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人の灯りが消えた世界で  作者: 糸間 ゆう
序章 停止した世界と試練の宣告
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序章⑩ 天使に相談(90億分の一)

心をざわつかせた神の宣誓と、事務的な天使の説明。

黄金の柱については最初から見えていたが、それでも立て続けに超常的な現象が起こりすぎた。

今の出来事を受け止めるまで時間がかかったが、ようやく頭が動き出してきた。


柱の光量が落とされ、空に舞った光のガラス片も霧散した。

苑内に降り立った天使たちは、江戸城跡地の天守台の回りや花弁を模された桃華楽堂の方で待機している。


茫然としていた参加者の中から、ちらほら動き出す者が出てくる。

reデバイスと呼ばれる携帯機器の画面を点け、試練の規定を読みだす。

それに倣う様に他の参加者もデバイスの操作を始めた。


「白峰先輩。混まないうちに行ってきます」

「私も一緒に行くわ。あなたを保護してもらえるよう頼まないと」


この中で唯一の部外者である秋灯。

先輩は条文を読みだしていたが、付き添ってくれるらしい。

周りの参加者の一団を抜け、天守台の方へ向かう。


石垣の前で待機している天使は作り物のように美しく、そして表情がない。

声を掛けるのに躊躇するが、試練の参加者ではない秋灯の事情を聞けるのはこのタイミングしかない。


「すみません。試練の条文と関係ないんですけど、質問いいですか?」

「はい。この場において許されている範囲内でしたらお答えさせていただきます」


目を閉じたまま表情を変えず返答してくる。

金髪美女の無表情って迫力がある。


「一週間前に人とか建物の時間が止まったと思うのですが、俺はなんでか止まらなくて。夢でお告げを見た覚えがないし、願いも特に思いつかないんで試練の参加者じゃないと思うんですけど、その場合どうなります?」

「時間の凍結が実行されなかったのですか?」

「多分?そうです。変な砂嵐の音は聞こえたんですけど」


微動だにしなかった天使の顔が歪む。

瞑られていた目が開かれこちらを凝視してきたので、それにびっくりする。


「神の威権に該当しない人間がいた?そのような事例は聞いたことがないですが‥‥少々お待ちください。天使長に確認致します」


意味深な言葉をつぶやいた後、翼を羽ばたかせ金髪天使が飛び去っていく。

上空に浮かび続けている天使に近づくが、どうやら先ほど説明をしていた黒髪の女性が天使長らしい。


待つこと二十分。


天使長も他の誰かに確認していたようで時間がかかった。

耳元に手を当て喋っている姿が見えたが、天使長の上の地位ならさっき宣誓をした神様とかだろうか。


「お待たせ致しました。今確認が取れましたが、どうやらあなた様が言っていることは本当のようです。こちらの不手際で時間凍結が実行されず、大変申し訳ございません」


秋灯の前に降り立った天使長が深々と頭を下げてくる。

ただ、周りの参加者がざわざわしているので止めてもらいたい。


「顔をあげてください。こちらの白峯さんに助けていただいて、なんとかなりましたので」


横にいる明音を手で示すが、なぜか腕組みをしたまま固まっている。

話に入ってこないと思ったら、天使に緊張しているのか。


「一歩間違えれば生命が危ぶまれた事態です。今回の出来事を受けまして現界において、資格保持者以外の精査を今一度行わせていただきます。また、あなた様が保護を希望されるのであれば、神の名のもと隔衛世界にて他の人類と同様の保護をお約束させていただきます」

「保護される一択じゃないんですか?」

「保護も選択肢の一つです。ですが、あなた様は現時点におきまして、時間凍結を逃れ神の埒外を起こした人物です。現時点の精査ではありますが、九十億人の内一人だけとなっております」


それを聞くと、悪い気はしないが。

思ったより大事になっていそうで怖くなる。


「偶然か必然か、もしくはどこかの神の戯れか。いくつか要因は推測できますが、時間停止後他の参加者の助力を得てこの場にたどり着きました。それにより試練を受ける資格ありと判断をさせていただきます。望むのであればこのまま試練に参加していただくことが可能です」

「そう、ですか‥‥‥」

「本日零時までに、他の参加者と同様そちらのreデバイスに試練参加の可否をお示しください」


デバイスに記載されていた条文は一通り目を通したが、試練に参加するのはリスクが高い。

死ぬような危険は勿論あるだろうし、輪廻の巡りから外れるという不穏な一文もある。


今ならまだ、一週間前の日常に戻ることが出来る。


秋灯には世界を変えたいと思うほどの願いはない。

明音のように世界を良くしたいという意志もないし、自分の手が届かない範囲のことは他人事としか思えない。

これまで生きてきて、自分のことだけで手一杯だった。


ただ、秋灯にも願いはあった。

世界を変えたい願いに比べれば、ちっぽけで身勝手な願いだが。

秋灯にとっては、どうしようもないほど大切で強い願いが。


「‥‥‥‥‥‥‥‥」


黒髪の天使が一礼したあと再度上空に飛び去り、他の参加者の質疑で周りが煩くなっていく。

明音も聞きたかったことがあったのか、他の天使に質問をしに行った。

一人残された秋灯は、喧騒から逃げるように広場を離れた。

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