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煙を吐く
すると女は、またお辞儀のようになんどか頭をさげてから、口元へ、片手をやった。
まるで、内緒話をするような、手の添え方だ。
近寄ろうかといっしゅんおもったが、どうにか耐える。
「 ・・・なにか、おれに言いてえことが、あるかい? 」
たすけて、ほしい、と言われたら、どうすればよい?
助けた途端、やはり、山の化け物みたいのが現れたりするのか?
じいさんに気をつけろといわれた、モノノケの罠か?
女は、まだほほえんだままで、ゆっくりとなにかしゃべりだそうとするように、口もとがほそまってゆく。
じっと言葉をまっていたら、その口が、
ふうううう、っと、 ―― 煙をはいた。
「 っ!? ・・・こりゃ ・・・・・煙草か?」
とびすさったが、吐かれた煙は茸の網目をもれでると、すぐに山のなかに消えた。
真っ黒なものでもなく、こわいぐらいの量でもない、しろく、すぐにとけてなくなるその煙は、ヒコイチもよく知る、普通の煙草のけむの匂いがした。