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タヌキか?
煙をはいた女は、ヒコイチの言葉にうなずくような、おじぎのような、ゆっくりとした動きで、頭をさげる。
顔をあげると、微笑んでいた口をまたほそくして、ふううう、っと白い煙をはいた。
この女が、山の化け物ということはなさそうだった。
意味がなさそうで不気味なこの状況も、獣が人を化かすのに、おもしろがってつくりだした『コワイモノ』と、いったほうが合ってそうだ。
「 ああ、 おめえ、タヌキか?」
いくぶん、気がおおきく楽になったヒコイチが、一歩近づく。
茸の《中の女》が、微笑んだまま、てまねいた。
「いいや、おれはもうこれ以上寄らねえさ。 おめえがタヌキかキツネなら、人をだまして笑うためにやってるんだろ? ここが山じゃなけりゃあ、おれが肥溜めに落ちるよう、そこにしかけてくるはずだ」
見抜いているのだというようにわらってみせる。