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近道
街道を伝い、人が集まる場所にゆき、気楽そうな仕事をみつけてどうにか過ごす。
街でなくとも、おおきな田や畑のある場所があったら、農家に直に、手伝いを申し出て、代わりに宿と飯を世話になった。
そういう暮らしをしていたとき、大きな街道からはずれた道のほうが、山をはやくまわれることがあるのを、何度か試して知っていたヒコイチは、『その山』を、超えるときにも、ほそく山へ入ってゆくほうの道をえらんだ。
たいてい、どこの山でも、はいりくちとおもわれるところに、《番神様》の石像があるものだ。
大きな街道沿いはもちろん、地元の者しかしらないそういう細い道にだって、いや、地元の者しかつかわないからこそ、《山の神様》と人をつなぐその神様には、供え物がされたり、祠におさまった《番神様》がいるものだ。
なのに、その細い道には、最初のどこにもそれが見当たらず、 ―― もっとはいってからあるのだろうと、足をすすめてみれば、
―― もうすっかり、山の中へとはいってしまっていた。