、お腹が空いたのよ!」

「なんでこんな時間に」

「目が覚めちゃったの!守位がいなくなってたから今しかないのよ」

「しゅい?」

「天使の名前よ。自分で守位天使って言ってたじゃない」


そこ分けるモノなんだろうか。


「昼間は寝てろって言われるし、ずっと横にいるし、監視してくるし」

「ちゃんと看病してくれてるんですね」

「それにあいつが来てから、ずっと、、」


わなわな震えだす明音。

何か不満でもあるんだろうか。


「ずっとお粥なのよ!味は薄いし、量は少ないし、もっと精のつく食べ物が食べたいのよ!」


あの天使。看病と言っていたが、食事もきちんと気にしているらしい。

ずっと病院食を食べさせられていたわけか。


「でもそっちのが身体には良いんですよね」

「ま、まぁだいぶお世話になってる自覚はあるわ」

「というか先輩。身体は?動いて大丈夫なんですか?」

「ええ。もうほとんど大丈夫。あんたとか、守位が大げさなのよ」


見た目普通に動けている。

昼間見た時と随分違う。


「とりあえず一旦部屋に戻りましょう」

「寝るのは飽きたわ」

「横になってるだけでいいですから」

「ならここでいいでしょ」


エントランスの幅広なソファの上にゴロンと横になる。

これは梃子でも動かなそうだ。


――――――――――――――――――――


毛布にくるまりながらスープを飲む明音。

あれから厨房で適当に食材を見繕い、野菜マシマシのコンソメスープを作った。

天使に見つかったら怒られそうだが、刺身やお菓子をドカ食いされるよりましだろう。


一月も終わりかけているが、まだまだ夜は寒い。

旅館の浴衣一枚だった先輩に毛布を渡し、一応暖を取ってもらう。

もう少し自分が病人だという自覚を持ってほしい。


「美味しい‥‥ちゃんと味がするわ」


これでもだいぶ薄味にしたが、それでも明音は嬉しそうに食べている。

よっぽど天使がつくる食事はストイックだったみたいだ。


「それはなにより。天使には黙っていてくださいね」

「分かってるわ。あいつ怒ると怖いし」


二週間余り一緒にいて、仲良くなったみたいだ。

少し寂しく感じてしまう。


「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」


無言で食べ続ける明音と、自分様に温めたココアを呑む秋灯。

長い間が空く。

壁の中のことを聞いてもいいのか、どうしても躊躇ってしまう。


「秋灯は、、壁の中でどうしてたの?」

「俺はほとんど風穂野さんのお手伝いですね。救難信号がきたので」

「けっこう大変だったみたいね」

「そうですね。幻覚というよりは一つの世界みたいな感じだったんで。出るのに苦労しました」


寝ている間に伊扇と話をしたのか、事情を知っているみたいだ。


秋灯が本当は魔力を使えること。魔術を使えること。厳密には魔術擬きだが。

それらを明音には一切伝える気はない。

伊扇にも入念にお願いしていた。


「また無理したんでしょ」

「いえ、ほとんど何もしてないですよ。風穂野さんが頑張っただけです」

「でも風穂野はあんたがいなかったら、出られなかったって」

「それは言いすぎですよ。ほぼ一人で解決してましたし」


伊扇の里に関しては、結局彼女一人で解決したようなものだ。

秋灯は清継に捕らえられ助け出されたし。

強いて意味があったとすれば、その後の事か。


「呼び方。変えたのね」

「‥‥‥‥えっと、他の人もみんな伊扇の名字だったんで。紛らわしいかなと」


気まずい。

呼び方に大した意味は無いのだけど。


「あんたは、、自分の幻覚は見なかったの?」

「あいにく俺には願いが無いですから。迷路も一本道でしたよ」

「それはうらやましいわね。私は何日も迷ってたわ」

「先輩は、何か見ましたか?」


ずっと聞きたかったこと。

ただ、見た物によって今の関係が壊れてしまうかもしれない。


「あんたには話したわよね。昔の記憶が無いって」

「はい」

「多分それに関係するのを見たわ。すっごい田舎の映像」


やっぱり見ていたのか。


「山奥なのにすっごい広い場所で。建物も古いんだけど、でも立派なのもあって。まるで一つの國みたいで。そういえば江戸城みたいなのもあったわ」

「ほんとに昔の記憶なんですか?今の時代そんな場所ないと思うんですけど」

「分かんないわよ。でも、少し懐かしかったのよ。覚えてないのにね」


珍しくしんみりしている明音。

秋灯は平静を装っているが、内心焦りまくっている。


「でも途中で消えたり、崩れたり。昔のテレビの砂嵐みたいで良く見えなかったのよ。トラウマらしいトラウマも見なかったわ」

「そう、ですか。記憶は戻ってはないんですよね?」

「そうね。少しは思い出せそうだったんだけど、今はそれも感じないわ」


今の明音は壁に入る前と性格が変わっていない。

もし記憶取り戻していたら、少しは性格に影響するはずだ。


「何はともあれ、お互い無事クリアできて良かったです」

「そうね。というか私一人でクリアできたんだから、褒めなさいよ」

「いや、みんな一人でクリアしてますよ」


概要しか聞いていないが、でも明音が普段通りで良かった。

ただ、記憶が戻っていないことに少し寂しさも感じていて。


秋灯自身、今の明音をどう思っているか、良く分かっていない。


「あんた壁に入る前すんごい心配してきたじゃない」

「まぁ、そりゃあ心配になるというか、普段の姿を見てるんで一人は心配というか、」

「でも救難信号も使わなかったし、自力クリアよ、自力」

「はぁ、」

「だ、か、ら、褒めなさいよ」


押しつけがましい。


「へぇ‥‥すごいすごい」

「もっと心を込めろ」

「よく頑張りました!」

「上から目線でむかつくわね」

「どうしろと」


なんだろう、素直に褒めてもいいのだが、なんかなぁ。


「先輩すごかったです!流石先輩です!」

「後輩面すんな」

「偉かったです。頑張りましたね」

「きもっ、」


言い方を変え決め顔で褒めるが酷い返しだ。

ただ、いつもと変わらず話せることが嬉しかった。

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