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山神様と番神様
《山の神様》というのは、ヒコイチがおもうに、その山によってかなり気性が変わるのだ。
ヒコイチが育ったところの《山神様》は、おもうに、穏やかなのだと思う。
子どものとき、《番神様》にあいさつして、川で釣りをしようとはいって迷ったとき、きこえるはずのない、じいさんの呼び声が聞こえてきて、どうにか山をでられたことがある。
じいさんのにはこっぴどく叱られたが、山にはいることは禁じられず、《山神様》と人間をつなぐという《番神様》に、それから毎日、二人でお参りするようになった。
石でできた、地蔵さんともちがう、ずんぐりとしたかたちのその《神様》は、ずっとむかしほんとうに村にすんでいた人のかたちであるのを後に知った。
今思い出すと、あの《番神様》は、じぶんの流しの物売りの『元締め』である男によく似ている。
ヒコイチは、いまは売る物をかついで、街中をあるいてながす商売をしているが、当時はまだ、ひとところにとどまる暮らしはしていなかった。