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『お気をつけなさって』
ヒコイチは、じりじりと下がりながら、戸口をふりかえった。
ありがたいことに、出口はすぐそこにある。
陽にあたった、モミジもみえた。
「 それじゃあ、おれはこれで山をおりるんで。世話になりました」
相手を刺激しないよう、つとめて平坦で、なにごともなさそうな声をだしてみせた。
囲炉裏のむこうに座ったまま、ユキゾウはどこか遠くをみたままの顔で、ああ、とだけこたえ、あたらしくつけた煙管をもちあげると、口ではなく、―― くびの横に吸い口をつけた。
「 お気をつけなさって 」
なんだか女のような高く小さな声がどこからかすると、まるで、ユキゾウの背に隠れていたように、首のうしろから、 ―― ゆっくりと、拳の大きさほどのまるいものが、のぞきだした。
ヒコイチはそれを、どうやら人形の頭だ、と思ったのに、
―― その人形は、女の顔をしていて、ぽかりとあけた小さな口を、煙管の吸い口とつなげ、 ―― すぐに、ほあり、と煙を吐いた。




