妻は『とられた』
「・・・情けないことに、妻をほうりだしました。水っぽく重く、骨もなくぐしゃりとしたそれが、このうえなく気味悪くて・・・」
ユキゾウは、煙管を片手にわらう。
「・・・あの、ユキゾウさん、 ―― さっきのもそうだが、モノノケの類じゃあなく、タヌキなんかに、化かされてるってことはねえかい? あんたが、嫁さんをさがしてるのを見てたらなおさらありそうだ。 おれも山で育ったから、そういうはなしはいくらも知ってる」
「ああ、そうか。 ―― タヌキなら、よかったな。 だが、 ・・・そこからは何もなく、季節がめぐって、またモミジが色を変えるころになったら、 ―― あの茸が、はえたのですよ」
妻をかこった、ばけもの茸が、妻を中にいれたまま
「 ―― そこでようやく、妻を、その茸に『とられた』のだと気づけましたが・・・、妻をとりだそうとすれば、また、茸は粉をふいて妻といっしょにつぶれる。 これをいくらかくりかえした何度目かのときに、 ―― あの茸のそばに、知らない男が立ち、手にした木の枝を、網目にさそうとしているのが見えました」
あわててとめたがおそく、茸はいつものように粉をとばしてつぶれた。